Tous les chapitres de : Chapitre 51 - Chapitre 60

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白黒グレー①

 一月も残すところあと六日となった平日、元気な声がまたやってきた。「お疲れさーん」 あいかわらず無精髭を生やした鯉川宗吾だ。 パソコンの画面とにらめっこしていた久我健人は、はっとして顔を向けた。「鯉川さん、お疲れ様です」「今日はおじさん、機嫌がいいから、みんなに差し入れしちゃう。インポケさんでパウンドケーキを買ってきたよ」 と、鯉川は笑顔で手にした袋から個包装されたパウンドケーキを取り出し、久我へ差し出す。「ああ、ありがとうございます」 久我が受け取ると、鯉川は後ろを振り返って神崎寿直へ近づく。「今いるのは神崎ちゃんだけか。何味がいい?」「チョコ、ありますか?」「はい、どうぞ」「ありがとうございます」 神崎が受け取りながらにこりと笑い、鯉川は不在の二人の机へ適当にパウンドケーキを置いた。「で、久我ちゃんどうした? なんか暗い顔してないか?」「ええ、ネット相談の返信で悩んでいるんです。本来であれば、警察へ相談するべき案件というやつで」「見ても大丈夫そう?」「鯉川さんならいいですよ」 久我の返答を受けて鯉川が椅子の横に立ち、画面を見る。「あー、脅迫か。確かにこれは警察だね」「そうでしょう? でも、うちへ相談してきたんです。ということは、きっと何らかの事情があるわけです」「事情によっては介入したくない、ってか」「一応、元警察官ですから」 と、久我は苦笑した。 万が一、依頼人が法に反する側の人間であった場合、元警察官として超えてはならない一線であるだけでなく、探偵事務所の信用にも関わる。 すると鯉川は言った。「じゃあさ、それ俺に回してよ」「え? 鯉川さん、受けるんですか?」「ああ、フリーの俺なら自由が効くし、失うものもないからな」 と、にかっと笑う。「けど、久我ちゃんの気が進まないってんなら、ひとまず、くわしい話を聞きに行くのはどうだ? 俺同
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白黒グレー②

 間遠桜の腫れた頬を見て、久我は眉をしかめてしまった。「どうして正直に話してくれなかったんだ」「話したら、絶対に止められると思って……」 と、間遠は視線をそらす。 神崎が水で濡らしたタオルを持ってきて、そっと間遠へ差し出した。「当然だろう? 依頼人の息子が監禁されていると分かった時点で、警察へ知らせるべきだった」 久我は心配のあまり、少々口調が荒くなってしまった。 一方で間遠も気まずそうに言い返す。「確実な情報じゃなかったんすよ。だから、監禁場所に確かめに行ったんです」 たまらずに久我はため息をつく。「不確実だとしても、一人で潜入していい場所じゃないだろう? 殴られただけで済んだのが信じられないくらいだ」「久我さんは知らないから、そんなことが言えるんですよ。あの子が半グレと関わるようになったのは……」 彼の言葉をさえぎるように、久我はがたっと席を立つ。 そして間遠と真正面から顔を合わせた。「君が優しいのは知っている。だが、時々深入りしすぎるんだ。どうか今後は気をつけてくれ」「……はい」「それと、どんな些細なことでも、僕にきちんと報告するんだ。いいな?」「すみませんでした」 間遠がうつむき、久我はそっと彼を抱き寄せた。「分かってくれたならいいんだ。もうこんなことはするな。間遠の可愛い顔に傷がつくのは許せない」 間遠が耳まで赤くなるが、久我はふと気づいた。「いや、たとえ傷跡が残ったとしても、君の可愛さがそこなわれるわけじゃないか」「所長、間遠さんを離してあげてください。今にも倒れそうです」 神崎の声にはっとして間遠を離すと、彼は頬にタオルを当てたまま、給湯室へと逃げこんだ。「久我さんのバーカ!」 と、震えた声で叫びながら。 久我は呆然と見送り、神崎が呆れたように言う。「お二人、本当に付き合ってます? 以前と何も変わってませんけど」
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白黒グレー③

 鯉川から買い取った機材のリストを作成しながら、神崎は言った。「やたらいろいろありますけど、結局、鯉川さんって何をしている人なんですか?」 久我は手を止めてそちらに視線をやる。「プロの盗聴器発見業者だ」「それならノートパソコンが四台もあるのは何故ですか?」 すかさず疑問を返されて、久我は困った顔をする。「確か、元々はホワイトハッカーだったはずだ。それで今は盗聴器発見業だけでなく、いろいろやっていて」「そのいろいろが気になるんです。明らかに犯罪スレスレの機材もまざってますよ、これ」「悪いことに使わなければ問題はない」「そうでしょうけど、黒に近いグレーじゃないですか。大丈夫なんですか、あの人」 と、神崎は疑わしげな表情だ。 ちょうどその時、鯉川が戻ってきて、事務所内の空気を敏感に察知した。「おじさんがコンビニに行ってる間、何かあった感じ?」「いえ、神崎が鯉川さんは何者なのか、知りたがっているだけです」「何か興味津々みたいな言い方ですけど、おれはただ、機材リストを作成している中で、怪しいものがたくさんあるなと思っただけです」 神崎が訂正し、鯉川は間遠の向かいに設置された自分の机へ向かう。そして椅子を引き、買ってきたばかりの履歴書を袋から取り出しながら返した。「おじさんはね、元々ホワイトハッカーだったんだ。大手セキュリティ企業でデジタルフォレンジックなんかをやってた」 聞き慣れない言葉に神崎が首をかしげ、気づいた鯉川は言い換える。「平たく言えば、ハッキングされてないかどうか、徹底的に調べるってこと」 神崎は興味を惹かれたのか、感嘆した。「へぇ、それを仕事でやってたんですか?」「うん、そう。でもさ、俺はもっといろんなことがやりたくなったわけよ。 例えば、メインでやってた盗聴器発見業。これが始めてみると楽しくてねぇ」 と、鯉川は愉快そうに笑う。「単価は二万円からにしてたけど、やっぱり盗聴されるって怖いことだからさ。支払いをしぶる客って、あんまりいないんだよ。 で、一ヶ月に十件や
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番外編バレンタインデー:神崎編

『お菓子作り得意だったよな? バレンタインデーに何か作りたいんだけど、教えてもらえるか?』 夕食後にそんなメッセージが届いたのは、二月の初め頃だった。相手は同僚の間遠桜だ。 神崎寿直はすぐに返信した。「所長へ渡すんですか?」『当たり前だろ!』「それじゃあ、おすすめのサイトを教えますね」 と、レシピサイトのバレンタインデー特集ページのURLを送った。 スマートフォンをテーブルへ置くと、相楽浩介が声をかけてくる。「何かありましたか?」「うん、間遠さんがバレンタインデーに手作りしたいって、相談してきたんだ」「へぇ、手作り! いいですね!」「浩介も作る?」「いいんですか? っていうか、自分でも作れるものなんでしょうか?」 首をかしげる彼へ、神崎はにこりと微笑んだ。「今はいろんな手作りキットが売ってるし、初心者向けのものもたくさんあるよ。よければ今度、一緒に見に行こう」「わあ、楽しみです!」 相楽がにこにこと嬉しそうに笑い、神崎もくすりと笑みをこぼす。「今年も作るつもりだったけど、浩介にあげるものは特別にしなくちゃね」「えっ、そこまでしなくていいですよ」「そう?」「というより、寿直さんと一緒にお菓子作りができたら、それだけで自分には特別です」 相楽の正直な言葉に、思わず胸が温かくなる。「そっか。じゃあ、おれたちのバレンタインは、一緒にお菓子作りをすることにしよう」 チョコレートをあげるだけが特別ではない。ともに過ごす時間こそ特別だと言ってくれる、相楽の存在がありがたかった。「おい、神崎」「何ですか、藪から棒に」 昼休みに入るなり、間遠が声をかけてきた。 所長の久我健人は新入りの鯉川宗吾と何やら話しており、間遠はそちらを気にしながら言う。「レシピが多すぎて、何にしたらいいか決められねぇんだけど」「そうですか」 神
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番外編バレンタインデー:間遠編

 大学生になったのをきっかけに上京して九年。 それなりに料理はできるようになったと思っていたが、勘違いだったようだ。 「生チョコって、こんなに難しいものだったのか?」 試しに作ってみた生チョコは見事に油分が分離してしまい、見るも無惨な出来だった。「うーん」 何が悪かったのか考えてみるが、そもそもお菓子作りが初めての間遠には、まるで心当たりがない。「まあ、相楽とかぶるのはよくないしな……」 と、言い訳のようにつぶやき、生チョコになれなかったものたちを袋に詰めて、ゴミ箱へぽいっと捨てる。「でも、生チョコすら作れないのはまずいよな?」 はたとそんなことに気づき、間遠はその場にしゃがみこむ。「うぅ、どうしよう」 神崎にこの話をするわけにはいかない。何故なら、彼が簡単だと言っていた生チョコなのだ。 せっかく兄貴分として憧れてくれていたのに、これでは失望されてしまう。それだけは、間遠のプライドが許さなかった。「簡単だって、ネットにも書いてあったのにな……」 教えてもらったサイトで見つけたレシピ通りにしたはずだ、なんて考えても失敗した過去は変えられない。「くそ、他にお菓子作れる人いたっけ」 と、ため息まじりに言い、しばらく考えを巡らせる。 間遠が所属しているコミュニティには女性も何人かいるが、お菓子作りができるかどうかは知らない。 他にお菓子が作れる人といえば……。「近くにいるじゃん!」 と、ひらめくのと同時に立ち上がった。 翌日は日曜だった。月イチで参加しているサッカー教室を終え、間遠は保護者の一人に声をかけた。「森下さん、少しお話があるんですがいいでしょうか?」 颯太と話していた森下香織が振り返る。「あら、間遠さん。どうかされましたか?」 と、少し不安げな顔をされ、間遠はあわてて言う。「その、実はお菓子作りに挑戦してみたんですが、失敗してしまってですね」
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番外編バレンタインデー:鯉川編

 間遠がお決まりの給湯室へ逃げこんだ後、久我はおかしそうに言った。「鯉川さん。ティラミスの語源、知ってますか?」「あれだろ、私を天国に連れてって。つまり、セックスで気持ちよくさせろって意味だ」「さすが鯉川さん、下ネタは得意ですもんね」 と、久我が笑い、鯉川はにやりと口角をあげてみせた。「おじさんをなめんなよ?」 別に下ネタが好きなわけではないが、男たるもの、ある程度は知っていた方がいいというだけだ。 むしろティラミスに関しては、雑学として知っていただけだった。「でもきっと、間遠はそんなこと知らずに作ったんでしょうね。僕が甘いものは苦手だから」 そう言って、久我は愛おしそうに給湯室の方を見つめた。 間遠は今頃、一人で気持ちが落ちつくまで待っているのだろう。恋人同士でありながら、なんという初々しさだ。「ったく、うらやましいねぇ」 と、鯉川はたまらずに皮肉を言った。 今日がバレンタインデーであるのは知っていた。絶賛片想い中の璃久へ近づくため、チョコレートも用意してある。 久我ほどではないものの、鯉川も何をあげたらいいかと悩みに悩んで買ったのだ。 しかし、どのタイミングで渡せばいいかが分からない。 昼休みにカフェへ行っても、店はランチタイム中だ。そんな忙しい時に渡したら迷惑かもしれない。 かといって、仕事終わりにカフェへ行っても、璃久がまだいるとは限らない。 神崎にそれとなくたずねたところ、店はシフト制で、璃久は十九時上がりが多いという。 久我探偵事務所の定時も同じ時間だ。すれ違いになることも考えられて、鯉川は今から憂鬱になってしまった。 結局昼休みにカフェへ行けず、せっかく用意したチョコを渡せないかもしれないと思い始めた午後三時過ぎ。「お疲れ様です」 と、事務所に明るい声が響いた。璃久がやってきたのだ。 事務所にいた仲間たちがそれぞれに「お疲れ様」と、返す中、鯉川はびっくりして目を丸くしてしまった。 璃久は白いワイシャツに黒いズボンを履いた、カフェの制服姿だった。 特
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偽りのかりんたん①

 バレンタインデーが過ぎた二月半ば。「神崎、ちょっと来てくれ」 応接スペースで客と話をしていた所長、久我健人に呼ばれて神崎寿直は席を立った。「何でしょうか?」 普段は滅多に入ることのない応接スペースへ行くと、久我が言った。「こちらは佐藤花梨さん。SNSだけでなく動画のチャンネルまで乗っ取られてしまったというんだ」 神崎はピンときて久我の隣へ腰かける。「神崎はこういうの、くわしいだろう?」「ええ、好きで見てますからね。詳細を聞かせていただいてもよろしいですか?」 と、客を見る。 向かいのソファに座っていたのは二十代の若い女性だ。今風の色白美人で、ぱっちりとした目には愛嬌もある。「ある日、SNSのアカウントに入れなくなったんです。 パスワードが変えられてしまっていて、次の日には動画チャンネルの方も同じようになってしまって」 と、泣き出しそうな顔をしながら、手元に置いたスマートフォンを操作し、画面を見せた。「でも、勝手に新しい投稿がされてるんです。わたしじゃないのに、わたしに似た誰かがなりすましているんです」 再生された動画に神崎はじっと見入る。 タイトルは「春の新作コスメ買ってきた!」というもので、女性らしいパステルカラーの部屋を背景に、目の前にいるのとそっくり同じ女性が映っていた。髪型やファッションの系統まで同じである。『みんなげんきー? かりんたんはげんきだよー! というわけで、今日は春の新作コスメを買ってきましたー!』 と、テンションの高い始まりだ。 投稿されたのは数日前だが、すでに一万回近く再生されていた。いわゆるインフルエンサーというやつらしい。「声が違いますね」 冷静に神崎が言うと、佐藤花梨は動画を止めながら返した。「わたしの声に寄せてはいますけど、全然違いますよね。 でも、部屋までそっくり真似されてるからか、視聴者は誰もわたしじゃないとは思わないみたいで、怪しむ人がいない状況なんです」「つまり、偽物が視聴者すらも騙して成り代わってい
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偽りのかりんたん②

 翌日になって確かめてみると、神崎のコメントは削除されていなかった。 いくつかのいいねがついており、視聴者の中にも声が違うと感じている人がいるのが分かった。 食パンをトースターに入れて焼けるのを待つ間、神崎はSNSに投稿した。「最近、かりんたん☆ちゃんねるってのにハマってるんだけど、かりんたん、ちょっと首が太くなった? 可愛いからよけい気になる」 見た目はそっくりでも、本物は首が長くて細かった。 一方、偽物は首が長いとは言えず、その分だけ相対的に太く見えるのだ。 じっくり観察していたからこそ、神崎が気づけた点だった。 見た目をどれだけ真似しても、身体的特徴までは真似できない。 トーストが出来あがり、神崎はスマートフォンを置いて冷蔵庫からイチゴジャムを取り出した。 相楽は台所に立って、いつものように納豆オムレツを作っていた。 一人で暮らしていた頃から、朝は納豆と決めていたそうだ。「うわっ、もうリプついた」 スマートフォンにプッシュ通知が届き、神崎は驚いた。しかし、内容を確認してがっかりする。「信者の盲目リプだった……インフルエンサーって、こんなファンまでいるもんなんだね」 と、神崎がつぶやくと、調理を終えた相楽が皿を片手に席へ着く。「盲目リプってなんですか?」「かりんたんの首が太いってSNSに投稿したんだ。そうしたら、そんなわけないって否定する信者が突撃してきた」「あー、なるほど。いただきます」 相楽がフォークを手にし、朝食を始める。 神崎はため息をつき、たっぷりジャムを塗ったトーストにかじりついた。「おはようございます、鯉川さん。拡散力の高いSNSアカウント、持ってませんか?」「拡散力ぅ?」 鯉川は眉根を寄せてみせたが、すぐににかっと笑う。「あるよ。二万フォロワー超えの」「二万はさすがにすごいですね。力を借りる時が来るかもしれないので、おれのアカウントをフォローしておいてください」 と、神崎はメモを差し出した。「それはいい
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偽りのかりんたん③

 鯉川は神崎の説明を聞いて納得したようだ。「ははあ、なるほど。それで?」「偽物は年末に上京した女性で、少々頭のおかしい人のようです。自分はかりんたんになれると、本気で信じているようなんです」「おっと、やばい感じがしてきたぞ」「そうでしょう? おれがそれとなく偽物説を流したことで、彼女の計画はくずれたはずです。 誹謗中傷として片付けたかったようですが、疑いを持っている人がいることに、彼女も気づいたはずです」「ということは、本物を殺して、今度こそ自分が成り代わろうとするかもしれないと」「ええ、そういうことです」「それで久我ちゃんが迎えに行ったんだな。無事だといいが……」 鯉川は椅子を引いて腰をおろすと、スマートフォンを操作し始めた。「あ、警察署にいるわ」「は?」「久我ちゃん、警察署にいる」 鯉川が見せた画面には地図アプリ、ではなくGPS追跡アプリが表示されていた。 神崎は呆然としてたずねる。「所長にGPSつけたんですか? いつの間に?」「この前、一緒に昼飯食いに行った時。上着のポケットに入れといたんだ」 平気な顔で答える鯉川を、神崎は信じられない顔で見てしまう。「ほら、レイの件もあるしさ」「……まあ、そうですね」 ひとまず今は詮索しないことにして、神崎は考えこむ。 久我が警察署にいるということは、偽物の犯行を防げたのではないだろうか。 佐藤花梨の状況は不明だが、久我が病院にいないことは幸いだ。「所長が戻るのは遅くなりそうですね」 と、神崎は言って立ちあがった。 つい先ほどまで張りつめていた緊張が解けたせいか、何か冷たいものでも飲みたくなった。『佐藤さんは無事だ。僕が部屋に入った直後、偽物が現れてな。彼女へ向かっていこうとしたから、取り押さえた』 定時近くになって久我から連絡があり、神崎はほっとした。「そうでしたか。お疲れ様でした」『これから警察で捜査が始まることに
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コーヒーと放火①

「はあ? 何言ってるんだ、康人」 春が近づきつつある二月末、所長の久我健人がめずらしく声を荒らげた。 退屈していた相楽浩介は、横目に彼の方を見る。 鯉川宗吾も、間遠桜も同じようにしており、唯一仕事をしているのは事務員の神崎寿直だけだ。「考え直せ。それとも、康人……ああ、そうか。もういい、勝手にしろ」 吐き捨てるように言ってから、久我は通話を一方的に切った。 ため息をつく彼へ鯉川が声をかける。「どうしたんだ、久我ちゃん」「いえ……弟が、レイを悪いやつだと思えなくなったと言い出しまして」 相楽はびっくりして口を開く。「どういうことですか?」「弟が言うには、レイに呼び出されて公園に行ったら、穏やかな顔で犬をなでているところを見てしまったらしい」「少女漫画とかにある、怖いと思ってたヤンキーが捨て猫に優しくするのを見て、恋が始まっちゃった的な?」 鯉川の軽口に久我は苦笑する。「恋まではしていないはずですが、そういうことです」 久我が声を荒らげたのも当然だと相楽は思った。「ありえませんね。絶対にそれも何かの罠ですよ」 と、相楽が言うと、事務所の扉がノックされた。 全員が視線を向けたところで扉が開き、名城璃久が現れる。「こんにちはー。お店が暇なので遊びに来ちゃいました」 今日もにこにこと笑顔を浮かべた彼に、誰より早く返したのは鯉川だ。「お疲れ、璃久ちゃん。カフェ、暇なの?」「ええ、すっごく暇です。このままだと廃棄がたくさん出ちゃいそうなので、ケーキを持ってきました」 と、手にした箱を鯉川と相楽の間へ置いた。「わあ、ケーキ! ありがとう、璃久ちゃん」 と、間遠が目を輝かせながら立ちあがると、久我は言った。「待て。うちも見ての通り、暇なんだ。ただケーキを食べるだけではつまらない」「何考えてるんです
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