一月も残すところあと六日となった平日、元気な声がまたやってきた。「お疲れさーん」 あいかわらず無精髭を生やした鯉川宗吾だ。 パソコンの画面とにらめっこしていた久我健人は、はっとして顔を向けた。「鯉川さん、お疲れ様です」「今日はおじさん、機嫌がいいから、みんなに差し入れしちゃう。インポケさんでパウンドケーキを買ってきたよ」 と、鯉川は笑顔で手にした袋から個包装されたパウンドケーキを取り出し、久我へ差し出す。「ああ、ありがとうございます」 久我が受け取ると、鯉川は後ろを振り返って神崎寿直へ近づく。「今いるのは神崎ちゃんだけか。何味がいい?」「チョコ、ありますか?」「はい、どうぞ」「ありがとうございます」 神崎が受け取りながらにこりと笑い、鯉川は不在の二人の机へ適当にパウンドケーキを置いた。「で、久我ちゃんどうした? なんか暗い顔してないか?」「ええ、ネット相談の返信で悩んでいるんです。本来であれば、警察へ相談するべき案件というやつで」「見ても大丈夫そう?」「鯉川さんならいいですよ」 久我の返答を受けて鯉川が椅子の横に立ち、画面を見る。「あー、脅迫か。確かにこれは警察だね」「そうでしょう? でも、うちへ相談してきたんです。ということは、きっと何らかの事情があるわけです」「事情によっては介入したくない、ってか」「一応、元警察官ですから」 と、久我は苦笑した。 万が一、依頼人が法に反する側の人間であった場合、元警察官として超えてはならない一線であるだけでなく、探偵事務所の信用にも関わる。 すると鯉川は言った。「じゃあさ、それ俺に回してよ」「え? 鯉川さん、受けるんですか?」「ああ、フリーの俺なら自由が効くし、失うものもないからな」 と、にかっと笑う。「けど、久我ちゃんの気が進まないってんなら、ひとまず、くわしい話を聞きに行くのはどうだ? 俺同
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