Tous les chapitres de : Chapitre 61 - Chapitre 69

69

コーヒーと放火②

「久我ちゃんの正解! コーヒーを淹れたのは俺でしたー!」「えぇっ、何で!?」 びっくりする相楽へ、久我が冷静に根拠を伝えた。「まずは口数が少ないことだな。鯉川さんなら、もっといろいろしゃべってもいいはずだ」「いざしゃべれって言われると、何も言えなくなっちゃうタイプなんだよねぇ」 と、苦笑する鯉川。「粉末が残っている雑さからも、鯉川さんしか考えられませんでした」「あれ、おじさんのこと雑って言ってる? ケンカなら買うよ」「買わなくていいです。それより、相楽はどうして間遠だと思ったんだ?」「コーヒーがちゃんと好みに合わせて作られていたからです。 自分が甘いコーヒーじゃないと飲めないことは、鯉川さんは知らないんじゃないかって思って」「ということは、神崎ではないということは分かっていたのか?」「はい。だって寿直さん、コーヒーを淹れる時はいつも、粉が溶け残らないように、少量の水でペースト状にしてからお湯をそそぐんです」「事前に知っている情報と結びつけたのか、えらいぞ」「それほどでも……」 久我に褒められて恥ずかしくなってしまう相楽だが、対決で負けたことを思い出す。「でも、自分の負けでした。鯉川さんのこと、もっと知ってたらよかったのかもしれません」「その通りだな。情報は多ければ多いほど真実に近づける。よく覚えておくことだ」「はい。心に刻みます」 相楽は言葉通り、しっかりと久我の言葉を胸に刻みこんだ。 翌日、相楽は一週間前に火災のあった現場へ来ていた。新たに調査を依頼されたのだ。 現場は閑静な住宅街の一角にある店舗兼住居だったが、長いこと誰も住んでおらず、空き家になっていた。 依頼人の国枝達彦は五十代の男性で、腕を組みながら険しい表情で相楽に語りかけた。「電気も水も止めているし、室内に燃えるような物はないはずなんだ。 警察には自然発火で片付けられたが、どう考えてもこれは放火だ」 相楽はうなずき、かばんからデジタルカメラを取り出しながら言った。
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コーヒーと放火③

「再開発か。行政と住民の間でどんな話し合いがされていたか、調べてみてもよさそうだな」 報告を受けた久我がそう言い、すかさず神崎が口をはさむ。「アポ、取りますか?」「ああ、お願いするよ。日時が決まったら相楽に伝えてくれ」「もちろんです」 神崎がキーボードを打ち始め、相楽は懸念していることを久我へ伝えた。「現場は不良が出入りしていた場所なので、もしかしたら放火犯は見つけられないんじゃないかと思うんですが、もしそうなったらどうなりますか?」 久我はどこか怪訝そうにしながらも言った。「そのまま依頼人に報告するだけだ。僕たちにできることには限界がある」「そうですよね……」 あの横柄な依頼人を思うと、怒鳴られることも覚悟した方がいいかもしれない。 そう考えると憂鬱な気持ちになる相楽だが、久我は言った。「ただし、どうして見つけられなかったか、明確に根拠を示せるようにしっかり調べるんだぞ」「見つけ出せなかった根拠?」「放火犯を見つけるのが最善ではあるが、本質は依頼人を納得させることだ。 可能な限りの情報を調べあげて、それでもダメだったと伝えるのは失敗じゃない。時にはそういうこともある、というだけだ」 相楽は胸がすっと軽くなった気がした。「じゃあ、ダメでもいいんですね」「ああ。でもさっき言ったように、しっかり調べることが条件だぞ。気を抜くな」 久我が力強く言い、相楽は勇気をもらった。「分かりました!」 と、はきはきと返してから自分の席へ戻る。 大事なのは依頼人を納得させることだ。結果がどうであれ、隅から隅まで調べることが、依頼人の納得を生む。 明日からの調査もしっかり頑張ろうと、相楽は気を引き締めた。 数日後、相楽は区役所の小会議室にいた。「まちづくり推進部まちづくり計画課の、岡田と申します」 と、担当者は温厚そうな顔で名刺を差し出してきた。中肉中背の四十歳前後の男性だ。 相楽も名刺を出して言う。「久我探
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コーヒーと放火④

 厚意に甘えて家へあがらせてもらい、相楽はちゃぶ台をはさんで娘と向かい合った。「あらためて、久我探偵事務所の相楽です」「高橋陽依です」 奥さんは飲み物を用意しに台所へ行っていた。 相楽はメモ帳とボールペンを用意し、質問を始めた。「さっそくですが、最初にその人を見たのは、いつのことだったか覚えてますか?」「えっと……火事があった次の日だったと思います」「次の日?」「わたし、あの道よく通るんですけど、その次の日も見かけたんです」「どんな人でしたか?」「暗いので分からないけど、たぶん男性です。中肉中背な感じで、手に小さいライトを持ってました」 相楽はふとかばんを探り、ペンライトを取り出した。スイッチを押し、自分の手の平へ向けて光を当ててみせる。「こういう感じですか?」「あっ、そうです。まさにそういう小さい明かりで、地面を照らしてて、あの家の周りをうろうろしてる感じでした」 相楽はペンライトをしまい、メモ帳に書き留める。「服装までは分かりませんよね」「そうですね、暗いので……でも、今日も来るかもしれません」「今日も?」「はい。だって昨日もいたんです、その人」 相楽の頭の中でひとつの仮説が浮かびあがった。 夜、人気のない路地裏に小さな光が灯る。 がさがさと草をかき分けるような音がし、暗闇にひそんでいた相楽は静かに歩み出た。「こんばんは、岡田さん」 光が上へとぶれて相楽を照らす。「あっ……え、えぇと」 中肉中背の男は明らかに動揺していた。 相楽もまた緊張していたが、いつか見た神崎のように飄々とした態度を心がける。「昼間会ったばかりじゃないですか。久我探偵事務所の相楽ですよ」 そう言ってにこりと相楽が笑うと、岡田はあわててペンライトを消して後ずさった。「あれ、逃げるんですか? まだ何も話してないのに」「す、すみません
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レンズの向こう①

「こんにちはー。ちょっと相談があるんですけど、今大丈夫ですか?」 と、事務所へやってきたのは名城璃久だ。 今日は仕事が休みらしく、ショート丈の白いダウンジャケットに茶色のチェック柄のキュロットスカート、中に厚手の黒タイツを履いた私服姿だ。「ああ、大丈夫だよ。どうかしたか?」 すぐに所長の久我健人が席を立ち、鯉川宗吾はパーテーションから顔を出して様子を見守る。 璃久はスマートフォンを取り出し、画面を見せながら言った。「これ、ボクだと思いますか?」 久我は「うーん、これは……」と、悩ましげにうなってから振り返った。「鯉川さん」 手招きをされて鯉川は足早に歩みよる。「どれどれ」 と、璃久のスマホをのぞきこんだ。表示されていたのは画像だ。 人物の目の部分をのぞいてぼかし加工がされており、色や形から察するに裸のようだった。「ディープフェイクか? けど、これだけじゃあな……」 鯉川がつぶやくと、璃久はため息をついてスマホを持った手をおろす。「一昨日の夜、急に送られてきたんです。 迷惑メールだと思って無視したんですけど、透子おばさんに見せたら、ボクに似てるって言われて」 鯉川は久我と軽く目を合わせてから質問した。「そのメールには、他になんて書かれてた?」「いえ、特に文字はなかったです。ただ、画像だけが送られてきてて」「うーん、判断が難しいな。どう思うよ、久我ちゃん」「そうですね、元の画像が分かれば判断できるんですが」「よっしゃ、いっちょおじさんがやってみっか」 と、鯉川は璃久へ視線を戻した。「璃久ちゃん、スマホを貸してもらっていいか? すぐに復元するよ」「あ、はい」 璃久のスマホを受け取り、鯉川は自分の席へ戻った。 画像を保存し、パソコンへ送ってからAIの力を借りてぼかしを除去する。 ほんの数分で元の画像が復元できたが、鯉川はため息をつい
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レンズの向こう②

 カフェが開店して間もなく、鯉川は店内の調査を開始した。「Cafe in the Pocket.」はミニチュアをテーマにしており、店内にはいくつものミニチュアが展示されている。 そうした可愛さから来るのは女性客が多いが、男性が入りにくい雰囲気の店ではないため、二割程度は男性客が占めていた。 料理が美味しいこともあり、特にランチタイムは男女かまわず客がやってくる。「おっと、さっそく発見だ」 電波検知器が反応を示したのは、ウォールシェルフに飾られたミニチュアだ。 よく見るとウォールシェルフの下に、無線式の隠しカメラがテープで固定されていた。 鯉川はすぐにその場を離れて、カウンターにいるオーナーの長島透子へ近づいた。「あそこの棚の下にひとつ、ありました」「いつの間に……」 ショックを受ける彼女へ鯉川は言う。「ここ、Wi-Fiありますよね。おそらくそれを使用しているものと思われます。 これから映像データがどこに送られているか調べたいんですが、長時間いてもいい場所ってありますか?」「それなら、裏でお願いします。狭いですけど、更衣室があるので」「ありがとうございます」 透子の案内で鯉川は裏へ入った。 男女別の更衣室が設置されており、男性更衣室の隅でノートパソコンを開く。 カフェのWi-Fiに接続し、Witesharkを起動した。プロミスキャスモードでパケットキャプチャを開始する。「お、これかな」 数分後、特徴的なトラフィックが目に留まった。 一定間隔で、暗号化されたHTTPSパケットが、店内のIPアドレスから外部の固定IPへと大量に流れている。 ポートは443。普通のウェブ閲覧ならあり得るが、データ量が異様に多い。 鯉川はフィルタをかけ、そのセッションだけを抽出する。 送信先IPをWhoizで調べると、海外のVPSプロバイダに登録されたサーバーだった。 所有者名はダミー会社。典型的な隠しカメラの配信パターンだ。 さらにパケットの中身をのぞくと、定期的
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レンズの向こう③

「どういうこと?」 理解できない鯉川へ久我はため息をつき、椅子に座り直した。「あいつはレイに振り回されるのを楽しんでいたんです。 それを察したレイは、嫌になったのか分かりませんが、狙いをこちらへ戻した。おそらくそういうことです」「つまり、弟のせい?」「そうなりますね。ったく、あのバカは……」 と、久我はいつになく不機嫌な顔で腕を組んだ。「っつーことは、やっぱり犯人はレイで、璃久ちゃんを巻きこんだ、と。で、俺はどうすりゃいいんだ?」 首をかしげる鯉川へ、神崎が言った。「やり返せばいいのでは?」「え、やだよ。相手が悪すぎる。如月データソリューションズにハッキングなんてしたら、捕まっちゃうよ」「そうなんですか?」「俺が前にいた会社の競合だったんだ。あの頃はかろうじてこっちが優勢だったけど、今や逆転しちまった。 最近だと、官公庁や警察関係のシステムなんかもやってるらしいし、一般人が手を出していい相手じゃない」 と、鯉川が息をつくと、不機嫌なまま久我は言った。「道理で警察の動きを知っているわけです。 ですが、レイのやっていることは許せません。どうにかして迷惑行為をやめさせないと」「それはまあ、そうなんだけど」 しかし、いいアイデアは浮かびそうにない。 事務所内が沈黙したのもつかの間、神崎が聞く。「鯉川さん、隠しカメラはまだそのままにしてあるんですよね?」「ああ、外してくるの忘れてたわ」 と、鯉川が立ち上がると、神崎は片手を出して制止した。「待ってください。その隠しカメラ、音声は入るタイプでしたか?」「いや、映像だけだ」「それなら、隠しカメラを通じてレイにメッセージを伝えるのはどうです?」 神崎の提案に鯉川はまばたきを繰り返した。「えっと、たとえば?」「こちらにダメージが入っていないことを伝えるとか」「つまり、効いてないよってか?」「ええ、そうです。効いてないことをアピールできたら、レイはム
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守りたいもの①

 庭にある犬小屋は薄汚れており、中をのぞくとひどい異臭がした。「見てください、このリード。誘拐犯にカッターか何かで切られたんですよ!」 依頼人の奥田美晴が憤慨した様子で主張し、間遠桜は残されたリードを観察する。 革製のリードだった。直線的な切り口から、一見すると鋭利な刃物で切られたように見える。 間遠がハンカチを使って持ちあげると、表面がぼろぼろとはがれ落ちた。「うーん」 断面をよく見るとガタガタになっている。刃物ではないな、と間遠は思った。 庭はほとんど手入れされていなくて、雑草が伸び放題になっていることから、リードが劣化していたのは事実だろう。 間遠がそっとリードを地面へ戻すと、奥田美晴はたたみかけるように言った。「お友達が教えてくれたんですが、隣町にうちの子そっくりの犬を飼ってるお宅があるんです。 きっと、その人がうちの子を誘拐したに違いありません!」 六十歳を超えた依頼人は、どうにも感情の制御ができないタイプのようだ。 間遠は困惑を内心に留めて、穏やかに問いかける。「そのお宅の住所は分かりますか?」「ええ、もちろんです」 その場で奥田美晴はスマートフォンを取り出し、地図アプリで示してくれた。「ここです」「ありがとうございます。メモさせてもらいますね」 と、間遠はその住所をさっとメモ帳に書き留めた。「ちなみに、そのお宅には行かれましたか?」「ええ、怖かったけど行ってみました。でも留守だったので、その後で警察へ行ったんです」「でも窃盗扱いのため、緊急性が低いと判断されたんでしたね」「ええ、そうです。もう嫌になっちゃうわ」 と、奥田美晴はむすっとした。 ペットは法律上、物として扱われるため、誘拐されても窃盗にしかならない。「それでは、さっそく調査を開始させていただきます。進展がありましたらご連絡しますので、それまでお待ちください」 間遠は丁寧に言ってから、依頼人宅を辞した。 最初に向かったのは、依頼人が誘拐犯と目してい
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守りたいもの②

「お疲れ様です」 と、間遠は康人を引き連れて事務所へ入った。「お疲れ……と、そこにいるのは何だ?」 所長の久我健人がとっさに冷めた目つきになり、間遠は返す。「よく知らないっすけど、下でうろうろしてたので捕まえてきました」「ご、ごめん、兄貴」 と、康人が肩を縮こまらせ、久我はため息をつく。「そこのソファで待ってろ。まずは間遠の報告を聞いてからだ」 康人は黙って応接スペースのソファに腰かけ、間遠は久我へ今日のことを報告した。 タイミングを見て、鯉川が口をはさむ。「間遠ちゃんが送ってくれた写真、分析したら、同一の個体である可能性が九十パーセントを超えてたよ」 結局、調べてくれたのは鯉川だったようだ。しかし、間遠はそのことに触れることなく話を進めた。「ありがとうございます。じゃあ、やっぱり依頼人の犬ってことですね」「おそらくはな」 ということは、あとはあの犬をどうしたら依頼人の元へ返せるか、考えればいいだけだ。 話が一段落したところで、久我がため息をつきながら席を立つ。 そして応接スペースへ向かい、一喝した。「バカ野郎! 言い訳なら聞かないぞ!」「ごめんって、兄貴。でも、ちゃんと話をさせてくれよ」 と、康人の情けない声が聞こえる。 間遠は自分の席へ着き、パソコンを起動させた。「話って何だ? お前はレイに振り回されるのを楽しんでたんだろう?」「それは否定しない。でも、ああ見えてレイにもいいところがあるんだ」「犬をなでていたことか?」「うん。犬が好きなやつに悪いやつはいない」「ふざけんな。そんなわけがあるか!」「俺はそう信じたいんだ。猫派の健人には分からないだろうけど、レイも昔、犬を飼ってたみたいなんだ」「だから何だ?」「えっと、だから……」 応接スペースの空気は険悪だ。 久我の怒りはもっともだが、さすがに康人が可哀想な気もしてくる。
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守りたいもの③

 雲ひとつない晴れた土曜日の午後。 噴水広場は、家族連れや犬の散歩を楽しむ人々でにぎわっていた。 穏やかな陽光が降りそそぐ中、異様な緊張に包まれている一角があった。「よくも、よくもメロちゃんを……! この泥棒! 誘拐犯!」 依頼人の奥田美晴は、菅原夫人に向かって、周囲が振り返るほどの大きな声をあげた。 嫌な予感が当たってしまい、間遠は内心でうんざりとため息をつく。 奥田美晴は感情が爆発した様子で、顔を真っ赤にしていた。 菅原夫人の足元では、白と茶色のポメラニアン――メロちゃんが、戸惑ったように首をかしげて二人を見上げていた。「あの……本当に、私は駅前の交差点で震えていたこの子を見つけて……」 菅原夫人が落ち着いて弁解を始めると、奥田美晴はさらに声を荒らげた。「嘘おっしゃい! この子のリードは、刃物で切らなきゃ切れるはずがないのよ! どうせ身代金目当てだったんでしょう!? 今すぐ警察に行きましょう!」 今にもつかみかかろうとする奥田美晴を、間遠はあわてて制止した。「落ち着いてください!」 奥田美晴がはっとし、間遠は二人の間に割って入る。「菅原さんは誘拐犯ではありません。彼女が持っているリードを見てください」 間遠は菅原夫人が透明な袋に入れて持ってきたリードを示し、冷静に説明する。「この断面、ぱっと見はスパッと切れたように見えますが、近くで見るとガタガタになっています。 これは革が長年の使用で乾燥し、劣化して自然にちぎれた証拠です」 奥田美晴の動きがぴたりと止まった。 間遠は淡々と続ける。「メロちゃんはただの迷子だったんです。誰かに誘拐されたわけではなく、リードが切れて逃げ出してしまっただけです」「そ、そんなはずありません! 私は警察に盗難届を出したんです! なのに、何もしてくれなかった……っ」 奥田美晴の声に、怒りとともに悔しさがにじむ。「ええ、そこが問題の核心でした。菅原さんはメ
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