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失踪と冬の海③

 瀬川絵理菜は前を見つめたまま、話を続けた。「あたし、もう生きてる意味ないなって思ったら、全部がどうでもよくなりました。 だからせめて、ずっと行きたいと思ってたところに行こうって思ったんです。何もかもを捨てるつもりだったので」「それなのに、美術館に来たんですね」 間遠がそう返すと、瀬川絵理菜は苦笑した。「展示を見ている間、結局、あたしは美術が好きなんだなって、自分でも思いました」 自嘲まじりの、どこか悲しい笑顔だった。「でも、あたしにはもう、作品を作れる気がしません。いいアイデアだと思ったのに、それはすでに存在してたんです。 あたしは才能のない凡人で、実力もないから、きっとこの世界ではやっていけないんです」 涙をこらえるような彼女の語りに、間遠も前を見つめて言った。「オレの話、聞いてもらってもいいですか?」「ええ、何ですか?」 少し戸惑った様子の彼女だが、かまわずに間遠は語り始めた。「オレ、学生時代はずっと陸上部だったんです。長距離の選手で、夢は大学で箱根駅伝を走ることでした」 久我と出会う前の話だ。「大学にもスポーツ推薦で入って、駅伝に人生をかけていたと言ってもいいくらいでした。 でも、大学二年の時、練習中に他の選手と接触して、転んでしまったんです」 ほんの一瞬の出来事だった。避けようとしたが間に合わず、次の瞬間には地面に倒れていた。「それで膝の、半月板を損傷してしまって、走れなくなりました」 瀬川絵理菜が小さく息を呑んだ。「リハビリをどんなに頑張っても、選手として復帰するのは無理だと医者に言われて、泣きました。 せっかくここまで頑張ってきたのに、あと少しというところで夢を奪われた。でも、誰が悪いわけじゃない。ただ、運がなかったんです」 あの頃の苦しみは、今でもまだ鮮明に思い出せる。「すべてどうでもよくなって、オレは大学を中退しました。今の瀬川さんみたいに、オレも生きる意味を失ったんです」「……それで、どうしたんですか?」 間遠はひとつ
last updateآخر تحديث : 2026-01-29
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おもいあい①

「ハッピーバースデー、浩介!」 ジムから帰ってきた相楽浩介へ、神崎寿直はそう言ってホールのショートケーキを見せた。「えっ、あっ」 今日が誕生日であったことを、相楽は今思い出した様子だ。「ありがとうございます、寿直さん!」「ふふ、浩介のために作ったんだ」「え、手作りですか?」「うん、そうだよ。でも、ただのショートケーキじゃないから安心して」 遠目に見るとケーキだが、上に乗っているのはいちごではなく小さなトマトだった。 相楽がリビングの隅に荷物を置き、食卓の席へ着く。 神崎は断面が見えるよう、ナイフで丁寧に切り分けた。それを見て相楽が目を丸くする。「何ですか、これ」「サラダチキンだよ。鶏むね肉のミンチに彩りで野菜を入れて、ヨーグルトソースでコーティングしたの」  丁寧に裏ごしされた鶏肉の生地の中に、小さく切ったインゲンと人参が散りばめられていた。「うわぁ、さすが寿直さん! ガチで美味しそうです!」「はい、どうぞ」 切り分けたショートケーキ風サラダチキンを皿へ移し、相楽へ差し出す。 嬉しそうに相楽は受け取り、さっそくフォークを手にした。「いただきます!」 と、喜びを隠しきれない顔でがっつく。 神崎はにこにこと微笑みながら問いかけた。「どう?」「美味しいっす! これなら罪悪感なく食べられますっ」「よかった。気に入ってもらえたみたいだね」「はい!」 相楽は夢中になって食べ進め、神崎もフォークを手にした。口に入れて咀嚼すれば、だいたい思った通りの味がする。「うん、悪くないね」「ガチ美味しいですよ。寿直さんって、本当に料理上手ですよね」「そう? まあ、小さい頃からやってたから」 神崎がそう言って困った顔で笑うと、相楽は何か察したようだ。「そういえば、家族の夕飯、作ってたんでしたっけ」「うん。両親は共働きだし、姉さんは塾があったからね」
last updateآخر تحديث : 2026-01-31
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おもいあい②

 相楽は週に三回、ジムに通っている。仕事が遅く終わった日でも、トレーニングだけは欠かさないという。 そうしたストイックなところを、神崎はかっこいいと思っていた。だからこそ相楽を応援し、彼のために何でもしてあげたかった。 その日も相楽は仕事終わりにジムへ向かい、神崎は一人で帰路についていた。 コンビニの前を通りがかると、ふと甘いものが食べたくなった。 相楽は筋トレに励んでいるため、常日頃からお菓子をひかえている。 神崎も自然と彼の食生活に合わせており、ここ最近はまったくスイーツを食べていなかった。「ちょっとくらい、いいよね」 そう自分に言い聞かせ、神崎は久しぶりにコンビニへ足を踏み入れた。 夜でも明るい店内はほっとする。客は仕事終わりの男女が数人いる程度で、店員も若いのが二人いるだけだ。 まっすぐにスイーツの並んだ棚まで向かい、神崎はどれにしようかと考える。 ホイップのたっぷり入ったシュークリームは魅力的だが、新商品の焼きプリンも美味しそうだ。 少し値段は高いが、季節のフルーツを使ったパフェも捨てがたい。シンプルにどら焼きというのも素朴でいい。 ついつい目移りしてしまう神崎に、突然声がかけられたのはその時だった。「ゆみちゃん、久しぶり!」 最初、誰にかけられた声なのか分からなかった。しかし、すぐそばに若い女性が立つのを見て、神崎は自分だと気づく。「えっ?」 思わず戸惑った顔をする神崎だが、声をかけてきた女性は笑っていた。やや引きつったような顔で。 いったい何が起きているのか、事態を把握しようとする神崎へ女性は言う。「こっちに戻ってきたのは知ってたけど、まさか、こんなところで会えるなんて」 人違いではないですか、と返したかったが、ふと視線を感じて入口の方を見る。 外に一人の男が立っていた。明らかにこちらを見ている。「もしかして、あの男の人につけられてます?」 小声で神崎がたずねると、女性は小さくうなずいた。 ようやく状況が飲みこめた。 彼女は男に後をつけられており、助けを求めて
last updateآخر تحديث : 2026-02-02
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おもいあい③

 到着した警察に事情を話し、ようやく神崎は解放された。「約束通り、おれが送っていきます」 と、伝えると、女性は「お願いします」と、頭をさげた。今は神崎しか信じられないからだろう。 コンビニを出て歩き始めたところで、彼女がぽつぽつと話し始めた。「あの、あたしが、お兄さんに声をかけた理由、なんですけど」「何ですか?」 彼女は神崎のかばんをちらりと見た。「かばんにウカポンがついてたから、なんです」 はっとして見おろすと、確かにウカポンのマスコットをさげていた。 ついこの前まで家の鍵につけていたのだが、間遠からのお土産と取り替えたため、居場所をなくしたマスコットをかばんにつけたのだ。「ああ、そういうことだったんですね」 よく見ると彼女のかばんにもウカポンの缶バッジがついており、ともにウカポンが好きなのだと分かる。「だから女性だと思っちゃったし、そうでないと気づいてからも、やっぱりウカポンが好きな人なら信じられると思って」「それでおれのことは信じてくれたんですね」「はい。それに、なんか……話してて、安心できました」 人気のない住宅街で彼女は笑う。「今日はありがとうございました。よければ、その、お名前を聞いてもいいですか?」 神崎はにこりと笑みを返した。「いえ、そういうのはやめておきましょう。おれには恋人もいますし」「あっ、すみません。そういうつもりじゃなかったんですけど」「またどこかで会うことがあれば、その時にあらためて友達になるのはどうですか?」 と、神崎が提案すると、彼女は納得したらしくうなずいた。「分かりました。そうしましょう」 彼女を無事に家まで送り届けてから、神崎はようやく帰路についた。 すっかりお腹が空いてしまったなと思いながら歩いていると、前方から見慣れた姿がかけてきた。「寿直さん!」 相楽だ。「あれ、どうしたの?」 思わず目を丸くして立ち止まった神崎へ、相楽は言う。「こっちの台詞で
last updateآخر تحديث : 2026-02-04
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冤罪の始まり①

 街がクリスマス一色に染まった十二月上旬、久我健人は久しぶりに、双子の弟の康人と会っていた。「今年も正月は帰れそうにないんだ。母さんたちにごめんって言っておいて」 と、康人は湯気の立つ醤油ラーメンをすすった。 向かいの席で塩ラーメンを食べていた久我は、わざとらしくうんざりした顔をする。「まったく、また僕がいろいろ言われてしまうじゃないか」「しょうがないだろ。刑事なんてそんなもんだ」 康人はけらけらと笑ったが、すぐに真面目な顔になった。「それより、覚えてるか? キタセン事件」 あまりに唐突な話題に、久我は手を止める。 家族への気まずさをごまかしたいのかと思ったが、康人の目はむしろ、これが今日の本題だと言っていた。 久我は何気ない風を装い、再びラーメンをすすってから返す。「忘れるわけないだろ」「だよな」 二人の間に沈黙があり、康人が目を合わせることなく静かに言う。「今、再捜査してる」「今さらか?」 久我は驚きを隠せなかった。 六年前に起きた北千住駅前連続通り魔事件は、久我にとって悪夢のような事件だった。 捜査一課のエースとして捜査にあたった久我を、決定的に打ちのめしてくれたのだ。「別件で容疑者にあがった男から、当時の情報が出てきたんだ。上は認めたがらないが、そうもいかない状況でさ」「それで?」 久我は値段の割に肉厚の豚チャーシューを噛み切った。「健人、何かおかしなことしてないよな?」「どういう意味だ?」「捜査中に何度もお前の名前が出てきた。探偵になってなお、まだ事件を追いかけてるなら、捜査の邪魔になるからやめてくれ」 弟の言葉が鈍く胸に刺さる。「って、上司が言ってた」「……悪いが、僕は何もしてないよ」「じゃあ、どうして健人の名前が出てきたんだ?」 考えるまでもなく、特定の人物が思い浮かんだ。「レイかもしれない。少し前から、僕に執着してくる厄介者がいるんだ」
last updateآخر تحديث : 2026-02-06
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冤罪の始まり②

 久我はかばんを軽く肩にかけ直し、如月零と名乗る男を見つめた。「いろいろと言いたいことはあるが、やはり君が邪魔していたのか」「調べさせてもらったよ。 正義感が強すぎて周囲からうとまれた末、居心地が悪くなって警察から半ば追放された元刑事、だってね」 イラッとした。久我の触ってほしくないところに、如月零は無遠慮に入りこんできた。「やめろと言っても、聞かないんだろうな。今回はどんなゲームだ? くわしく教えてくれ」 冷静に努める久我だが、如月零はおかしそうに笑った。「あはは、ゲームだと思ってバカにしてるでしょ? 考えが足りないなぁ」「なんだと?」「ぼくはただ、キミと遊びたいだけだよ。でも勘違いしないで。止めてほしいわけじゃない。ぼくはただ、キミと遊びたいんだ」 わざわざ強調する意味が分からない。 ネット上でのやり取りに増して、現実で顔を合わせると、ますます理解不能な相手だ。「いいだろう、遊んでやる。僕はどうすればいい?」「そうだなぁ、ちょっと場所を移そうか」 如月零がそう言って歩き出し、久我は警戒心をゆるめることなく後をついて行った。 小さな公園のベンチに座り、如月零は言う。「北千住駅前連続通り魔事件、犯人は路上生活をしていた寺本信一。 逮捕の決め手となったのは、彼の寝泊まりに使っていた公園のそばに凶器が捨てられていたから」 久我は立ったまま、彼を見すえていた。「目撃者の証言にも一致すると、警察は判断したわけだけど、健人クンはそう思わなかったみたいだね」「……昔の話だ。寺本信一は犯行を自白し、今も服役中だ」「でも、健人クンは冤罪だと思っていた。何故なら、彼に罪をなすりつけることのできる人物が一人、いたからだ」 ストレスのせいか、頭が痛くなってきた。「路上生活者の支援をするNPO団体に所属する、大久保正志。彼は寺本と背格好が似ていたし、当日のアリバイがなかった。 でも、大久保を疑っていたのは健人クンだけだった」「支援をしていながら、その実、鬱屈
last updateآخر تحديث : 2026-02-08
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冤罪の始まり③

 助手席から康人が顔を出すのを見つけ、久我はありがたく後部座席へ乗りこんだ。「わざわざすまないな」 と、久我が言うと康人は返す。「いや、レイの件はこっちも気にかけてたんだ。それで、レイが大久保正志を誘拐したのは本当か?」 久我がシートベルトを装着すると、車がゆっくりと走り始めた。「ああ。電話で話したように、二十四時間以内に見つけないといけない。間に合わなければ、僕が濡れ衣を着せられてしまう」 康人は目を丸くした。「何で?」「あいつの考えることは分からん。だが、僕が捜査の邪魔をしていて、なおかつ誘拐犯だという趣旨の文章を、SNSへ投稿する気だ」「悪質だな」「現状、捜査の邪魔をしているのは久我健人ということになっている。つまり、逃げ場がないんだ。何としてでも、大久保正志を見つけないと」 険しい顔をする久我へ、運転席から声がかかった。「冤罪の始まり、でしたっけ。自分たちもいくつか考えたんですけど」 ふとそちらを見た久我は、ルームミラー越しに運転手と目が合った。「あ、すみません。久我さんの部下の、川戸と言います」 二十代後半と思われる、穏やかな雰囲気の青年だった。「ああ、名乗るのが遅れてすみません。僕は久我健人です。いつも弟がお世話になっています」 と、久我も返してから、康人が本題へと戻した。「冤罪の始まりと言っても、いろいろある。捜査本部が置かれた警察署かと思ったが、まさか大久保がそんなところにいるわけないよな」「僕も同じ考えだ」「そもそも世間的にはまだ冤罪だと言っていない。兄貴には悪いけど、冤罪だと思ってるのはお前だけだ」「そうだな。となると、もしかして僕に関係している場所か?」「その可能性が高いと思うんだよな。心当たりはないか?」 久我はあごに手を当てて考えこむ。「冤罪……始まり……僕が最初に、寺本信一と会った場所だろうか」「どこだ?」「確か、足立区の支援センターだったはずだ」 康人がスマ
last updateآخر تحديث : 2026-02-10
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番外編・幸せなイヴⅠ

「間遠、二十四日は空いてるか?」 突然、久我健人にたずねられて、間遠桜はびくっとした。 その日はクリスマスイヴだ。こんな誘いをもらったのは初めてだった。「二十四日、ですか? えーと、空いてます、けど……」 ドキドキしながら間遠が答えると、久我は安心した様子でにこりと笑った。「それじゃあ、僕の部屋に来ないか?」「えっ、それは、あの……っ」 頬が熱を持っているのが分かる。 相楽浩介はまだ戻っておらず、神崎寿直は黙って仕事をしているばかりだ。「お、オレたち、まだ、付き合ってるわけじゃないですし」 と、間遠が言うと、久我はきょとんとした。「そうなのか?」「え?」「僕はてっきり、もう付き合っているものだとばかり思っていたが」「えぇっ!?」 きちんと告白された覚えはない。しかし、キスはした。間遠も久我も、お互いに好きだということもよく知っている。「それなら、僕の部屋はやめて、どこかで食事をしようか」「どっちでも同じですー!」 耐えきれず間遠は席を立ち、給湯室へ逃げこんだ。「待て、まだ話は終わってないっ」 後ろからそんな声がしたため、間遠は扉を閉めて誰も入れないように押さえる。 まさか久我の中では、もうすでに恋人になっていただなんて信じられない。もちろん、嬉しすぎるという意味でだ。 思えば出会ったあの日から、ずっと間遠は片想いをしていた。 仕事上の相棒になれただけで満足しようと考えたことさえある。しかし、想いは抑えきれなかった。 少ししてから、扉越しに久我が言った。「すまなかった、間遠。ちゃんと言うよ。……僕の恋人になってくれないか?」 いきなりの告白に、間遠は背筋をぴんと伸ばした。「は、はいっ」 返す声が上ずり、恥ずかしさのあまりその場にしゃがみこむ。「それじゃあ、二十四日は
last updateآخر تحديث : 2026-02-12
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番外編・幸せなイヴⅡ

 食事を終えて一息ついたところで、ついにプレゼントを渡し合った。「わっ、ネックウォーマーだ」 間遠がもらったのは黒いネックウォーマーだった。内側がふかふかのボアになっており、いかにも暖かそうである。「最初はマフラーにしようと思ったんだが、どちらかというと、ネックウォーマーの方がいいかと気づいてな」「そうっすね、こっちのが断然いいです。ありがたく使わせてもらいますね」 間遠はにこりと笑いながら、用意したプレゼントを久我へ渡した。「はい、これ」「ありがとう」 受け取った久我がさっそく袋を開け、目を丸くした。「お、ブックカバーとブックマーカーか。実用的でいいな」「久我さんの欲しいものって、あんまよく分からなかったんで、無難なものにしちゃったんですけど……」 シンプルな茶色の革製ブックカバーと、水沢賢治の『銀河急行の夜』をモチーフにしたおしゃれなブックマーカーだ。「『銀河急行の夜』じゃないか。子どもの頃に読んで、すごく印象的だったのを覚えてるよ」 と、久我が嬉しそうに言い、間遠はほっとした。「気に入ってもらえましたか?」「ああ、もちろんだ。大事に使わせてもらうよ」 そう言って久我が微笑み、間遠の胸がぽかぽかと温かくなる。お互いに実用的なものを選んだのは、長年一緒にいることの証左だと思った。 久我がプレゼントを元の袋に入れ、大事そうにかばんへしまった時だった。 ふいに玄関の方から何かが落ちるような音がして、二人は同時に振り返った。「ちょっと見てきます」 と、間遠は立ちあがって玄関へ向かう。 ドアポストを開けてみると、クリスマスカードが一通、入っていた。「クリスマスカード?」 怪訝にする間遠へ、久我が近寄ってきて言う。「何だ、それは」「分からねぇっすけど、クリスマスカードみたいです」 裏返しても差出人の名前はなく、久我ははっとした。「レイの仕業かっ」 と、玄関の扉を開けて左右を見回す。 後ろから間遠も外
last updateآخر تحديث : 2026-02-14
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番外編・モテ期とやきもちⅠ

 相楽浩介は背が高い。スポーツジムで鍛えているため、ほどよく筋肉がついていて、いい体をしている。 問題は服のセンスだ。 日曜日の夕方、買い物から帰った神崎寿直は言った。「浩介、服を買ってきたよ」「よかったですね」 と、台所で夕食の準備をしていた相楽が返す。「違うよ、浩介の服だよ」 相楽は目をぱちくりさせた。 かまわずに神崎は袋から服を取り出し、彼へ差し出す。「着てみて」「えっ、でもこんなに」「クリスマスプレゼントってことにして。どうせ古着だし、一式買ったけど大した値段じゃないよ」「で、でも、なんかおしゃれすぎるっていうか」 躊躇する相楽へ神崎はずばり言った。「いつももったいないなって思ってたんだ。せっかく背が高くていい体してるのに、服はダサいし色も黒か白ばっかり。きちんとおしゃれしたら、絶対かっこいいのにって」 相楽はごくりとつばを飲んでからうなずいた。「分かりました。着てみます」 相楽が台所を離れ、リビングの隅で着替える間に、神崎は自分の服を寝室のクローゼットへしまった。「着替え、終わりました」「サイズ、大丈夫だった?」「はい、それは問題ないんですが……ちょっと、ぴっちりしすぎてるというか」 彼の元へ戻った神崎は目をキラキラと輝かせた。「わあ、思った通りだ! 筋肉のシルエットがばっちり出てて、かっこいい!」「そ、そうですかね?」 相楽が恥ずかしそうにし、神崎はまじまじと観察した。ダークグレーのカッターシャツは彼の立派な胸筋を強調していて、今にも飛びこんでしまいたくなる。 彼の下半身を見て、神崎は満足した。「ジーンズもいい感じだね」「ええ、これ履きやすいですね」 と、相楽も気に入った様子だ。 ほどよくあせた風合いが古着ならではの味を出していて、彼の大腿四頭筋を見事に魅せていた。「ブランド物だからね」「たっ、高いの
last updateآخر تحديث : 2026-02-16
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