瀬川絵理菜は前を見つめたまま、話を続けた。「あたし、もう生きてる意味ないなって思ったら、全部がどうでもよくなりました。 だからせめて、ずっと行きたいと思ってたところに行こうって思ったんです。何もかもを捨てるつもりだったので」「それなのに、美術館に来たんですね」 間遠がそう返すと、瀬川絵理菜は苦笑した。「展示を見ている間、結局、あたしは美術が好きなんだなって、自分でも思いました」 自嘲まじりの、どこか悲しい笑顔だった。「でも、あたしにはもう、作品を作れる気がしません。いいアイデアだと思ったのに、それはすでに存在してたんです。 あたしは才能のない凡人で、実力もないから、きっとこの世界ではやっていけないんです」 涙をこらえるような彼女の語りに、間遠も前を見つめて言った。「オレの話、聞いてもらってもいいですか?」「ええ、何ですか?」 少し戸惑った様子の彼女だが、かまわずに間遠は語り始めた。「オレ、学生時代はずっと陸上部だったんです。長距離の選手で、夢は大学で箱根駅伝を走ることでした」 久我と出会う前の話だ。「大学にもスポーツ推薦で入って、駅伝に人生をかけていたと言ってもいいくらいでした。 でも、大学二年の時、練習中に他の選手と接触して、転んでしまったんです」 ほんの一瞬の出来事だった。避けようとしたが間に合わず、次の瞬間には地面に倒れていた。「それで膝の、半月板を損傷してしまって、走れなくなりました」 瀬川絵理菜が小さく息を呑んだ。「リハビリをどんなに頑張っても、選手として復帰するのは無理だと医者に言われて、泣きました。 せっかくここまで頑張ってきたのに、あと少しというところで夢を奪われた。でも、誰が悪いわけじゃない。ただ、運がなかったんです」 あの頃の苦しみは、今でもまだ鮮明に思い出せる。「すべてどうでもよくなって、オレは大学を中退しました。今の瀬川さんみたいに、オレも生きる意味を失ったんです」「……それで、どうしたんですか?」 間遠はひとつ
آخر تحديث : 2026-01-29 اقرأ المزيد