「父が、見ず知らずの若い女に貢いでいるんです」 中野駅からほど近い雑居ビルの二階。 白地に青文字で書かれた看板が目印の久我探偵事務所で、依頼人の女性は訴えた。 所長の久我健人は真剣なまなざしで聞き返す。 「どういうことか、くわしく聞かせていただけますか?」 「はい。去年母を亡くして、父は今、一人で住んでいるんです」 パーテーションで仕切られた応接スペースで、依頼人・宮崎春香は伏し目がちに言う。 「この前、父の口座の預金が減っていることに気づいて問いつめたら、若い女性に何度もお金を渡しているらしくて」 と、かばんから数枚の写真を取り出した。 「買わされていたんです。幸福になれる線香とか、気持ちを穏やかにさせる石とか、とにかくよく分からないものを、父は相談もなく買ってたんです」 テーブルに置かれた写真を見て、久我はあごに手をやった。 「なるほど、悪質商法ですか」 「これって詐欺ですよね?」 「ええ、おそらくは。ですが、何故うちに依頼を?」 久我がふと不思議に思ってたずねると、宮崎春香は答えた。 「それが、父はまったく相手を疑ってないんです。話をすると、彼女、中山さんのことを悪く言うなって、怒り出す始末で……。 どうか父には冷静になって考え直してもらいたいので、詐欺である証拠を見つけてほしいんです。お願いします」 切実な訴えに久我はうなずいた。 「分かりました。では、現時点で中山さんについて分かっていることを、すべて教えてください」 依頼人が帰っていくと、久我はデスクで退屈していた金髪の青年に声をかけた。 「間遠、向かってくれるか?」 やんちゃな顔つきをした間遠桜が顔を向けてたずねる。 「どこですか?」 「場所は練馬区大泉学園町だ。依頼人の父親が詐欺に遭っているそうだが、肝心の父親がそれを認めないらしい。 そこで、詐欺である証拠を見つけてほしい、というのが今回の依頼内容だ」 「詐欺っすか。じゃあ、まずは聞き込みってところっすね」 と、間遠が立ちあがる。 「ああ、依頼人の父親の生活状況について、調べてくれ」 「分かりました」 「詳細な情報と必要な資料は、あとで君のスマホへ送信する」 久我の言葉に間遠はうなずき、椅子の背にかけていた上着を羽織
Last Updated : 2025-12-04 Read more