All Chapters of 偽物クズ夫に別れを告げ、スパダリと政略結婚します: Chapter 21 - Chapter 30

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第21話

一花はこれ以上、侑李の邪魔をしたくなかったので、彼にホテルのエレベーター前まで送ってもらってから、すぐに彼に言った。侑李は笑った。「分かった。じゃ、何かあったらすぐ僕に連絡してね」「ええ」と答え、一花は彼に手を振った。しかしこの時、エレベーターの扉が閉まるところを誰かが手で押さえ、中に入ってきた。エレベーターの空間は十分あるというのに、その人物がぶつかってきて、一花は危うく倒れてしまうところだった。「茉白(ましろ)」近くにいるシャネル風のセットアップを着たその女性のほうへ視線を向けた時、侑李の声が耳に入ってきた。茉白と呼ばれた女性は黒髪のロングウェーブで、きつい香水の匂いを漂わせていた。彼女は一花を一瞥すると、すぐに侑李のほうへ顔を向けた。「侑李、新しい彼女?」「何が新しい彼女だ。そんな適当な事を言うんじゃない。彼女は従妹の西園寺一花さんだよ」この時、侑李は少し不機嫌そうにしていたが、茉白に対する口調は厳しくはなかった。「西園寺一花?あの、西園寺匠の隠し子?」茉白は首を傾げて、まじまじと一花を品定めするかのように見つめた。一花は黙っていた。彼女はこのように傲慢なお嬢様には好感を持てないし、わざとぶつけられてとても痛かったのだ。「茉白、そんな言い方は失礼だぞ。彼女は匠おじさんの実の娘さんで、僕の従妹でもある。それに、西園寺家の後継者なんだぞ」「西園寺家の後継者だからって何よ?別に私は西園寺家の人間でもないし、この子だって私の姉妹でも何でもないわ」茉白はそう言い終わると、侑李が話す前にエレベーターのボタンを押した。侑李も中に入ろうとしたが、間に合わなかった。扉が閉まると、茉白は何も言わず、一花も黙っていた。この茉白とかいう女は侑李の知り合いだろう。二人の話し方は友好的でなく、明らかに彼女は侑李に突っかかっていた。一花はそんなことに構うのは面倒で、扉が開くとすぐに出ていった。一花が部屋の前に着くと、侑李から電話がかかってきて、ちゃんと部屋に到着したか心配して尋ねてきた。その後、侑李からあの茉白と呼ばれた女性は二階堂家の養女で、彼とは幼なじみと言えるそうだ。傲慢な性格をしているが悪い人間ではないから、彼女の言った言葉を真に受けないでほしいとのこと。「二階堂?あの玩具メーカーの?」一花
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第22話

かなりの時間迷ってから、一花はメッセージを送った。【伊集院さん、もうお休みになりましたか?】そのメッセージはまるで深海に沈んでいってしまったかのように、一花が携帯画面と二十分睨めっこしていても、まったく返事が来なかった。柊馬が投稿したのはたった一分前のことだというのに。彼は携帯を見ているのに、無視する気か?このようにしたのは別に何かの意図があったからではない。ただ一花は今四面楚歌状態で、どうにも不安だったからだ。そしてこの政略結婚こそ、彼女がただ一つ頼りにできる支えだった。相手が積極的になってくれないので、一花のほうから営業周りをするかのように積極的になるしかなかった。すると突然、一花の携帯が光った。柊馬からだと思いすぐに携帯を手に取ってみたが、慶からかかってきた電話だ。そしてうっかり、応答ボタンをタップしてしまった。切りたいと思っても間に合わず、慶の声が耳に入ってきた。「一花、ずっと返事をくれないけど、まだ怒ってるの?」慶の声は相変わらず優しかったが、今この瞬間、一花の耳には普段よりも倍で気持ちが悪く感じられた。すると彼女はすぐに携帯を耳から離してしまい、彼の質問には答えなかった。「今寝るところなの。何か用?」一花の冷ややかな返事を聞いて、慶は彼女がまだ怒っていると確信した。しかし、一花は怒ってもすぐ機嫌を取るのは簡単だし、彼の言う通りにする人間だった。だから、今回一花が小さな事で腹を立てて、会社にとって重要な時期に休みを取り、家に帰ろうとしないのが慶にとってはかなり意外だった。それと同時に機嫌を悪くしていた。それで一花を少し懲らしめてやろうと、二日間わざと彼女に連絡しなかったのだ。しかし、今会社の損失は莫大な数字となってしまっているので、慶もいつまでもこの状況を続けるわけにはいかず、自分のほうから折れることにした。「母さんと柚葉の件は、俺が君の気持ちを考えなかったせいだ。全部俺が悪かった。今後はあの二人に君の邪魔なんかさせないからさ。父さんも柚葉と母さんにはきつくお仕置きしたんだ。二人も電話で君に謝っ……」「私と直接会って謝罪はしたくないんでしょ?」するとそこで一花がグダグダと彼の話を聞いていられず、彼の言葉を遮った。慶は一花がここまで譲ろうとしないとは思ってもいなかった
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第23話

慶はすぐに我に返った。「一花、一体何を言っているんだ?今まではこんなことは一切興味を示さなかったじゃないか。黒崎グループは俺たちの努力の結晶だ。俺たちは夫婦なんだから、そもそも株の権利は君にも半分あるのと同じだろう。今、こんなことをするなんて余計なことじゃないか。それに……会社の事なら君はよく分かっているはずだ。父さんと代表株主たちの株式を合わせれば、俺よりはるかに多いってこと。だから、君の望みを叶えたくたって、できっこないんだ。それに頑固頭たちは女性に会社を率いらせるなんて認めないよ。もし、本気で君がこんなことをしようものなら、攻撃の的になるぞ。君がひどい目に遭うところなんて見てられないよ。だからこそ、最初君に会社の株を渡さなかったんだ」慶は会社の株主たちのせいにして、うまく一花の要求を回避し、それと同時にあたかも一花のためを思ってのことだというふうに見せていた。「そうよ、私たちは夫婦よ。私に株を譲渡したとしても、それは夫婦の共同財産になる、そうでしょ?」慶に言いたいように言わせておいて、一花は彼の話に合わせて言った。「私だって会社のために言ってるのよ。黒崎家とあなたのためでもあるわ」慶は悶々とする気持ちを心に留め、その苛立ちを吐き出したかった。しかし、言い返そうと思っても、今日の一花はまるで人が変わってしまったかのように、少しも言いくるめることができない。この女はここまで気性が荒かったか?それとも、一花は心変わりしてしまい、このように歯向かってくるのだろうか。「一花、俺たちはやっとのことで一緒になれたんだぞ。たかが家庭の事で君と仲違いするようなことはしたくないよ……」慶は口調を和らげ、声も落ち着かせて情に訴える作戦に出た。今までは二人がいくら喧嘩しても、結婚する前いかに黒崎家の反対を押し切って、どうしても結婚してやるという姿勢を貫き通したかを思い出させてやれば、一花は必ず譲歩してくれたのだ。しかし今回はそうではなかった。慶がまだ言い終わっていないのに、一花は淡々とした冷たい口調で彼の話をばっさりと切ってしまった。「慶、男の人がお金をどこに使うかで、愛してくれているかどうか女は分かるものなのよ。私が黒崎グループのために、ひたすら自分を犠牲にしてきたの。だから、あなただって私に同じように惜しまずに誠実な態度
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第24話

しかし、送金されただけで慶からは一言も連絡はなかった。一花は鼻で笑った。彼がこのように黙ってただお金だけ送ってきたということは、彼女の心を掴むためなのだと一花にはその目的がはっきり分かっていた。慶は一花にこのようにする意味は何なのか考えさせ、さらに彼女への深い愛情があるのだと思わせる作戦なのだ。一花は筆頭株主となる権利を主張したが、慶はそれに同意しなかった。しかし、大金なら迷わず渡してきた。つまり彼が先に少し折れたふりをして、その低姿勢を一花に見せようとしているのだろう。一花が意地を張るのをやめて、後ろめたさを感じれば、慶はまた完璧な良い人に戻れる。そして一花は引き続きおとなしく犠牲を払ってくれるはずだと思っているわけだ。しかし残念なことに、このような小賢しい恩着せがましいやり方は、以前の一花を騙せても、今の彼女を騙すことはできないのだ。一花の予想は当たっていた。慶は一花が送金されたのを確認して自ら連絡してくるのを待っていた。しかし、彼が一晩待っても、一花からは何の連絡もなかった。そして一花のほうも暇ではなかった。その送金通知を確認した後、もう一つメッセージが届いていることに気がついた。メッセージを開いてみると、柊馬からの返事だった。20分前に彼は一言【まだです】とだけ返してきていた。それを見た瞬間、一花は少し安心した。そして一花は何度も文字を打っては消してを繰り返した。柊馬の返事は機械的なもので、明らかにあまりしゃべりたくないようだ。またメッセージを送ったら邪魔だと思われて失礼じゃないだろうか。しかし、彼女のほうから連絡して、向こうが返事してくれたのに黙ったままでいるのも、あまり良くないだろう。暫く迷ってから、一花はやはりまたメッセージを送った。【伊集院さんのSNSを見たんです。それで、ちょっと挨拶しようかと思って】【今、A国にいるんですか?】すると今後の返事はすぐに返ってきた。一花はさっきのメッセージを送ったら、おしゃべりはそこで終了するものだと思っていた。彼女はまた彼に返事をした。【ええ、慈善団体のパーティーに参加するんです。伊集院さんもいらっしゃいますか?】柊馬が彼女のいる場所を知っているということは、彼も招待されている可能性が大きい。柊馬に会うのを想像した瞬間、一花
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第25話

彼が話し終わるたびに会場からは盛大な拍手が巻き起こっていた。画面越しの一花ですらも思わず拍手していた。プロで能力のある人間というものは、ここまで人を魅了するものなのか。柊馬は冷たいオーラを放ちステージに立ち、完璧すぎて近寄りがたい存在だったが、全身から男らしい魅力が漂ってくる。その中継を見終わると、一花は柊馬が冷たい人間で近寄りがたいのは当然だと思った。ここまで非常に優秀な人だから、ただみんなが手の届かない憧れの存在でいるだけで十分だ。自ら社交や恋愛をしに行くなんか必要はない。携帯には何もメッセージは送られてこなかった。一花はやっと眠気に襲われて、寝てしまった。翌日の夜のパーティーでは、勇は一花に半分だけ付き合い、用があって先に離れた。そして侑李のほうも忙しい人だ。電話がかかってくるのだけでなく、彼の元に話したくてみんな集まってきていた。一方、一花はというと、彼女は西園寺家の跡取りであるが、勇と侑李が側にいなければ誰も彼女に近寄ろうとはしなかった。みんなただ名刺を手渡して礼儀正しい挨拶をしていくばかりだ。このパーティーに来ているのは、みんなビジネス界の大物ばかりで、西園寺家に敬意を持っているとはいえ、それは匠と、他の西園寺家のメンバーに対してであると一花もよく分かっていた。彼女のように突然現れた私生児など、多くが軽蔑しているのだ。勇も一花に先にそのことは伝えておいた。会場にいる者たちは、和香と陸斗のことを認めている。彼らからしてみれば、一花が匠の事業を完全に掌握できるとは思っていない。西園寺家の資産とその地位を遅かれ早かれ一花は諦めることだろう。だから、彼らも時期早々に和香たちの気に触れるような行動は取ろうとしない。まずは一花と距離を保って、状況を伺っておくのがベストだからだ。そして一花もそれを気にはしていない。そもそも彼女は西園寺家を代表してこの場に来ているが、兆を超す資産を保有しているのだから、萎縮するわけにもいかない。そして西園寺グループのスピーチに関しては、彼女はあらかじめ入念に準備していた。勇が人に頼んで原稿を作り、彼女自身も何度も手を加えたのだ。スピーチが始まる前、侑李は一花の緊張を感じ取っていた。そしてもし彼女が怖いのなら、彼が代わりにステージに上がってもいいと提案した。一花は
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第26話

一花はこのような場面は初めてなので、いくら気持ちを整えたとしても、やはり緊張してしまった。「あの子は誰だ?西園寺グループの代表は陸斗さんか夫人じゃないのか?」「あなた知らないの?彼女は匠さんの隠し子よ。あの莫大な遺産を運良く相続したって話よ」「西園寺家は彼女しかいないのか。あの女にビジネスの何が分かるってんだ。しかも、ステージでスピーチまでできると?」「西園寺家は今めちゃくちゃね。何も分からない余所者に一族を継がせるなんて、西園寺家もどうやら終わりね……」「あんなに着飾っちゃって、もはやパリコレ状態ね……」「……」一花が数秒戸惑っていると、会場からひそひそ話が聞こえてきて、その声はどんどん大きくなっていった。彼女がマイクに向かってどうすればいいのか戸惑っていると、拍手の音が聞こえてきた。侑李だ。それを見た周りの多くが、彼につられて拍手をし始めた。まちまちに聞こえてきた拍手の音で一花はハッと意識を戻した。するとすぐに気持ちを整え、対面にあるプロンプターに目を移すと、なんと原稿は画面に表示されていなかった。一花はすぐにそれは、彼女をみんなの前で恥をかかせようとした誰かの仕業だと気づいた。会場の拍手が終わり、一花は神経を集中させて一切の迷いなく、流暢な英語を話し始めた。そのよく通る声で最初のフレーズが聞こえだすと、会場の陰口は止まった。一花の専攻は経済だ。この点、彼女に恥をかかせようと思った人間は知らなかったのだろう。大学では海外ビジネスの対応も求められたため、一花は外国語に精通しているだけでなく、即興スピーチもお手の物だ。在学中、一花は毎年英語の即興スピーチで優勝していた。しかも、その内容はビジネス業界を分析したものがほとんどで、この類の話であれば原稿など必要ない。スピーチのモデル文なども全て頭に入っている。彼女の前のスピーチでは翻訳者がついていたが、一花はステージに上がると、翻訳は必要ないと直接断ってしまった。彼女の様子を見て、侑李はようやくホッと胸をなでおろした。5分に及ぶ一花のスピーチは、途中全く止まることはなかった。流暢さ、専門性、さらにセンスのある言語能力の高さは、まさに一流と言えるだろう。そして彼女のスピーチが終わると、会場はまた少しだけ静まり返った。しかしすぐに
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第27話

しかしおかしなことに、一花が何度も自分の席を探しても、自分の名前は見当たらなかった。この時、会場全員が席についていて、ただ一花だけが浮いたように一人立っているものだから、かなり気まずい雰囲気になった。そして料理を手配する責任者が彼女に配慮してこう言った。「西園寺様、すぐ食事をお持ちしますので、お席につかれてください」「分かりました」一花はあるテーブルに空いた席を見つけた。そこは上座でそちらに向かって歩きだした。「ごめんなさい、ここには座っちゃダメよ」一花が腰掛けようとした時、ある女性の声が彼女を呼び止めた。会いたくない人間にほど遭遇してしまうとはよく言うもので、一花の目線の先にはあの二階堂萌絵がいたのだ。萌絵はニヤリと口角を上げ、親切そうにしながらも高みの見物といった目つきで一花を一瞥した。同席している数人の令嬢たちがすぐに顔を下に向けて笑っていた。「席が見つからないの。ここは空いてるんでしょ?」一花がよく確認してみると、そこには席札が置かれていなかった。「ここは予備の席なの。つまり今日来られるか未定の重要なお客様のための席だから、席札を置いていないだけよ。こんなことくらい、誰だって知ってると思ってたけど」萌絵は親切にも一花に説明しているように見えたが、明らかに馬鹿にした言い方だ。一花の無知を暗に強調しているのだ。萌絵が言い終わると、周りの笑い声は大きくなった。「あなたって、初めてこういうパーティーに参加するの?自分の席札が置かれた席に座るって知らなかった?」「そんなまさか、彼女はさっき西園寺家の代表として立派なスピーチを見せてくれたのよ。席も見つけられないなんてわけある?」会場はとても静かで、少しの声が全体の注意を引いた。そして一花はまた注目の的となり、全ての視線が彼女に注がれていた。明らかに一花の席札は萌絵の仕業であり、彼女に恥をかかせるつもりだったのだ。一花はその場に突っ立ったまま、静かにテーブルをサッと確認してみたが、やはり彼女の名前だけなかった。周りはそのシーンを面白そうに見ていた。萌絵は得意げにニヤリと笑っていた。するとこの時、ある女性の声が後ろから聞こえてきた。「主催者はどうしちゃったの?私の名前も見当たらないんだけど」一花が声のしたほうへ振り返ると、そこには茉
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第28話

茉白も一花のために助け舟を出したわけではないのだ。彼女がトイレに行っている時に萌絵が誰かと話している声が聞こえてきた。彼女はただ萌絵の思い通りになる状況が気に食わないのだった。……それに、一花は侑李の従妹だ。昨夜の侑李が一花を庇う様子ときたら、まるで自分が一花をいじめてるかのような反応をされてしまった。「二階堂さんのご好意には感謝します。ですが……私はやっぱりここに座りたいんです」そう言うと、一花はくるりと体の向きを変えて、さっきの空いている席に座った。「あなたね、誰がそこに座っていいと言ったのよ。まったく世間知らずな人だわ、礼儀も知らないなんて!」萌絵は相当頭に血がのぼっていて、周りの目など気にせず立ち上がり一花に向かって大声をあげた。「その通りですけど。だって、私は本当に人生で初めてこのようなパーティーに出席したんですから」一花も卑屈になることなく微笑むと、萌絵の話に続けて堂々とそう言ってのけた。萌絵は言葉を詰まらせた。一花が清々しくも分からないと認め、萌絵はどう返せばいいのか分からなくなったのだ。「だけど、私が来た時に、主催者側も西園寺家も南関市のトップクラスの財閥家であるのだから、上座に座るものだと教えてくれたんです。でないと面子が保てないと。ここは上座だし、席札も置いてないでしょう。ちょうど私の名前も見つからないから、きっとここが私に用意された席だと思ったんです」一花のその言葉には自信が満ち溢れていた。しかし、西園寺家が確かに彼女にこのような自信を与えることができて当然なのだ。西園寺家が見つけ出してきたこのお嬢様への見方を変える必要があるようだ。すると周囲の賓客たちは思わず次々に賛同し始め、人によっては一花の後押しをしていた。「誰の席と決まっていないなら、西園寺さんに座ってもらえばいいでしょう」「西園寺さんは正しい。彼女の身分であればそこに座ってしかるべきだ」すると、萌絵の顔色はどんどん悪くなっていった。最初は横でクスクス笑っていた友人たちも、この時声を出す勇気はなかった。どうやら一花は、そう簡単にはへこたれない性格であるらしく、彼女たちは巻き込まれたくなかったのだ。そしてこの時、主催者側のマネージャーが焦ってやって来た。彼らは宴会場のセッティングに不備があったことに、そもそも
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第29話

しかし、一花は未だに席を譲る気はないらしく、その表情もわざとしているふうには見えなかった。主催者は彼女が容易に説得できない相手だったので、ほぼ哀願して言った。「西園寺様、今回は確かに我々のミスです!今すぐに西園寺様に失礼にならないよう、お席を準備いたしますので!こちらの席は……もともと本日のパーティーで最も重要な方へ残しておいた席なのです。ですので、わたくしのような下っ端に寛大なお心で……」一花は意地になればなるほど気まずくなっていくのを感じた。彼女が席を譲ろうが譲るまいが、どうにも決まりが悪い。萌絵は得意になった笑みを隠すことなく、再び口を開いた。「世の中には最後まで意地を張っちゃって、結局はどうしようもなくなり恥をかいちゃう人間がいるのよね」その萌絵の言葉がきっかけとなり、すぐに多くの人たちが小さな声で囁き始めた。皆一花は早く席を譲るべきだと思うようになった。少なくとも、主催者側の顔を立てれば、少しは体面を保てるだろう。もし、最後に強制的にそこから退かされるか、頑なに留まって相手と衝突するかすれば、最も恥をかいてしまう。一花は口角を微かに上げて姿勢を正し、頭の中を素早く整理してからゆっくり口調で言った。「そちらがミスをしてしまうのは理解できます」一花はとても落ち着いていた。彼女はサッと顔を真っ青にしているマネージャーに目を向ると、口調は突然きつくなった。「ですが、私は西園寺グループの代表として今日はここに座らせてもらいます。西園寺家の面子に関わりますので。そちらは先に私の席を用意するのを忘れて、それから今はまだ到着していない賓客のために、急いで私に臨時の席を用意するなんて、西園寺家は真剣に取り合う必要もない価値のない家門なのでしょうか?」会場にいる人たちはそれを聞いて動転した。誰もが西園寺家はどのような一族なのか分かっている。主催者側のこの態度は、確かに西園寺家を軽視するようなものだ。マネージャーは額に汗を浮かべ、弁明しようとしたが、一花は話し続けた。「もうすぐいらっしゃる予定の方は、自ら出席する意向がおありなのでしょう。もし、あなた達のミスのせいで、その方が『西園寺家の席を奪った』という汚名を着せられることになれば、その方も本意ではないはずよ」つまり、間違っているのは主催者側であって、一花とその賓客にミス
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第30話

柊馬は誰かの顔を立ててやるような気を遣うこともなければ、女性を近づけることもなかった。それで結婚適齢期になっても、伊集院家の年配世代にあれこれと意見できる者はいなかった。このような人物が一介の女に席を取られたというのに、すぐさま厳しく追及することはなく、逆に穏やかな様子でその解決策を聞くとはどういうことなのだろうか。一花はこの時、柊馬の視線を感じて一気にプレッシャーを感じた。しかし、深く息を吸い込み、引き続き落ち着いた様子で言った。「起きてしまったことは仕方ありませんから、そのミスをうまく良い方向へ変えればいいんです」彼女は少し黙って、目の前にある大きなパーティー用テーブルを見つめた。「まだスペースには余裕がありますから、もう一つ椅子を置くくらいどうってことないでしょう。主催者側はすぐにでも伊集院さんの席を同じく上座に持って来ればいいわけです。そうすれば、西園寺家の面子も保たれ、伊集院さんの寛容さも、主催者側の過ちに対する処理能力の高さと誠意も体現できるでしょう。そのほうが、ここから離れるように私に強要して、三方とも居心地が悪くなるよりずっと良いのではないでしょうか?」彼女がそう言うと、会場全体が水を打ったように静まり返った。その場にいた全員が、一花の冷静沈着かつ機転の利いた発言に驚かされた。彼女のどこが名も知れないただの私生児だろうか。明らかに頭の回転の早い鬼才ではないか。まさか一花がたった二言三言でその場を収めてしまうとは思わず、萌絵はかなり不機嫌になっていた。いつの間にか会場に戻ってきた侑李は、その場の中心となり輝く従妹を見て、思わずホッと安心していた。柊馬は暫くの間一花を見つめていて、少しだけ口角を上げ、すぐに主催者に伝えた。「では、西園寺さんの言ったとおりにしてください」」落ち着いた彼の口調からは、怒りや喜びなどの一切の感情は読み取れなかった。しかし、少なくとも柊馬がそれを受け入れたということは、主催者側もお咎めなしだと分かった。「はい、かしこまりました。伊集院様」するとすぐに、ウェイターが急いで新たに席を作り上げた。そしてこの後、パーティーが正式に始まった。一花はこの時も会場全体からの注目を集めていたが、彼女へ疑問を投げかけるような声は聞こえてこなくなった。「どうして俺ば
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