All Chapters of 偽物クズ夫に別れを告げ、スパダリと政略結婚します: Chapter 381 - Chapter 390

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第381話

泰司のその言葉で、柚葉の怒りも少し収まった。一花に復讐しても、せいぜい溜まった怒りを少し発散するしかない。黒崎家が再び立ち上がったら、あのクズ女に自分がどれほどのバカな女かを思い知らせることはできる。本当に、黒崎家のものを騙し取っておいて、永遠に手放さずにいられるとでも思っているのか?安心して暮らせるとでも?とはいえ、一花の電話は通じないが、綾芽の電話ならまだ繋がる。柚葉は家に着くなり、すぐに綾芽に電話をかけた。出ないなら何度でも、執拗にかけ続けた末、ようやく相手が電話に出た。「柚葉さん、一体何のご用よ?」通話が繋がった瞬間、綾芽の怒りが含む声が飛んできた。柚葉は鼻で笑いを漏らした。「用はあるわよ。でも、たとえ用がなくても、あなたはまだ黒崎家の嫁よ。私から電話が来たら出るのが当たり前でしょ?それに、態度はちゃんとしたほうがいいよ」綾芽のほうから騒音がすごく、誰かがそばにいるようだった。だが柚葉は、そんな綾芽の周りの状況などどうでもよかった。ただ綾芽を苛つかせることができれば、それだけで気分がいくらか晴れた。綾芽は電話を切る衝動を必死に堪えた。「一体何の用よ、早く言いなさい」この二日間、彼女は昼夜問わず仕事に夢中だった。今もまさに会議中だ。慶は、そろそろ焦り始めて、自分に連絡をしてくるだろうと思っていた。しかし、彼は一度電話をかけてきただけだ。あとは何度かの「離婚しよう」というメッセージだけで、それっきり音沙汰がない。昨夜には友人の紬からも聞いていた。今では、慶は紬の電話さえ無視しているという。もう、完全に離婚を決め込んでいるのだ。「うちの兄が昨夜、バーで殴られてケガをしたのよ。今、面倒を見る人もいない。どこにいるのかしら?早く戻って、お兄さんの世話をしなさいよ!」柚葉の口調は、当然のことを言っているかのようだった。彼女は、綾芽と慶が離婚しようとしているとは知らない。だが、さっきの男たちの話で、最初は慶を誘惑したのは綾芽だと聞いて、ますます腹が立っていた。年上の女だ。兄よりもなんと六つも上なのに、家の年長者たちの反対を押し切って、こっそりと兄と結婚して子まで産んでしまった……どれほどの厚かましく、モラルのない女だろうか。今、黒崎家がこんな目に遭っているのは、この女と一花のせいだ
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第382話

何より、二人にはかつて一度だけ会ったことがあったのだ。半年前、綾芽が南関市で美術展を鑑賞していた際、同じ趣味を持つ浩之と出会い、二人は同じ絵を購入しようとした。その作品は、福祉施設の子どもたちをテーマにしており、鮮やかな色彩で、子どもたちの孤独を誇張して描いていた。綾芽はその奇抜な色彩に惹かれていたが、浩之は違っていた。今でもはっきりと覚えている。当時、彼が言った言葉を。「俺がこの絵が好きなのは、一度も会ったことのない妹がいるからです」母親が妹を福祉施設に預けた。今、彼は母親の遺言に従い、南関市まで妹を探しに来ていたのだ。だが、これほどの年月が過ぎ、情報も何もないまま、こんな巨大な都市で一人の女性を探すなど、まさに大海原で一匹の魚を探すのと同然だった。浩之も何度か訪れてきて成果なく戻っていたが、たまたま友人の美術展に顔を出し、この福祉施設を題材にした絵を見て、少し感動し、記念に持ち帰ろうと思ったのだという。その言葉に、綾芽も心を動かされた。それで、彼女はすぐに譲ることを決めた。まさか、あの時絵を譲った相手が、京原市での最大手のエネルギー企業のギャロップの副社長であり、京原市でも名高い三条家の御曹司だとは思いもしなかった。浩之の家系は非常に高貴だ。三条家は外交官の名門で、三代に渡って外交官をやっていた。父親の代でようやくビジネス界に進んだが、それも国家の命を受けたもので、新エネルギーと科学技術分野での革新を担っていた。この経緯により、ギャロップは国家からの投資をもらったファミリー企業となり、京原市におけるその地位は言うまでもなく、国内でもトップクラスに入っている。綾芽の両親も、研究所を退職してからというもの、ずっとギャロップで勤務している。ちょうど今、ギャロップは南関市に支社を設立する計画を進めており、プロジェクト自体はまだ正式に決まっていなかった。綾芽は当初、両親に頼って、今回のチャンスをつかもうと考えていた。まさか、そこで浩之と再会することになるとは。浩之は元々、綾芽に対して印象が良かった。それに、彼は才能ある人材を大切にする人で、綾芽の論文に記された非常に優れた研究データ、そして何より、その両親が会社の管理職であることを見て、即座に相手に投資することにしたのだ。綾芽が今回京原市を訪れていたの
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第383話

「そ、それは……三条副社長、恐縮です」「気にすることなんてない。君のご両親には、俺から話を通しておく。あなた達は家族でしょ、ちゃんと話せば、以前何かあってもちゃんと和解できるはずだよ」浩之のその言葉に、綾芽の頬が少し紅潮した。どうやら、彼は自分と両親が不仲であることを知っているようだ。「……どうして、うちのことを?」浩之は淡々とした様子だった。「採用にあたっては、バックグラウンドチェックも必要だ。形式的なものではあるが、ご両親に少しお話を伺った。ただ、二人から特に具体的な話は聞かなかったよ。ただ、娘は若くて何年前から家を出ていったので、慎重に検討してほしいと言ってたね」家の恥ずかしいことは外に晒すものではない。柏木両親が、娘の愚痴を他人に漏らすはずもない。とはいえ、どれほど取り繕ったところで、その立ち振る舞いがすべてを物語っていた。長年にわたり綾芽が見せた冷酷なまでの振る舞いは、すでに両親に失望されていた。今回、綾芽が戻ってきて和解を求めたとしても、表は彼女と颯太を受け入れたものの、警戒心は完全に拭えてはいなかったのだ。黒崎家にいじめられて戻ってきたとはいえ、また数日経てば黒崎家と仲直りして、自分たちを馬鹿にするような真似をするのではないか。そんな疑念が、根強く残っていた。たとえ自分たちが騙されても構わないが、そのせいで会社にまで迷惑が及ぶような事態だけは、どうしても避けなければならない。両親がそんなことを言っていたと知り、綾芽の目にもかすかな冷たさが走った。それでも彼女は笑みを浮かべて言った。「両親は私に対して、少し厳しい教育をしていましたので、ご心配をおかけして申し訳ありません」「どこの家にも、違う悩みというものがある。もし俺が君の立場なら、両親がまだ元気なうちに、ちゃんと向き合うと思うよ」浩之は綾芽を見つめながら、静かにため息をついた。彼自身、六歳の時にすでに母親を亡くしている。だからこそ、家族や家庭というものは、何よりも大切なものだと心から思っている。「三条副社長、ご配慮ありがとうございます。これからは、両親ともちゃんとやっていきます」綾芽は素直な口調で答え、また言った。「レストランの住所を教えていただければ、時間通りに伺います」浩之は満足げに頷いた。綾芽は確かに優れた女性だ。見た目も能力も
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第384話

泰司は、本当に柚葉を連れてきたことを後悔していた。柚葉ときたら、少しも頭を使っていない。黒崎家の今の有様を考えれば、いきなり名刺を渡そうだなんて、白い目で見られるのがオチだろう。「入場したら、地位によって席のエリアも違うわ、しょうがないでしょ」柚葉もまた、不満げに言い返した。だが、彼女はまだ挫けてはいなかった。自分では無理でも、母と祖母がいる。京子は、かつて社交界では名の知れた名家の夫人だった。ここ数年はずっと家でゴロゴロしたりお茶を楽しんだりしていたが、親交のある友人の旦那たちは、相当な実力者たちだ。たとえ黒崎家を避ける人が多かろうとも、彼女個人に対しては、まだ顔を立ててくれるはずだ。さらに久子となれば、尚更、黒崎家の面子を保てる。祖父である武雄は、かつて南関市の投資家たちと長く付き合い、一大企業を築き上げた男だ。彼は気前がよく、見返りを求めず人を助けるような人柄だったため、業界内での信頼は非常に厚い。それにより、久子ならば、多くの投資家ともまだまだ話ができる立場にある。……そんな風に、柚葉が会場外をイライラしながらうろついていると、一台のロールスロイスが突然視界に飛び込んできた。その長いボディは、まるで移動する黒い宮殿のようで、その華麗で圧倒的な存在感は、周囲の車両を一瞬で霞ませてしまっていた。「これは一体、どこの大物よ」柚葉は興奮のあまり、すぐに泰司の腕をギュッと掴んだ。泰司もまた、その車に目を向けていた。車がゆっくりと停止し、まだ誰かが降りてくる前に、すでに何人もの賓客とスタッフが駆け寄って、車の周囲を固め始めていた。これほどの大袈裟な演出に、泰司も眉をひそめながら呟く。「おそらく、西園寺家の者だろうな」今日のサミットに招待されているのは、業界を代表する企業のトップか、国内の大物たちばかりだ。だが、南関市に限って言えば、まず真っ先に思い浮かぶのは、やはり西園寺家だ。「西園寺家?あの、西園寺家の令嬢が来るってこと?」柚葉の目からは、興奮の色が浮かんできた。彼女は普段あまりビジネスの世界に興味を持ってはいなかったが、あの騒がれた後継者のニュースだけは、記憶に強く残っていた。柚葉にも自覚はある。西園寺家のような大物に取り入るなど、自分ごときが口出しできる領域ではない。それでも、好奇心は抑えきれ
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第385話

たとえその姿が見えたのが一瞬だけだったとしても、柚葉の目は鋭いので、絶対に見間違えてはいない!「水瀬さん?彼女も来てるってことか?」泰司はまったく状況が飲み込めず、柚葉が指し示す方向へ目を向けたが、そこにいたのはもう警備員たちだけだった。「違うわ!さっきあの車から降りてきたの、あの女よ!」柚葉は焦った声で言い切った。泰司は笑みを浮かべた。「お前、彼女に仕返ししようとして頭がおかしくなったんじゃないか?水瀬さんがたとえ来てたとして、そんな派手な登場で来るか?幻覚でも見てるんじゃないか?」彼にそう言われ、柚葉も一瞬、自分の目を疑った。だがすぐに、彼女は振り返って受付へと駆け寄った。案の定、女性は周囲を警備員とアシスタントに囲まれながら、丁寧に到着のサインをしていた。「水瀬一花!」近づくこともできないので、彼女は思い切って大きな声で名前を呼んだ。一花はかすかに自分の名を呼ぶ声を聞き、どこか聞き覚えのある声に、思わず視線を上げて回りを見回した。人混みの向こうに、柚葉の姿を捉えた。上司の名前を平気で呼ばれたことに、傍らにいたアシスタントと警備員たちは驚きを隠せない。すぐに小声で確認を取る。「お嬢様、ご存知の方でしょうか?」一花は一瞬驚いていた。それから姿勢を正し、真正面から柚葉と視線を合わせた。その時、泰司が追いついてきて、柚葉の身を抱きかかえるように抱き寄せた。「柚葉、やめろって。こんな場所で騒ぐんじゃない……」「ちゃんと見てよ、あれ、あの女なんだよ!」柚葉の声に、泰司の言葉は遮られた。そして彼もまた、動きを止めて硬直した。目の前にいる女性は、紛れもなく一花だった。彼女の容姿は相変わらず、冷たく艶やかで美しい。遠目にも、人混みの中でひときわ際立っていた。だが、かつて黒崎家にいた頃とは、もう何もかもが違っていた。一花はまるで生まれ変わったようだった。服装や外見だけでなく、立ち振る舞いに漂う空気までが、高貴で圧倒的なオーラを放っている。どこか見知ったような、それでいてまったくの他人のような、そんな印象だった。「み、水瀬さん……」泰司は眉をひそめた。一花の姿を見て、彼もまた相手に詰め寄ろうとしたが、すぐに彼女の近くにいる警備員に腕で遮られた。一花は冷たく二人を一瞥し、これ以上関わる気はない
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第386話

だが、泰司と柚葉はそんな状況に気づいてもいなかった。目の前では、一花がハイヒールを鳴らし、優雅な足取りでゆっくりとこちらへ近づいてくる。「水瀬さん、彼女の言ったことを気にしないでください。柚葉はただ一時的に感情的になってしまっただけだ。実は、ちゃんと話せば……」泰司は、その場の空気を緩めようとした。そもそも彼は黒崎家の人間ではない。それに、一花が実力で会社を手に入れ、社長の座についたのなら、それは彼女の腕次第だ。彼はこの因縁に巻き込まれるのはごめんだ。できるだけ穏便に、無害な「善人」でいたかった。だが一花は彼に一瞥だけし、泰司もまた、背後から腕を取られ、口を押さえつけられてしまった。「黒崎柚葉、聞き間違いではないわね?あなた、私を罵っていたのね?」一花は柚葉の目の前で足を止め、わずかに口角を上げた。柚葉は三人の警備員に無理やり押さえつけられ、口も塞がれていた。だが一花が言い終えて合図するように少しあごを上げると、彼女の口を押えていた警備員は手を離した。「当たり前でしょ!罵るに決まってるじゃない!ク!ズ!お!ん!な!」柚葉は一花をまるで恐れず、すぐに歯を食いしばってその言葉を吐き捨てた。その声は大きかった!だが一花は、まるで言わせて待っていたかのように、言葉が途切れるやいなや、凄まじいビンタを一発、彼女の顔にお見舞いした!柚葉は激しい痛みに襲われ、一瞬、視界が真っ暗になった。口の中にはすぐに血の味がした。警備員に両腕を強く押さえつけられては、少しも避けることなどもできなかった。一花は手首を軽く動かした。わざと、二つの大きな指輪を嵌めた手で殴ったのだ。大粒のダイヤモンドは、まるで武器そのもの。一花はついさっきその指輪のダイヤの方向を裏にずらしたので、その硬質な宝石を指で挟んだ。泰司は一花の容赦ない動きに、思わず身を竦ませた。だが自分も動けない。周囲を見回して、ようやく気づいた。もう他人の姿はなく、残っているのは自分たちと、一花の部下たちだけだ。あの警備員たちはどこへ行った?どうして止めに来ない?柚葉は口の中の血混じりの唾を、グッと強く吐き出した。自分の口元から血が滲んでいるのを見て、彼女は一花を丸ごと喰いちぎらんばかりの憎悪に駆られた。「あんた!よくも、私を殴ったわね!?」「あなたが罵るのな
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第387話

傍のアシスタントは即座に答えた。「ご命令さえあれば、そのような事があるはずがありません。お嬢様が、西園寺家の、そして西園寺グループの唯一の後継者ですから」アシスタントは、主人の意図を理解していた。わざと、一言一言明確に語っていた。「……」泰司はその言葉を聞き、思わず深呼吸してしまい、冷たい空気をいっぱい吸い込んで何とかしてその衝撃を受け止めた。まさか……一花が、あの何兆以上の遺産を相続した西園寺家の令嬢だというのか?柚葉もまた、目玉が飛び出るほど驚愕した。しかしすぐに、どうしても信じられないと思った。ありえない!そんなはずがない!一花は、児童養護施設出身の孤児だろう!名家の令嬢とはどういうことだ?今、彼女はいい加減なウソを並べて……何人かの手下を使って脅そうとしているだけだ!「……」しかし柚葉の口は塞がれており、声を出すこともできず、ただ体で拒否の意思を示すことしかできなかった。「黒崎柚葉、今、私の身分を知ったのなら、理解すべきよ。黒崎グループを破産させるだけに留めたのは、どれほどまでに私が慈悲深いかということをね。お兄さんに伝えておいてちょうだい。私の物をきちんと用意しておくように。後ほど、誰かに受け取りに来させるから」一花は冷たくそう言い放つと、先に振り返って立ち去った。あの頃、彼女は慶を心底憎んでいた。一度きりの復讐では、全くもって不十分だと思った。あの男には苦しんでほしかった。彼の事業や評判、感情、そして家族さえも、次々と砕け散っていくのを、その目で実際にしっかりと見させてやりたかった。今や黒崎グループはガラクタ同然、黒崎家はすでに破産寸前、慶と綾芽も南関では誰も相手にされない存在となった。彼女の復讐は、もはや終わりを迎えた。ただ、一花の心にはもう、復讐の快感など消え失せており、ただただ呆れた感情だけが残っている。黒崎家も、黒崎慶も、もう、自分の時間を無駄にさせる価値すらない。これから、彼らが死のうと生きようと、善人であろうと悪人であろうと、もう自分とは関係のない話だ。一花が去ると、すぐにアシスタントは手を上げ、警備員に二人を何とかしろと指示した。少しだけ痛い目を見せてやって、騒ぎにはしないように。柚葉と泰司は、荒々しく会場から叩き出された。一花のボディガードたちは二
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第388話

彼はすぐに上司に電話をかけた。今頃、すでに会場内に入っているはずだ。西園寺家の令嬢が来ていれば、もちろん紹介もされているだろう。尋ねてみれば、すぐに分かることだ。そしてすぐに、電話が繋がった。柚葉はハラハラしながら、自分からスピーカーモードに切り替えた。「横沢社長」泰司が声をかけると、相手は早速詰問してきた。「お前、どこにいるんだ?まだなのか?今日すごく大事だって言ったはずだぞ!遅れるなって!」「すみません……ちょっと途中でアクシデントがあって、多分間に合わないです……」万が一、泰司は本当のことは言わなかった。もし本当に一花が西園寺家の令嬢なら、上司に知られた瞬間、最初に自分がクビになるだろう。「何てことだ、せっかくの視野を広めるチャンスなのに、本当に足を引っ張るなぁ!」相手は小言を吐くと、すぐに電話を切りたがった。周囲は騒がしく、多くの大物たちが入場してきて、多くの人々が次々と名刺交換に押し寄せていた。彼もまた、すぐに合流しなければならない。「あ、横沢社長、ちょっとお聞きしたいことがあるんですが、西園寺家のご令嬢、もう到着されていますか?」泰司ももう何かを構っている場合ではなく、単刀直入に尋ねた。「お前な、本人すら来てないくせに、そんなこと聞く必要あるか!」電話の向こうは、明らかに不機嫌な口調だった。ちょうどその時、会場内で突然、周りが騒ぎ、中央エリアに、しなやかな姿の女性が入ってきた。ボディガードが彼女の周りを厳重に囲み、進む方向はVIP席の最前列のあたりだった。傍らにいた誰かが、声を潜めてこうつぶやいた。「あの人が、西園寺家のご令嬢、西園寺グループの唯一の後継者ですな」「え、あんなに若いのに?」横沢も首を伸ばし、前の方へ数歩踏み出したが、それでもほんのわずかな横顔すら見えない。さらに前へ進もうとすると、そばにいた警備員が制止してきた。むやみに歩き回らず、まずは着席するよう促された。泰司は、その向こうの声をしっかりと拾った。「西園寺家のご令嬢、見えましたか?」「ああ、まあね……すこし見えたかな」横沢は、少しだけ歯ぎれの悪い口調で答えた。かすかなシルエットでも、見たことになるだろうと思っていたのだ。「どんな服を着てましたか?どんな顔してたんですか?」柚葉がつい口を出してしま
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第389話

浩之が去ると、綾芽の表情もまた曇った。京子は遠くから綾芽の姿を捉えると、慌てて追いかけてきたのだ。柚葉はまったく頼りにならなかった。入り口で二人を迎えると、警備員から入場を拒否された。なんと、柚葉と泰司の参加資格がすでに取り消されているという。理由を尋ねると、先ほど一花と入り口で衝突があったためらしい。一花がこのような場所に来ることは、彼らとしても驚きではなかった。今、彼女は会社の一番重要なプロジェクトを横取りし、自分の会社を持っている。多少の資金力があれば、ここに入り込むことも難しくはないのだろう。だが、一花と衝突したからといって、なぜ制限までされなければならないのか?まったく、人を見下ろすように、こちらが弱いと思い込んで、勝手に決めつけるとは!京子はもう、大騒ぎをするつもりだった。その時、柚葉の目が鋭く、綾芽の姿を一目で見つけた。綾芽が会場に入っていくのを目撃し、一緒に彼女の名を呼んだ。「どうして、あなたたちがここに?」綾芽は急いで彼らの元へ近づくと、つい慶の姿を探そうとした。しかし、彼の姿はどこにもない。柚葉の口元には傷がついており、今、綾芽と対面しても、さっきまでのような鋭さはなくなっていた。「泰司さんが私たちを連れて参加させてくれるって。綾芽さん、あなた、お兄さんの面倒も見ずに、ここで何してるの?」柚葉のその言葉に、久子も何かを察したようだ。「慶がどうかしたの?」柚葉も、最初は慶を連れて来ようと考えていた。だが、何度かけても電話に出ない。怪我で休養が必要かもしれないと思い、それ以上は連絡しなかった。久子と京子に対しては、慶には他に用事があって忙しいので、今日は来ないと言っておいた。久子は自然と、慶が綾芽と離婚協議をしているのだと受け取った。「お、お兄さんは……昨夜、酒を飲みに出て、誰かに殴られてしまったの」柚葉はもう隠しきれず、正直に打ち明けた。久子と京子の表情が一変した。特に京子はすぐに息子を思いやり、柚葉の袖を引っ張って詳しい状況を聞き出そうとした。泰司は一家のグダグダにうんざりし、綾芽にストレートに聞いた。「綾芽さん、あなたは慶さんの代理で来られたんですか?」その丁寧な話し方に、綾芽の気分が少しだけ和らいだ。彼女は視線を黒崎家の人たちのほうへちらりと移し、冷た
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第390話

どうやら綾芽は、本当に幸運の女神に気に入られているようだ。あっという間に、京原市の資本家の後ろ盾を得るとは。もし彼女の言うことが本当なら、黒崎家も、ギャロップの力を借りれば、すぐにでも復活できるのではないか?柚葉はギャロップという会社については何も知らないが、綾芽の話が本当だと分かると、珍しく皮肉な口を叩かなかった。「それならいいわ、あなたも参加できるのなら、早く私たちを中に入れてよ。泰司の上司はまだ中にいるんだから」「……」綾芽は唇を結び、柚葉の言葉には乗らなかった。しばらくして、彼女は腕時計に目をやった。「もう行かなくちゃ。中で友達が待ってるし、あなたたちがここの来たのも予想外だわ、連れて入るわけにはいかない」そう言うと、綾芽は踵を返して立ち去ろうとした。泰司は焦った。だが彼には分かった。綾芽は、久子たちに見せつけているのだ。柚葉は慌てて彼女を呼び止めた。「柏木!恩知らずにもほどがあるわよ!」「恩知らずなのは、どっちの方かしらね?」綾芽は鼻で笑い、振り返って久子を見つめた。「人に頼むなら、頼むにふさわしい態度を取るべきでしょう」京子は一瞬何かに気づいたように、そっと久子をチラッと見た。綾芽が颯太を連れて家を出た件は、もちろん彼女も知っていた。この間、京子は則孝の世話をしており、他のことは構っていられなかったが、使用人たちの口から、慶が綾芽に離婚を申し出たことは聞いていた。それは彼女にとって、喜ばしい話だった。綾芽をこのまま嫁にしておいたら、自分の寿命は三十年ほど減るかもしれない。どうやら、離婚は慶が自ら進んで言い出したのではなく、久子が圧力をかけたらしい。一花が黒崎家であの騒動を起こして以来、京子ももう、綾芽と正面から張り合う勇気はなくなっていた。女が残酷になると、防ぎようがない。綾芽が第二の一花になるかどうかなんて、誰にもわからない。黒崎家はもう、これ以上の衝撃には耐えられない。久子も、おそらく同じことを考えているだろう。彼女の顔色は青ざめ、完全に血の気を失ってしまった。深いしわの刻まれた顔はこわばり、筋肉も攣っているようだ。しばらくして、やっと嘲笑するように笑った。「綾芽さん、どうか、私の言うことは気にしないでね。今の黒崎家の状況、あなたもよく分かってるでしょう。
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