それから幾つの季節が巡ったのだろうか。 時間の概念は、このシャトー・ド・オンブルにおいては、外界のそれとは異なる速度で流れている。時計の針が刻む客観的な時間ではなく、互いの脈拍と呼吸によって計測される、主観的で濃密な時間。 確かなことは、かつて城を支配していた死の冷気と、あのむせ返るような百合の腐敗臭が消え失せたということだ。 代わりに今、高い天井の回廊を満たしているのは、乾燥した古書のインクの匂い、磨き込まれた床ワックスの香り、そして厨房から漂ってくる焼き立てのパンと、甘く煮詰められた果実のコンポートの香りだった。 それは「生活」という名の、温かく、少しだけ埃っぽい匂いだ。 透子は、この城の女主人として――いや、もっと正確に言えば、この城という巨大な書物の共同執筆者として、今もここで暮らしている。 日本へ帰るためのチケットはとうに期限切れとなり、パリの工房も閉じた。 彼女が帰るべき場所は、地図上のどこかではなく、一人の男の腕の中にしかなかったからだ。 初夏の陽光が降り注ぐサンルーム。 大きな窓辺に置かれた長椅子で、アラン・ド・ヴァルモンが微睡んでいる。 膝の上には、読みかけの古い詩集が開かれたまま乗っている。風がページを捲り、乾いた音を立てるが、彼は目を覚まさない。 透子は部屋の入り口で足を止め、その寝顔を静かに見守った。 長い睫毛が落とす影。薄い皮膚の下で透けて見える青い血管。 彼の病は、奇跡的に完治したわけではない。 ヴァルモン家の血に巣食う呪いは、依然として彼の骨髄の中で眠っている。時折、発作が彼を襲い、そのたびに死神が黒いマントを翻して扉を叩く。 だが、そのたびに透子は彼を現世へと引き戻す。 薬や医療器具によってではない。 栄養価の高い食事と、十分な睡眠、そして毎夜繰り返される濃密な性愛の儀式によって。 透子は確信している。 愛とは、プラトニックな精神論ではない。それは、きわめて物理的で、生理学的な現象だ。 皮膚と皮膚が擦れ合う摩擦熱が、冷えた彼の体温を上げる。 交わされる唾液や体液が、枯渇しかけ
Terakhir Diperbarui : 2025-12-20 Baca selengkapnya