Todos os capítulos de 雪の精霊~命のきらめき~: Capítulo 181 - Capítulo 190

193 Capítulos

第181話 立つ鳥跡を濁さず

 コンサートさながらの熱狂は過ぎ去り、体育館内には静寂が戻ってきた。 生徒たちは興奮冷めやらぬと言った様子で目を輝かせているが、このまま終わってしまっては片手落ち。 これから大人になるわたし達はきちんと責任を取らなければいけない。『みんな! わたし達の卒業式だからと言って好き勝手して迷惑をかけちゃったことをまずは謝らないとね!』 会長が勝手にやったことだろーという声も聞こえてきたけど、どれも冗談交じりでそこに不満そうな雰囲気はない。『やかましい。三年もわたしというぶっ飛んだ会長を選び続けた責任を取りなさいって。まずははちゃめちゃ卒業式に巻き込んでしまった先生方と保護者、来賓の方々に謝らないとね。せーのでごめんなさいだよ! それじゃ、せーの!』『『『ごめんなさい!』』』 わたしが頭を下げるのにならって、卒業生全員が頭を下げながら元気よく謝罪をする。元気が良すぎて本当に反省の色がないのは明らかだけど。『あとね、三年間わたしという生徒会長がいろんなことを作り出して実現させてきたけど、それもこれも先生方の理解と協力がないとできないことばかりだったんだよ。みんなも学校生活が楽しかったのなら、それを陰で支えてくれていた先生たちにちゃんとお礼を言わないとね』 一斉に返ってくる「は~い」という返事。もはや小学校の学級会だ。『それじゃ、またせーのでありがとうございましただよ。先生方、三年間わたしたちのワガママに理解を示していただき、生徒の自主性を尊重して自由にさせていただいたことにとても感謝しています! せーの!』『『『ありがとうございました!』』』 生徒というより児童のような滑稽な姿に、体育館が笑いに包まれる。 答辞と別れの唄を卒業式ジャックで終わらせてしまったので、残るは閉式の辞と卒業生退場を残すだけだ。 本来閉式の辞は学年主任が行うはずだったんだけど、壇上へ上がってきてマイクを握ったのは校長先生だった。『前生徒会長の広沢さんを見習って、私も閉式の辞ジャックをしてみようと思いました』 悪戯っぽい笑顔をまだ壇上にいるわたしへ向ける校長先生。構内は驚きと笑いがないまぜといった状況。『まずは型破りで形式にとらわれない自由な卒業式、とても楽しく拝見させていただきました。広沢前会長の組織力と準備力、そしてカリスマ性は我々教員も参考にして見習うべきものがあ
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第182話 拝啓、未来のわたし

 何事もなく時間が過ぎていく。 家事をして、配信で大切なリスナーさん達と交流し、愛する人たちと同じ時間を共有する毎日。 そこにあるのは穏やかな時間と、この上ない安らぎを感じる幸せの日々。 何気ない日常にも幸福を感じられるのは一生懸命生きている証拠。幸せは漫然と過ごしていては気付かない場所に落ちている。 ひとつひとつをそっと拾い上げ、慈しむように育てることで大きな花を咲かせることが出来るんだろう。 卒業式から日は過ぎて、誕生日が来て十九歳になった。来年は二十歳か。成人式でみんなに会いたいな。 卒業式を終えた後、定期検診も兼ねて大学病院へと足を運んだ。「あれから調子はどうだい?」 期間だけで言えばお母さんやより姉、ひよりと同じくらいの付き合いがある先生。 見慣れたくもない存在だけど、今は聞いておくことがある。「特に変わりはありませんよ。先日少しだけ時間が飛んでしまうような感覚を味わいましたけど、それもその日だけでした」 変化があったとすればそのくらいだ。きっと疲れや心労が溜まっていたからついボーっとしてしまっただけだろうと思い込んでいるけれど。「時間が飛ぶ感覚……か」 顎に手を当てて何やら考え込んでしまう先生。気になることでもあるんだろうか。「恐らく記憶の容量がかなり圧迫されていることで、脳が情報の整理をしているのかもしれない。あくまで推察だけどね」 歯に衣着せぬのは昔からだ。見え透いた慰めを言われるよりは余程いいけれど。 でも頭の片隅にあった恐れを指摘され、心に小さな波が渦巻く。やっぱりなのか。 でもそれを逆手に取れば。「そのことでわたしから提案なんですけど、わたしの記憶がある場所からもう一度全てを思い出し、記憶のデフラグをすることで時間を伸ばすことはできないんでしょうか」 またしても考え込む先生。その可能性を考えているんだろうか。だけどその表情はどこか険しい。「それは正直あまりお勧めできないかもしれない。もうすでにかなり圧迫されて
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第183話 ゆっくり、休んで

 配信開始数分前。 わたしはモニターの前に立ち、呼吸を整える。 ゆきちゃんへの愛情が感じられる期待に満ちたコメントが並び、その温かさに涙が溢れそうになる。 だけど泣いてる場合じゃない。 ゆきちゃんが大切にしてきた世界。そこに告げるにはあまりにも残酷すぎる言葉だから。 配信画面が切り替わり、わたしの姿が映し出された。【あれ、ひよりちゃん?】【ゆきちゃんは?】【何かの企画?】 コメント欄には疑問の声が並ぶ。 笑顔でいたいけど、これから話す内容を考えたらとても笑ってなんかいられない。 画面の外で見守るお姉ちゃん達の方を向くと、口パクで「がんばれ」と言ってくれた。 うん、わたし頑張るね。「今日はリスナーさん達に大事なお知らせがあります」 正直この先を言うのはわたしも辛い。 震えそうになる声を抑え、毅然とした表情を作って続きを離す。【なんだろ】【ゆきちゃんは?】【今日は歌わないの?】【ひよりちゃんの表情が気になる】 先週まで元気な姿を見せていたからか、リスナーさん達には見当もつかないようだ。 ゆきちゃんを呼ぶ声が心に重くのしかかる。「ゆきちゃんは今日、出られません。ゆきちゃんは……眠りにつきました」 振り絞るようにしてそこまでは言えたけど、その先は続かなかった。 リスナーさんもわたしと同じように言葉に詰まったのか、あれだけ激しく流れていたコメントが完全に停止してしまう。 無言のまま、どれくらいの時間が過ぎただろう。 やがてぽつりぽつりとコメントが流れ始めた。【嘘、だよね?】【ゆきちゃんが……】【そんな……】【イヤだ!】 ゆきちゃんが言っていた五段階必要ってのはこのことか。 最初は否認、そして怒り。 わたし達も同じ道をたどってきたからよく分かるよ。認めたくないよね。 あんなに明るく快活で、元気いっぱいだったゆきちゃんが。
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第184話 雪の精霊

 目が開いた。ような気がした。「あれ、わたし眠ってしまったはずじゃ」 声が出た。と思う。 どこかで感じたことのある感覚。かつての記憶が蘇る。「精霊さん?」 呼びかけてみた。 目の前に光が現れ、それが弾けるように瞬いたと思ったら、懐かしい姿が目の前にいた。「やぁ、元気だった?」「元気と言っていいのかな? ここにいる時点でかなり危うい状態だと思うんだけど」 前に会った時は心肺停止状態だったしね。「なんだか可愛げがなくなったような気がするのは気のせいかな」「もう、何年たったと思ってるの? ずいぶん久しぶりなんだから成長だってしてるよ。いつまでも幼児じゃないってば」 実に十六年以上ぶりに会ったというのに、旧友と再会したような気分になるのはわたしの中にいつもいたからだろうか。「わたしにとってはそれくらいの年月なんて一瞬だよ。成長したと言ってもまだまだ子供!」 ちっちゃな胸を張ってドヤ顔の精霊さん。バストもわたしより控えめだ。「どこ見てんの?」「別に」 さすがに男がそんなとこでマウントを取るのもおかしいから目を逸らす。「で、今回は何をしに来たの? お迎えだったら追い返すけど」 握り拳を作って精霊さんを威嚇する。わたしもずいぶん図太くなったもんだ。「なんで物理的に追い返そうとしてるかな。ていうかお迎えって何のこと?」 意味が分からないと言った様子で小首をかしげる精霊さん。なんだかあざといな。「だって雪の精霊さんがわたしに乗り移って命をつないでくれてたんでしょ? 期限が来たから神様が帰ってこいって言ってるのかと」「は?」「え?」 お互いに疑問符を頭につけて首を傾げてしまった。沈黙。「前から言おうと思ってたんだけどさ。なにその|雪《・》|の《・》精霊って。炎とか雪とかそんな属性なんてないんだけど」 十六年ぶりに会ったと思ったら盛大な勘違いの訂正。「え!?
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第185話 雪解けは新緑とともに

 あれから一年以上が過ぎた。ゆきは眠ったまま二十歳を迎えてしまう。「ほら、マッサージ終わったぞ」 姉妹全員で欠かさずやっている日課を終えて、ブラシを手に取る。「ずいぶん伸びたなぁ」 まっすぐに伸びた絹糸のような黒髪にブラシを通す。これもまたみんながやっていることだ。 マッサージは医師から言われて始めたことだが、髪を梳くのは誰が言うともなく自然と始まったこと。 元々腰まであった長い髪だけど、今では尻を超えるんじゃないかという位置にまで来ている。立ってみることが出来ないから正確な長さは分からないけど。「いくら毎日梳いているとはいえ、相変わらずキレイな髪だよな。羨ましいぞ」 対するあたしの髪にはいつもの艶がない。 今日は会社も休みで、昨日はあたし名義で借りたワンルームマンションに泊まったから。普段使いするわけじゃないから置いてあるものは最低限なため、シャンプーとコンディショナーもコンビニに置いてある安物だ。 ワンルームマンションの家賃は長女であるあたしが全額払うからいいと言ったのに、楓乃子は半分持つと言うし、茜とひよりまでアルバイト代からいくらか出すと申し出てきやがった。どんな形であれゆきのために何かをしたい、その気持ちは分かるから好きなようにさせた。「ほんと、お前の愛され方はすげーよな。まぁあたしも負ける気なんてないけどな」 笑いながら語り掛ける。そこに返事はないけれど、今ここに生きていてくれることにとても安心感を覚える。 一向に目を覚ます気配のない眠り姫。 その表情はとても穏やかで、微笑んでいるようにも見える。「何笑ってやがる」 もっと悲しむものだと思っていた。会うたびに涙が止まらないんじゃないかと。医者の見立てでは、目を覚ます確率は五分五分。一か八かの賭けのようなものだ。 だけど不思議なことに、静かな病室で雪に話しかけている間、心にあるのは安心感。 その安らかな寝顔を見ているだけで、愛しさが溢れ、ついつい唇を重ねてしまう。「ん。少し乾燥してるのかな」 バッグからリッ
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第186話 その目に飛び込んできたもの

「それで、今の気分は? 記憶の混濁などはありませんか? 色が見えるようになったというのは本当ですか?」 ちょっとちょっと。 珍しい症例なのは分かるけど、先生が興奮してどうすんの。落ち着け。 そんなにいっぺんに聞かれてもどれから答えればいいのかわかんないよ。「気分は別段悪くありませんが、体が思うように動かないですね」「それはね。一年以上も眠っていたんですから、筋力は相当衰えているでしょう。それでも筋肉が硬化せず、動かすことが出来るのはお姉さん方のおかげですよ」 より姉たちの?「毎日、一日も欠かさずに時間のマッサージをしてくれていたのはお姉さん方ですよ。みなさんが交代で毎日訪れている様にはわたし達も胸を打たれました」 一年以上休まずに? いくら四人いるからと言っても仕事や学校もあるし、それはかなり大変だったんじゃ。 そう思ってみんなの方を見たら、赤い顔をしてそっぽを向かれてしまった。 照れなくてもいいのに。「より姉、かの姉、あか姉、ひより、ありがとう。みんなのおかげでどこも痛いところはないし、重いけど動かすことが出来るよ」 感謝の想いを込めて、重い頭を持ち上げてなんとかお辞儀のようなことをしてみる。 だけど思ったように頭が上がらない。無駄な動きで布団が少しめくれただけ。「お礼をしたいのにちゃんと動かないや。これはこれからのリハビリが大変そうだね」「無理しなくていいんだよ。今はまだ目覚めたばっかりなんだし、ゆっくりしとけ」 顔を赤らめたままのより姉が優しく布団をかけなおしてくれた。「全ての筋肉が衰えていますから、無理はしないでください。首だけでなく喉の筋肉も弱っていますので、普通なら話すことも困難なはずなんですが、そこはさすが歌手と言ったところなんでしょうかね。しわがれることもなく、綺麗な声が出ていますよ」 それはさっきから思っていたことだ。少し喉の筋肉に違和感があって、しゃがれてはいないものの大きな声が出せない。「少しずつ全身を動かすところから始まって、飲み込む力も衰えているので嚥下のトレーニングもしていかないといけません」 嚥下のトレーニングって初めて聞いたな。 どんなことをするんだろう。「まずは粘性の付いた液体を呑み込むところからですね。その次に液体、流動食。普通の食事をとるまでには1か月といったところでしょうか」「い
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第187話 白衣の天使?

 部屋には空調が効いていて快適な温度なのに、悪寒が走ったのはどうしてだろう。 無菌状態だから風邪というのも考えにくいし。 拳を握ったり開いたりして、徐々に自分の感覚を取り戻していく。正直楽なものではない。 今は電動リクライニングのベッドを少し起こしているけれど、重力というのはこんなにも重かったのか。 内臓にかかる重力を感じてしまう。お腹の中身が重たい気分。便秘がひどくなったらこんな感じかな。  まだ体を起こすことはできないけれど、少しずつ力を入れて自分の体の操作権を掌握していく。アイハブコントロール。  それにしても静かだ。 わたしが眠っていた間、姉妹たちはこの静かな空間で何を思っていたんだろう。  きっと何も反応のないわたしに話しかけ続けていたんだろうなということは容易に想像できるけど、それを思うと胸が痛い。 ずっと辛い思いをさせ続け、それでも決して匙を投げることなくわたしの世話を続けてくれていた家族。  わたしはその恩にどうすれば報いることが出来るだろうか。きっとより姉たちなら「そんなもん必要ねーよ。ただ元気に生きてくれているだけでいい」なんてことを言うんだろうけど、それではわたしの気が済まない。  たとえ形に残るものではなくても、なんらかの形でこの想いを伝えることはできるだろうか。 まずはリハビリに励み、一日でも早く我が家に変えることが先決だろう。  でもその先は? もう一度唄えるんだろうか。ダンスを踊ることはできるのか。 特にダンスに関しては、自分の記憶力と運動神経に頼っている面が大きかった。もし、それらの能力が失われてしまったとしたら。  再び嫌な悪寒が背中を走る。 わたしにとって歌とダンスは切っても切れない不可分なものだった。声と体で自分の世界観を表現する。その片翼がもがれてしまったとしたら。「ダメだな。こんな弱気になってたらみんなに怒られちゃう」 今は考えても仕方がない。体が動かないから、余計に気弱になってしまうんだ。 少しでも早く体を動かせるよう、自主的にリハビリも頑張ろう!「……あいたぁ!」 動かそうとした足に激痛が走り、慌ててナースコールのボタンを押す。「広沢さんどうしました?」 ……。 看護師さんに叱られた。「慌てたところで何もいいことはありませんよ! 今回は単に足がつっただけ
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第188話 雪が溶けた後に残るもの

 日々続くリハビリは、思った以上に大変だった。  まずは寝返りや座ることから。最初の内はそれすらも大変で、どうにか寝返りを打てると言った状態だった。 それから座ることも難なく出来るようになったかと思ったら、息つく暇もなく自力で車いすに乗ることを特訓。 これが想像以上に困難なことで、立ち上がろうとしても膝が笑って上手くできない。看護師さんの介添えがあってようやくといったところ。「えへへ。密着出来て幸せぇ」 一部、邪な考えで介助してくれている人もいるけれど。  一度より姉に見つかって、ナースステーションで担当替えを真剣にお願いされていた。できればわたしも替えて欲しい。 でも決して手は出させませんという言質を得て、どうにか引き下がっていたようだ。そこで納得しちゃうのね。  わたしの不安な気持ちと、あの舐めるように見てくる気持ち悪い視線からは解放してくれないのだろうか。 病院も人手不足なのはわかるけど、あんなのを特別病棟に配置して評判に関わったりはしないんだろうかと心配になる。「今まではもうちょっとマシだったんですけどね」 他の看護師がそう言ってフォローしてたけど、正直何の慰めにもなってませんよ? むしろエスカレートしてるってことで余計不安になったわ。 だけど車いすに乗って久しぶりに外へ出たのは気持ちがよかった。すっかり忘れかけていた風の匂い。 そこには微かに草木の匂いが混じり、まもなく訪れる生命が謳歌する夏の気配を感じさせる。でも今日は少し湿っぽい匂いも混じっているから、雨でも降るのかな。 以前と違って色が見えるようになったわたしは、外の景色をいくら眺めていても飽きることがない。 目を凝らせば色というのはあちこちに散らばっていて、普通に暮らしていれば気づかないようなところにも鮮やかな色が潜んでいる。 例えばビルのひび割れから生えた生命力に溢れた雑草の緑。暗いアスファルトの隙間から顔を覗かせるたんぽぽの鮮やかな黄色。 普通の人なら気づくことなく通り過ぎてしまうその景色も、今まで違う世界を見ていたわたしには物珍しい。 部屋にいてもスマホやテレビを見ている時間より、窓の外を眺めている時間の方が長いくらいだ。「なぁに、また外を見てるの?」 今日はひよりの番なのか。「うん、今日も外の景色がキレイだからね」「やっと見えるようになっ
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第189話 蹂躙

「みなさん、こんにちは。どうもご無沙汰してました。雪の精霊、YUKIが今日もみんなに幸せを届けるよ! とまぁかつてのテンプレ挨拶をぶちかましたわけですが。みなさん、本当に長い間お待たせしました! ゆきはこの通り見事復活を果たして今ではピンピンしていますよ。 眠りこけていたおかげですっかり体がなまってしまったので、しばらくリハビリが必要なんですけど、またみんなに歌声を届けられる日が来るのも近いです」 ひよりに撮影許可とノートパソコンを頼んだ次の日、今日の当番だったあか姉が許可を取れた情報と共に届けてくれた。 そのパソコンを使ってさっそく配信予約を取り、夕食後の十九時に配信を開始した。 配信の告知をしたのは昨日なのに、みんな余程待ちかねてくれていたのか同接は60万人オーバー。 倒れる前の50万人を大きく上回る結果となった。「たくさんの人が見に来てくれて、それだけわたしの歌声がみんなに求められているんだと思うと感無量です。変わらぬ応援にとても感謝しています」 あまりのありがたさに思わず涙ぐんでしまう。だって一年以上ものブランクがあって、それでもこれだけの人が集まってくれるのが嬉しくて、ありがたくて。【歌ももちろんだけど、ゆきちゃんの顔が見たかった】【元気そうで安心した】【ゆきちゃんの姿を見たら涙が出てきた】【ほんと、おかえりなさい!】 歌だけじゃなく、わたし自身をも待ってくれていたというコメントに、とうとう涙が溢れてしまった。 あーあ、本当にわたし涙もろくなったよなぁ。男のくせにみっともないとは思うけど、止められないものはしょうがない。「みんな本当にありがとうね。一日も早くみんなの前で唄って踊れるよう、毎日リハビリ頑張ってるんだ! だからほら、一週間でもう立てるようになったんだよ」 そう言ってノートパソコンをテーブルの上に置き、立ち上がろうとするわたし。 まだ安定性には欠けるけど、どうにか自分の足で立ち上がることが出来た。隣であか姉がハラハラしたような顔で見てるけど。【あんまり無理はしないで】【ワイらはいつまでも待ってるから】【生まれたての小鹿みたいになってるやん】【怪我する前に座って!】 うちの姉妹だけでなく、リスナーさん達もわたしには過保護だな。「これくらい大丈夫だって。なんならターンしてみようか?」 調子に乗ってターンをしよう
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第190話 表の顔と本音の心

 リハビリをやり始めてから比較的すぐに自力で立ち上がれるようになった。 だけど、そこからが過酷な日々の始まり。 最初は一歩二歩と歩くだけで滝のような汗をかき、心拍数も爆上がりしてしまったのでその時点でリハビリ中止。 その後も数日間はトライしては中止の繰り返しで一向に進まない。 そこで体力の回復が先決だと判断した先生の指示により、立って歩くよりも先に長時間座ることから始めることにした。 ただ座るだけと思って侮っていたけれど、すっかり体力の衰えてしまった体にはこれが存外キツイ。 スマホを触って気を紛らわせているとはいえ、最初は二時間程度で音を上げてしまった。 だけどそれも繰り返すうちにだんだん苦ではなくなっていき、半日座っていられるようになった頃にはかなり体力も回復していたようだ。 その後に始まった歩行訓練でも最初のように滝の汗をかくことはなくなり、ようやく日常生活に向けての第一歩が始まった。「今日はね、リハビリ室の端から端まで歩けたんだよ」 嬉しそうに報告するわたし。「ふーん」 なんだか気のなさそうな返事をするより姉。「あれ? なんか怒ってる? わたしのリハビリが進んでるのが嬉しくない?」「いや、そんなわけないんだけどな。ゆきがどんどん元気になっていってるのはそりゃ嬉しいさ。でもな」 なんだろう。リハビリとは関係なさそうだし、他に何か怒らせるようなことしたっけ?「ゆき、何か報告しておかないといけないことを忘れてないか?」 報告? ずっと病院にいるわたしがリハビリのこと以外で何を報告することがあると言うんだろう?「何のこと?」 本当にわからない。わたしがより姉を怒らせるようなことなんて皆目見当もつかないよ。「茜とのことだ」「ひうっ!」 突然あの日のことを突きつけられて、ビックリすると同時に思い出してしまったので変な声が出た。「なんだその奇声は。茜が自慢気に話してたのは本当だったのか……。てっきりあいつの作り話だと思ってたのに」 カマかけられた! でも本当のことだから嘘をつくのもなぁ。「それで、だ。ゆき」 改めてわたしの方へと向き直るより姉。対して被告人よろしく姿勢を正すわたし。「正妻の立場としてはだな。茜がしてもらった以上は同じことをしてもらう権利があると思うんだが」 いや、あれはわたしの方からやったわけじゃな
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