茜はすぐに返信を打ち込んだ。【金目鯛の煮付けはいかがですか。美味しいですよ】【なるほど。そうする】【そういえば、ここって貸し切りじゃなかったんですか?】茜は少し不思議に思って尋ねた。【友人の店だ。飯をたかっているところだ】その世間話のような何気ないやりとりを眺めながら、茜は思わず笑いが込み上げてきた。あの冷徹な和久が、真顔でそんな冗談を言っている様子は、本当に想像しにくい。なんと返そうか考えていると、突然、頭上から不機嫌な声が落ちてきた。「何がそんなに可笑しい?料理に箸もつけず、俺を待ってたのか?」「…………」茜は笑いを収めてスマホを裏返して置いた。諒助は茜の冷めた態度に気づいていない様子で、自分から茜の皿に金目鯛の料理を一切れ取り分けた。「昨日、またいろいろ思い出してな。確かお前、金目鯛が好きだったろう」茜はそれに手をつけることなく、深く息を吸って、本題に入った。「諒助さん、わざわざそんな前置きは結構です。本当に言いたいことを言ってください」諒助はまだ、茜が一途に自分を愛していると思い込んでいて、少し優しく甘やかしてやればすぐに従うと信じているのだ。電話を終えてから、急に「思い出した」などと言い始めた。絵美里がまた何かをやらかして、その前に茜に手を打っておきたいのだろう。諒助はワイングラスの縁をゆっくりと指でなぞり、わざとらしくわずかなため息をついた。「今回の騒動のせいで、絵美里が大変な目に遭っている。ネットの誹謗中傷にショックを受けて気を失い、そのまま入院してしまったんだ」「それで?」茜は冷ややかに言った。「私がネットで特定されて晒されたときに気絶しなかったから、あなたには私の痛みがわからないと?」「茜!そういう意地悪な言い方はやめろ。お前には相応の補償はするから、お前が表に出て、絵美里を庇う声明を出してくれ」諒助は眉を寄せ、目に少し警告の色を浮かべた。補償してやるのだから、感謝して従って当然だという顔だった。茜は目を伏せて、その「説明」が一体何を意味するのか、あえて確認したくなった。「……どう声明を出せと言うんです?」その答えを聞いて、諒助は首元のネクタイをさりげなく緩めた。喉のつかえが取れたような、安堵の表情を浮かべた。茜が自分に折れたということは、まだ自
Read more