「私は……」断ろうとした茜の言葉を遮るように、諒助がすっと立ち上がった。有無を言わさぬ強引な口調で命じる。「乗れ」バッグはまだ絵美里の手の中にある。茜は渋々二人の車に同乗し、寮まで送ってもらうことになった。……寮の前に車が滑り込むと、茜は逃げるようにドアを開けて外へ出た。ところが建物に足を踏み入れようとした途端、中から異様な騒ぎ声が聞こえてきた。突然、誰かが甲高い声で叫ぶ。「キャァ!男が入ってきたわ!」茜が顔を上げると、三階の廊下に人だかりができているのが見えた。急いで階段を駆け上がる。気づけば、絵美里と諒助も後ろからついてきていた。「諒助さん、女子寮に男の人が?茜さんも確か三階だったわよね」諒助は茜をちらりと一瞥してから眉をひそめ、人混みをかき分けて前へ出た。「何があった?」冷ややかな声を聞いた人々が、さっと左右に道をあける。「諒助さん、副主任。実は今日、残業で疲れてしまったので、寮に泊まろうと戻ってきたんです。そしたら、階段を上ったところでこの廊下に男性が走り込むのを見かけて……今は、どこかの部屋に入ってしまって」おどおどと声を上げたのは、千代だった。彼女は普段、ほとんど寮を使わない。安宿みたいで息が詰まると言い放ち、毎日往復四時間もの通勤をいとわないほど、寮に泊まることを頑なに避けていた。それが今日に限って、たまたま泊まりに来たという。そしてたまたま、茜の部屋はこの廊下にある。千代はねっとりと茜に視線を這わせてから続けた。「諒助さんも副主任もご存じかもしれませんが、以前も男性を連れ込んだスタッフがいて、他の女性を覗き見するような気持ち悪い事件があったじゃないですか。もし今回も……」その言葉に、周囲がたちまちざわめき、不安げな視線が一斉に廊下の奥へと向けられた。「私、その頃も寮にいたんです。あの男、毎日どこかに潜んで通りがかる女性を見てたんですよ」「下着まで盗まれた人がいたって聞きました。ひょっとして……」「もう怖くて、ここには住めないかも」そこへ、絵美里が柔らかな声で前に出た。「みんな、落ち着いてよ。まだこの中にいるなら、警備員を呼んで部屋を一つずつ確認すれば必ず見つかるから」「そうですね、そうしましょう」周囲が次々と賛同の声を上げる。茜は状況を読み
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