手放すかどうかは自分が決めることで、他の誰にも口出しする権利はない——そういう傲慢な目だった。今この瞬間も、車の中に本命の恋人が待っているというのに、彼は顔色一つ変えずに別の女の「拗ね」を宥めようとしている。しかも、それが正しいことだと本気で思っている。星羅は苦笑を浮かべた。「わかりました、伝えておきます」そう言ってから、くるりと踵を返して駆け出した。部屋へ飛び込むなり、茜にすぐメッセージを送った。【諒助のやつが言う「別れる」って、自分が茜ちゃんに別れを告げる権利があって、茜ちゃんから別れを切り出す権利はない、ってことよね?】茜からすぐに返信が来た。【そう。でもあの人、頭おかしいから】……車に戻った諒助は、写真立ての残骸を大切そうに手元に置いた。隣で絵美里が屈辱に歯を食いしばりながらも、懸命に表情をおさえていた。「諒助さん、ごめんなさい。本当に間違えた。千代さんの話を信じてしまって……ただ、あなたのそばに茜さんがいてほしくなくて」絵美里はまた一歩引いて、可憐さを装って同情を引こうとした。諒助は疲れたように目元を指で押さえた。「次からはやめてくれ。茜はお前の立場を脅かさない」「……わかったわ」絵美里は彼にすり寄り、わずかに甘えた素振りを見せた。しかし諒助はそっと手を引いた。「今日は少し疲れた。綾辻に送らせる」口調は穏やかだったが、底に苛立ちが透けて見えた。絵美里はもう、何も言えなかった。そのまま重苦しい無言のまま、車は手塚家へと向かった。玄関で待っていた母親の直美が、こんな時間に一人で帰ってきた娘を見て目を丸くした。「諒助さんは?一緒じゃなかったの?」「聞かないで。うんざりなの」絵美里はいつもの柔らかな顔を取り繕う気力すらなかった。直美が歩み寄ろうとした時、絵美里のスマホが鳴った。諒助からかと思い、確認もせずに通話に出る。千代だった。「手塚さん、お願いします、助けてください!解雇だけは困ります!」「落ち着いて。明日、私から話をするから」絵美里には今それ以上付き合う気がなく、適当にあしらった。千代はそのいい加減な答えを聞き逃さなかった。すぐに声色を変える。「手塚さん、もし私が解雇になりそうなら……功績で挽回するしかないですよね」「どういう意味?」
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