当時の茜は、男だ女だと意識する余裕もなく、必死で諒助のシャツを脱がせた。背中に広がる血の筋を目にした瞬間、思わず胸が締め付けられた。諒助はそんな茜を抱き寄せ、「大丈夫だ」と宥めてくれた。その時になって初めて、自分が彼の体にこれほど近く寄り添っていることに気づき、茜はひどい羞恥を覚えた。慌てて離れようとした瞬間、諒助が強引に唇を重ねてきた。そのまま、抗う間もなくソファへと押し倒された。諒助の体はよく引き締まっていたが、今目の前にいる和久が纏う、あの凄みのある冷酷な緊張感とは決定的に違うものだった。しかし、十八、九歳だった当時の茜に、男性の体を比較する基準など持ち合わせているはずもない。あの頃の彼女にとって、諒助という存在は絶対的な存在として映っていたのだ。だが、次の段階へ進もうと彼が手を伸ばした時、茜は冷や水を浴びせられたように現実に引き戻された。諒助は身を固くする茜を鼻で笑い、勿体ぶっているんじゃないかと揶揄った。そして、「素直に受け入れることを覚えろ」と吐き捨てたのだ。そのたった数言が、茜の胸の中で熱を帯びていた何かを一瞬にして凍りつかせた。その言葉がどうしても許せず、茜は諒助を突き飛ばした。最終的に、茜の手が誤って諒助の擦り傷に触れてしまったことで、その場の甘い空気は完全に霧散した。しかしあの夜以来、茜は「体の関係」というものを本能的に避けるようになった。事あるごとに、あの時の冷酷な言葉が脳裏に蘇るのだ。茜が少しずつ自分の心を開き、彼にすべてを委ねようとしていたその間、諒助はただ、絵美里が海外にいて生じていた「空白」を埋めるための、都合のいい存在を求めていただけだったのか。ぼんやりとした痛々しい回想を振り払い、茜は俯いて和久の傷口の処置に専念した。幸い、傷の状態は悪化していなかった。新しい包帯を巻き始めると、頭上から低い声が降ってきた。「さっき、否定しなかったんだな」「…………」テープを引き出す手が、ピタリと止まった。何のことだろうと一瞬考え、ようやく思い当たった。先ほど大家に「お連れ様ですか」と尋ねられた、あの場面だ。茜は、つい先ほど心の中で和久の気遣いを褒め称えた言葉を、そっと撤回した。「あの……大家さんが詮索好きなので、まともに答えたらきっとまた面倒な質問攻めに遭ったはずなんです」
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