茜は言葉を失った。説明しようとして、やめた。何を言っても諒助と絵美里には言い訳にしか聞こえないだろう。「おっしゃる通りかもしれませんね。ウォーカーヒルのスタッフとして、すべてのお客様に誠心誠意対応するのは当然のことですし、これも私の評価に関わりますから」諒助は答えず、冷ややかに笑っただけだった。信じてなどいない、せいぜい演じていろ、と言いたそうな目だった。茜はため息をついた。何を言っても信じてもらえないと分かっている。「先に失礼します」「茜、分をわきまえろ。絵美里に勝とうなんて考えるな」「…………」茜は足を止めずに、少し早足になった。エレベーターを降りた途端、角から出てきた人に危うくぶつかりそうになった。腰をさりげなく支えられて、茜は顔を上げた。「柏原社長」和久が茜を支えながら言った。「誰かに追われてるのか?」「違います。こんなところにいらしたんですか?宴会はまだ続いていますか?斎藤様はもう帰られましたか?」言い終えてから、少し後悔した。和久に口数が多いと思われそうだ。和久は落ち着いた声で答えた。「中がうるさくて、外で一服してきた。宴会はまだ続いているが、斎藤美香なら先に帰られたようだ」それを聞いて、茜は思わず吹き出した。和久は片眉を上げた。「何がおかしい?」茜はそっと唇を引き結んだ。「なんというか、真顔で冗談を言う人がいると思って。お兄様、いつもこんなふうに返事するんですか?」「柏原社長って呼ばなくなったな」和久が淡々と言った。「俺が誰かの問いにすべて答える義理があると思うか?」確かに。立て続けに質問を浴びせてくる人は、そう多くはない。諒助に散々腹を立てさせられて、自分でも少しどうかしていたようだ。茜は話を変えた。「記理子おば様の体調がよくないので、上でお休みになっています。私も戻ります」「じゃあ一緒に。玉城に声をかけてくる」「はい」夜の冷え込みを感じて、一人で帰るのは少し億劫だと思っていた。駐車場に向かう途中、誰かに見られている気がして、茜はとっさに振り返った。しかし周囲には和久と自分以外、誰もいない。和久は車のドアを開けながら言った。「どうした?」「なんでもないです」茜はさっさと車に乗り込んだ。外は本当に冷えていた。和久は乗り込む前、ある
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