和久はめったに見せない穏やかな笑みを浮かべ、茜の手から万年筆を手に取った。キャップの部分に何か特殊な仕掛けがあることに気づいた。慎重に回転させると、チキッと小さな歯車が噛み合うような音がした。どうやら、これが例の築山を開けるリモコンの役割を果たしているらしい。茜が試しにキャップをカチッと閉めると、澄んだ音がした。先ほど録音で聞いたあの音と、まったく同じだった。「母は、これを隠していたんですね。高遠主任に何を話したんだろう……主任をそこまで警戒させるようなことを」「これほど長い間、君のそばにいながら、高遠さんは一切の情報を漏らさなかった。相手は、おそらく俺たちが想像を絶するほど強大で、厄介な組織だ」和久はさらりと言った。その時、和久のスマホが光った。「ボス、そろそろ会議の時間です」茜もハッとして、埃っぽい部屋に長居しすぎたことに気づいた。「お兄様、先に会議に行ってください。私は後から向かいます」「わかった」二人はすぐに現場を整え、こっそりとオフィスを後にした。茜は制服に着替えなければならなかったので、和久とは別の方向へ向かった。別れた瞬間、少し先の死角に一台の車が停まっていた。乗っていたのは、絵美里だった。退職手続きのためにウォーカーヒルへ来たのに、人事担当から「まず幹部会議があるので車で待つように」と言われ、行ったり来たりするのが面倒でそのまま停めていたのだ。車内で一息つこうとしたところで、茜と和久が前後して出てくるのが目に入った。二人の服には、埃がかなりついている。絵美里はすぐさまシートに頭を沈め、こっそりと二人の様子を観察した。茜は従業員通路の方へ、和久は服の埃を払いながら会議室へ向かった。先ほど、諒助が茜のために自分を階段から突き落としそうになったことを思い出すと、絵美里はまだ腹の底から怒りが湧き上がってきた。絵美里は車を降りて茜の後を追い、女性用更衣室まで音もなく忍び込んだ。茜が自分のロッカーを開け、コートを脱ぎかけたところで、隣にスッと人影が止まり、思わず身を震わせた。「……手塚さん?何の用ですか?」「人事の方から聞いたよ。副主任へ昇進されたのね。柏原グループ本社で研修まで受けられるとか。本当に、おめでとうだわ」絵美里はわざとらしく拍手した。その拍手で、絵美里の腕に輝く星のブレ
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