星羅は指先で顎のラインをなぞった。茜は目を丸くした。「やっぱり生きていたのね。しかも娘までいるなんて」「娘って、どういうこと?娘は一人しかいないって、その娘本人がそう言っていたのに」星羅は首を傾げた。「じゃあ、遺体確認に来たっていうあの妻と娘は、いったい何者だったの?」「なんだか怪しくない?もしかして……遺体そのものがすり替えられていたとか?」「どういうこと?」星羅が突飛な設定のドラマや小説を好むことは、茜もよく知っていた。星羅は声をひそめた。「ミステリードラマで見たことがあるの。身を隠したい人が偽の遺体を用意して、顔を焼いたり傷つけたりして死んだふりをするって話があるじゃない」「確かにそういうことはあるかもしれないけれど、警察は必ずDNA鑑定を行うし、遺族の確認だってあるわ。そこまで警察を欺くなんて不可能でしょ」「どうして不可能なの?あなたが警察署で悪徳刑事に嫌がらせを受けたこと、思い出してみて。それに、遺体をすり替えさえすれば遺族の確認なんてどうにでもなるわ。大金を積まれれば、赤の他人でも自分の身内だと言い張る人間はいるはずよ。どうせ死体なんだから、そのまま持ち帰って火葬してしまえばそれで終わりよ」「…………」茜は驚きのあまり、思わず身を乗り出した。「つまり……別人の遺体とすり替えられたって言いたいの?」星羅は小さくうなずいた。茜は星羅の肩を軽く叩いた。「先に戻っていて。私もすぐに上へ戻るから」「わかった」茜は足早に階段を上がり、オフィスへと駆け込んだ。この一件を和久に話すべきか、迷いが頭をよぎった。けれど、まだ単なる推測の域を出ていない。話したところで、時間と労力を無駄にさせてしまうだけかもしれない。そんなことを考えていると、タイミングよく和久から電話が入った。「ウォーカーヒルには戻ったか?」「うん」とだけ返し、茜はそっと唇を結んだ。「他に、言っておくべきことはないのか?」和久が重ねて問う。昨夜のキスが不意に脳裏をよぎり、茜は小さく咳払いをした。「別に何でもありません。お兄様こそ、何かご用だったのですか?」和久のように口数の少ない男が自ら進んで何かを語るようなタイプではないと思っていたが、彼はあっさりと本題を切り出した。「ああ。いいとこ取りをしておいて、あとは知らん
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