それは父が、この家のことも子どもたちのことも、心の底では大事にしていなかった証拠だ。本当に大切な相手なら、見捨てるはずがないのだから。辰哉はハッと我に返り、思わず壁に拳を叩きつけた。「じゃあ、どうすればいいんだよ……俺は……っ」「どうしたの?」愛子は静かに尋ねた。辰哉は眉間にしわを寄せた。「俺、独立して店をやるって言っただろ。店舗の契約も済ませて、手付金も払い終わってる。設備だって発注済みなんだぞ。それを今さら金がないなんて言い出して、どう払えって言うんだよ」星羅は怒りを抑えきれずに言った。「毎日麻雀ばかりしていたくせに、いつの間にそんな話を進めていたのよ……雀荘で、どこの馬の骨とも知れない連中と変な約束でもしたんじゃないでしょうね?」辰哉は黙り込んだ。図星を突かれたのは明らかだった。星羅は怒りのあまり、言葉も出なかった。いい気になった結果がこれだ。「と、とにかく!あいつらはまともな連中なんだ。仲のいい兄弟分で……」「兄弟分?じゃあ聞くけど、その人たちがすり寄ってきたのは、お兄ちゃんがお金を手に入れる前?それとも、後?」「それは……」辰哉の顔から血の気が引いていった。彼自身も、薄々気づいていたのだろう。あの連中の目当てが金であることに。茜は一歩前に出た。「目当てはお金だけじゃないわ。それ以上に、あなたへの嫉妬よ。なぜあなたが金を手にしたのか、探りを入れてきたんじゃないの?『親父は運がよかったんだ』って答えたとき、その人たちはどんな顔をしてた?」茜の言葉に、辰哉の顔はみるみる土気色に変わっていった。兄のことを誰より分かっているのは、やはり星羅だった。星羅はすかさず畳み掛けた。「この二日で、いくら負けたの?」「……百万」辰哉は腰が抜けたように呟いた。「俺の金は全部、店舗の契約金に充てちまった。親父が今日、渡してくれるはずだったんだ」「もう、本当に……!」星羅は今すぐ掴みかかって、殴りつけたい気分だった。「どうしてこんなことばかりするの。お母さんを見てよ。医者からも、ずっと具合が悪いって言われてるのに、それでも麻雀に行くわけ?」「…………」辰哉は何も答えなかった。ただ、いつもより派手な身なりを見れば明らかだ。彼は調子に乗っていたのだ。人に見下されたくない、認められたい、その一心
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