横山佳奈(よこやま かな)と松尾仁(まつお じん)は、かつて学園中の視線を集める、誰もが羨む恋人同士だった。太陽のように明るく、いつも笑顔を絶やさない学園のアイドル。その佳奈は、裏社会に生きる名家の跡取りである仁が、誰にも触れさせず、大切に守り続けてきた存在だった。佳奈のために、仁は危険な世界から身を引く決意をする。彼女を、もう暗い場所に縛りつけたくなかった。ただ、光の中で当たり前の幸せを手にしてほしかったのだ。だが、ようやく未来が見えはじめたそのとき、佳奈は別れを告げた。激しい雨の中、仁は三日三晩、地面に膝をついて思いを訴え続けた。やがて力尽きて倒れても、佳奈は一度も振り返らなかった。それから三年後。再び仁の前に現れた佳奈は、かつてとは違っていた。今度は、愛される側ではなく、愛を乞う立場で。人前には出られない、名前のない関係でもいいと、自ら影に身を置き、彼のそばにいようとしたのだった。……ある夜のこと。マンションの最上階には妖艶な雰囲気が漂っていた。佳奈は目を覚ました。全身の骨が外れてしまうのではないかと思うほど、体が痛い。だいぶ慣れたと思っていたのだが、やはり仁の人並外れた体力に付き合うのは容易じゃないようだ。ベランダに立つ仁が、ゆっくりと煙の輪を吐き出している。その首筋に残るたくさんのキスマークに、佳奈は思わず見とれた。でも、次の瞬間。仁の言葉が、雷のように彼女を打ちのめす。「来週、婚約することになった」仁の声はどこか気だるげだった。でも、その声は佳奈の骨の髄まで染み込んでくるように冷たく響いた。「若葉と」佳奈の体が、かすかにこわばる。岩崎若葉(いわさき わかば)とは、仁の幼馴染かつ、この街で一番大きな組の令嬢だった。佳奈はなんとかいつもの妖艶な笑みを浮かべ、特になんでもないようなふりをして言う。「松尾社長、冗談でしょ?この前は、私が一番だって言ってくれたのに。婚約するぐらい、私とは遊び飽きちゃったの?」仁は口の端をゆがめ、氷のような目つきで佳奈を見る。「家の暗証番号は変えたから、もうここへは来るなよ。若葉は嫉妬深いんだ」今度ばかりは冗談ではないと、佳奈にもわかった。佳奈が唖然としているのに気づいた仁は、彼女の顎をぐいとつかむ。そして、突き刺すように冷たい声で言った。「どうした
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