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第7話

Author: ハッピーハンター
30分後、一台のSUVが港に到着した。

錆びついた倉庫のドアを開けると、中からむっとするような濃い血の匂いが漂ってきた。

倉庫の隅で、佳奈の兄・横山大輔(よこやま だいすけ)は鉄骨に鎖で繋がれていた。着ていた警察の制服はぼろぼろになり、乾いた血がこびりついている。

佳奈は心臓を握りつぶされたような衝撃を受けた。涙で一瞬にして視界が滲む。

「佳奈さん、急げ!時間がない!」正人はドアの外を警戒しながら叫んだ。

佳奈は涙をぬぐうと、手早く鎖を叩き壊し、大輔の腕を肩に担いだ。

その瞬間、大輔が痛みでうめき声を漏らす。

すると突然、外から甲高いタイヤの音が聞こえた。次の瞬間には、無数の強い光が倉庫の中に向けられ、目を開けていられないほど眩しくなる。

数十人の黒服が二人を取り囲み、彼らに向けて一斉に銃口を突きつけていた。

正人は二人を引っ張って物陰に隠れ、険しい顔でつぶやく。「まずい、囲まれた」

リーダーらしき男が空に向かって発砲した。「武器を捨てて投降しろ!さもなければこの引き金を引くぞ!」

正人はすぐさま腰の銃に手をかけたが、その手は佳奈に止められた。

「待って、冷静に」彼女は状況を確認すると、落ち着いて言った。「相手の数が多すぎる。撃ち合ってもこっちが不利。まずは私が出て様子を見るから」

正人はうなずくしかなかった。「わかった。援護する」

倉庫から出ると、潮の香りが混じった海風が顔に吹き付ける。

佳奈が周囲を見渡すと、ボディーガードたちがすっと道を開けた。その奥から仁と若葉が現れる。

「横山、また会ったわね」先に口を開いたのは若葉だった。そして、彼女は楽しむような口ぶりで続ける。「それとも、こう呼ぶべきかしら――

横山刑事、ってね?」

強い風が仁の服の裾を巻き上げた。恐ろしいほどにこわばった顔がのぞく。

彼は顔を上げ、佳奈の後ろで支えられている大輔に目をやった。そして、視線を佳奈に戻す。その声には、かすかなにだが信じられないという響きが感じられた。

「若葉が言ったことは本当なのか?お前は潜入捜査官なのか?!」

若葉はふっと笑い、一歩前に出る。そして手下に目配せすると、彼らはすぐに背後から正人と大輔に襲いかかり、それぞれを取り押さえた。

若葉は大輔のこめかみに銃口を突きつける。「仁。これでわかったでしょ?」

よく似た顔立ちの兄と妹を見て、仁はすべてを察した。

それでも、信じたくなかった。佳奈が否定してくれさえすれば、若葉の話なんて全部嘘だと思えるのに。佳奈が自分に近づいたのは任務のためなんかではなくて、きっと何か特別な事情があったんだと信じたかった。

だが次の瞬間、佳奈の冷たい声が、仁を氷の底へと突き落とす。

「その通り。私は潜入捜査官。

仁、お願い……兄を放すように言って。もう、私たちを自由にしてよ。もし今日、私たちがここで死んだら、松尾家に未来はないから」

銃を握る佳奈の手は汗ばんでいたが、それでも、彼女は必死に冷静さを保とうとした。

佳奈の言葉の一つ一つが、まるでナイフのように仁の心を深く突き刺す。

彼はよろめきながら一歩後ずさった。その顔はもう血の気が感じられないほど、白くなっていた。

「横山刑事、あなたって本当に甘いわね」若葉は残酷に笑う。「何度も私たちのビジネスの邪魔をしてくれたわね。今日ここで、まとめて始末してあげる!」

そういうや否や、若葉は大輔に向かって引き金を引いた。

「お兄ちゃん!」佳奈は叫び、すぐに駆け寄ろうとしたが、若葉が立て続けにもう一度引き金を引いた。再び銃声が港全体に鳴り響く。

大輔の体ががくりと揺れ、鮮血が一気に噴き出した。

「お兄ちゃん――」

佳奈は悲痛な叫びを上げながら、兄の体に駆け寄って抱きしめた。しかし、自分は間に合わなかったようだ。

大輔の体温が急速に失われていく。胸の傷からはまだ血が流れ続けていて、彼女の視界を赤く染めていった。

「怖い?苦しい?

これでわかったかしら?私の物に手出しするなんて許されないの。

それに、あなたたちは何度も私の邪魔をしてくれたわ。しかも、仁にいつまでも纏わりついて……だから、もう死ぬ覚悟はできてるわよね?」

若葉は再び銃を構え、佳奈に狙いを定める。

パンッ――

彼女は佳奈の心臓を狙って引き金を引いた。

佳奈はとっさに身をかわしたので、弾丸はわずかに逸れ、彼女の腕をかすめただけだった。

「岩崎、死んで償いなさい!」

佳奈は再び顔を上げ、血走った目できっと若葉を睨みつける。しかし、若葉は躊躇うことなく、再び引き金を引いた。

銃弾が発射された瞬間、仁が若葉の前に立ちはだかった。弾丸が、彼の肩を撃ち抜く。

仁は低くうめいた。何かを言おうとしているが、言葉は発せられず、ただ口からは血が流れるだけだった。

若葉は唇を震わせながら、充血した目で叫ぶ。「横山、死ね!」

彼女は手下に、毒蛇のように這う導火線に火をつけさせると、仁を連れて車で走り去っていった。

正人はなんとか体を起こし、佳奈の腕を必死に掴む。「爆弾だ!早く逃げろ、時間がない!」

しかし、佳奈はもう限界だった。涙が止まらない。「離して!兄を置いてはいけない!たった一人の家族なの。兄がいなくなったら……」

ドォォン――

その瞬間、巨大な爆発音が地面を揺らし、熱い爆風がその場にいた全員を吹き飛ばした。

倉庫は跡形もなく吹き飛び、すべてが粉々になっていた。
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