All Chapters of 『男装の令嬢は男になりたい』: Chapter 1 - Chapter 10

70 Chapters

プロローグ 1

  レーヴァンティア王国グレイヴ騎士爵領。「セリウス! 準備はできたか?」「はい。お父様。準備はできております」「お父様ではない。お前は、立派な騎士爵家の跡取りとしての作法を身につけよ! これからは、父上と呼ぶように」「はい! 父上!」「よろしい!」 『セリーナ・フォン・グレイヴ』―「セリウス」と呼ばれたこの少女の本名である。彼女は、グレイヴ騎士爵家の一人娘で、幼児期は魔除けのため男児の服装で、その後は、爵位存続のため、男として育てられていた。  八歳となりグレイヴ騎士爵家が仕える王都南方の大領主・リヴィエール公爵家に、父に連れられ、グレイヴ騎士爵家の跡取りとして公爵様に初めての挨拶に伺う所である。「セリウス! 決して女であることを悟られてはいかんぞ。騎士爵家の位は男でなければ継げんのだ。跡継ぎに男子がいないとわかればグレイヴ家は断絶なんだ」「分かっております。父上」 *** レーヴァンティア王国王都南方に広がるリヴィエール公爵領。その館の正門をくぐると、広大な石畳の中庭に噴水があり、白亜の館が陽光を受けて輝いていた。幼いセリウス――いや、セリーナは、その威容に息を呑んだ。「気を抜くな、セリウス」 父の低い声に背を押され、彼女はぎこちなく胸を張る。 やがて、館の大扉が開かれる。 現れたのは、セリウスと同じくらいの背格好の少年。深い蒼の瞳に長い睫毛、陽光を浴びて金色に煌めく髪――その姿はまるで絵画から抜け出した美少年だった。「グレイヴ騎士爵殿、よくぞお越しくださいました」 柔らかな声で礼を述べるその少年こそ、リヴィエール公爵家の嫡男、アラン・リヴィエール 八歳である。「おお、アラン様。ご健勝そうでなにより」 父が膝を折り、恭しく頭を垂れる。セリウスも慌てて倣い、膝をついて小さく礼をした。 だがアランは近寄ると、屈んでセリウスを覗き込んだ。蒼い瞳が、幼き「少年(女)」を射抜く。「君が、セリウス殿か。グレイヴ騎士爵家の跡取りだと伺っている」「は、はい! アラン様!」 声が少し裏返り、慌てて咳払いをする。 アランはふっと微笑んだ。「……緊張しているの? 大丈夫だよ。僕も最初に父の隣で挨拶をしたときは、手が震えて仕方がなかった」 その微笑は、幼いながらも気
last updateLast Updated : 2025-12-16
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第1話  男装の令嬢、騎士養成学校へ

   ここはレーヴァンティア王国。  豊かな麦畑とワインの産地で知られるが、近年は北方のガルド帝国との国境で緊張が高まっている。  そのため、王都アルヴェーヌでは若き騎士候補の育成にかつてない熱が注がれていた。 王都アルヴェーヌ――王国の政治と文化の中心であり、華やかな宮廷と広大な市街を抱く。春、セリウスとアランは、この都へと到着した。 石畳の大通りには商人や旅人が行き交い、街角には大道芸人や吟遊詩人の姿まである。領地では見たこともない光景に、セリウスは思わず馬車の窓から身を乗り出した。(……ここが王都……。アラン様と共に学ぶ新しい日々が、ここから始まるんだ) やがて馬車は、壮麗な学舎へと辿り着く。  騎士養成学校《ヴァルロワ学舎》。王国屈指の武門の誉れであり、貴族子弟と有力市民の若者が剣と学問を競い合う場所。白大理石で築かれた校舎は堂々たる威容を誇り、広大な練兵場や図書館を併設していた。その門をくぐるだけで、胸が高鳴る。 入学初日、広間には全国の有力貴族や騎士の子弟が一堂に会していた。  セリウスは思わず周囲に気圧される。煌びやかな家紋を刺繍した制服を誇らしげに着こなす者たち。長剣を下げて自信に満ちた目を光らせる少年たち。「緊張してるか、セリウス?」  アランが優しい視線をセリウスに向けて笑った。彼は王都南方の大領地リヴィエール公爵領の嫡男。  金糸のような長髪を後ろで束ね、黒地に銀の縁取りが入った制服のマントを翻している。道行く村娘たちが一斉に振り向くほどの美貌だ。「緊張? してない。むしろ……むしろ、やっと剣を振るう場に立てるのが楽しみだ」  そう答えたが、誰が見ても緊張しているのが丸わかりだ。 アランはセリウスの肩に手を置き、小声で囁き微笑む。 「私もだ」「ここに集うのは皆、将来の王国を背負う者ばかりだ」  式辞に立った教頭の言葉が、空気を一層引き締めた。 セリウスは隣に立つアランの姿をちらりと見る。  彼は涼しい顔で広間を見渡し、緊張する素振りすらない。 (……やっぱりアラン様は堂々としていらっしゃる。私は……私も、負けていられない!) やがて新入生たちはそれぞれのクラスに振り分けられた。  セリウスとアランは幸いにも同じ組になったが、そこにはすでに個性豊かな面々が待ち受けていた。 無口で大剣を背負う巨躯
last updateLast Updated : 2025-12-17
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第2話 フィオナ・ド・ヴェルメール

 初めての授業(ホームルーム)を終え、セリウスたちは学舎の男子寮へ向かった。騎士養成学校《ヴァルロワ学舎》は全寮制である。 石造りの廊下には、荷物を抱えて右往左往する新入生や、容赦なく声を張り上げる上級生たちの姿があった。  窓の外には練兵場が広がり、槍を振るう上級生たちの掛け声と、陽光をはじく金属音が爽快に響いている。 セリウスは自室に荷物を運び入れ、ふと息を整えたそのとき――背後から、不意に声をかけられた。「初めまして。お隣さん」 振り向いた瞬間、息を呑む。  そこに立っていたのは、長い黒髪を背に流し、宝石のように澄んだ蒼の瞳と白磁の肌を持つ“絶世の美女”だった。 (……は? 男子寮に女?) 一瞬そう思ったが、声にはわずかに低音が混じっている。  年齢は同じくらいに見える。寮母にしては若すぎるし。……ドレス姿でここにいるってことは? 「……あの、あなたは?」「自己紹介が先ね。フィオナ・ド・ヴェルメール。一年生よ。お見知りおきを」 彼――いや、彼女?――は優雅にスカートの裾を摘み、舞踏会さながらのカーテシーをしてみせた。その仕草は女王に謁見する淑女のように完璧で、しかも自然。  視線がセリウスを上から下までさらりと流れ、値踏みするように止まる。その口元に、意味深な笑みが浮かんだ。 (男子校の生徒ということは……やっぱり男? いや、女にしか見えないけど……それにしても美形すぎる! なんで男子寮に、こんなのが……。私、女なのに、完全に負けてるんだけど!) セリウスは心の中で頭を抱えつつも、表情には出さずに一歩前へ。  胸に手を当て、努めて落ち着いた声で名乗った。「セリウス・グレイヴです。初めまして。これからよろしくお願いします」  声がわずかに裏返りそうになるのを、必死に押し殺す。「あなた、随分と整った顔立ちね。しかも……肩幅が私より狭いわ。ふふ、もし私みたいに女装したら――間違いなく見惚れるほどの美人になるでしょうね」 心臓が跳ね上がる。  (なっ……!? 一
last updateLast Updated : 2025-12-17
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第3話 初模擬戦訓練

   翌日。朝露に濡れた練兵場に、一年A組の生徒たちが集められていた。  石畳の上に立ち並ぶ木人形、槍や剣を収めた武具庫、そして砂の舞い上がる模擬戦用の円形広場。 教官グランツが厳しい声で告げる。 「本日よりお前たちは騎士としての修練を積む! まずは互いの力量を知るための模擬戦だ。怪我を恐れるな。命を落とさなければそれでいい!」 ざわり、と空気が張り詰めた。 最初に円形広場へ進み出たのは、背の高い少年だった。  分厚い肩と胸板、陽に焼けた肌に大剣を背負う姿は、すでに若き兵士のようだ。「オルフェ・ダラン」  ダラン辺境伯家の次男だ。その声は低く響き、揺るぎない自信に満ちていた。 「俺は将来、百人を率いる騎士になるつもりだ。だからここでも、力で皆を圧倒する」 宣言どおり、模擬戦では大剣を片手で振るい、相手の剣を力ずくで弾き飛ばした。 「おお……!」とざわめきが起こる。  豪放な笑みを浮かべる姿は、すでに「隊の先頭に立つ男」の風格を漂わせていた。 続いて、赤毛の少年が軽やかに駆け出す。「リディア・マルセル!」 弓と槍が得意な山の領地から来た赤毛の少年は 誰より速く走ってみせた。  声は明るく、どこか人懐こい。  短槍を手にひょいと跳ねると、相手の肩口を軽く突き、次の瞬間には背後へ回り込む。  その機敏な動きに観客から笑い混じりの感嘆が漏れる。「平民出のくせに」と囁く声もあったが、本人は気にも留めず、胸を張ってにかっと笑った。 「俺、小さいけど負けないからな!」 三人目は、王都の武官の家の出で、黒髪の細身の少年。  背筋は真っすぐに伸び、無駄のない所作で槍を構える。 「レオン・フィオリ」  静かな口調だが、堂々とした響きがある。  彼は、槍を通じて、己を磨きた思っているいる。 槍先が揺らめき、次の瞬間、彼は寸分の狂いもなく相手の急所を突いた。  その動作はまるで舞のように洗練されており、ただの槍術ではなく「美しさ」さえ感じさせた
last updateLast Updated : 2025-12-18
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第4話 「彷徨う鎧」事件

   セリウスとアランが大食堂でスープをすすっていると、背後から明るい声が割り込んできた。C組のフィオナが、トレイを片手にひょいと腰を下ろしてくる。「ねえ、ねえ、お二人さん、聞いた? 昨日の夜中、寮で“ガシャガシャ”って不気味な音が響いたって噂。 鎧が勝手に歩き回ってるみたいだったって」 セリウスとアランは顔を見合わせた。 「鎧が……勝手に歩く?」「そうそう」  フィオナは声をひそめ、宝石のような瞳をいたずらっぽく輝かせる。 「昨日の夜中、上級生の一人がトイレに行く途中で聞いたんですって。廊下の奥からガシャガシャ音がして、見に行ったら――飾り鎧みたいな影がひとりでに歩いていくのがちらっと見えたんですって」「飾り鎧……あの、廊下にずらっと並んでる奴か?」  アランが眉をひそめる。 「くだらん噂だ。見間違いか、誰かの悪戯だろう」「まあまあ、そう決めつけないの」  フィオナは指を振ってみせる。 「こういう古い学舎には、つきものよ。伝統ある場所には必ず『七不思議』のひとつやふたつあるんだから」「七不思議……」  セリウスは胸の奥がざわめくのを感じた。 (もしかして――悪霊が取り付いるとか、古代の遺物や魔道具の仕業……?)「セリウス?」  アランに呼ばれて、セリウスははっと我に返った。「……えっと、でも本当なら放ってはおけないね。夜中に鎧が歩き回るなんて危ないし」「セリウスは、そういう話を真に受けすぎだ」  アランは苦笑した。 「もっとも、動く鎧って魔獣の逸話も聞いたことがあるから、まるっきり嘘とも言い切れないか? ……確認するなら、夜中に見に行くしかないぞ」「でしょ! でしょ! そういうことになるわよねぇ」  フィオナは頬杖をつきながら楽しげに微笑んだ。 「……どうする? 私も一緒に行ってあげようか? 怖がりなセリウスの手、握ってあげるわよ」「べ、別に怖がってなんかないよ!」  セリウスは思わず声を荒げた。「面白いな。セリ
last updateLast Updated : 2025-12-19
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第5話 「呪われた肖像画」事件

   翌朝――。  模擬戦用の長剣を抱えて練兵場に向かう途中、私はひそひそ声を耳にした。「なあ聞いたか? 『彷徨う鎧』の正体を突き止めたの、A組の一年らしいぞ」 「セリウスってやつが、鎧に真っ先に近づいて解体したんだって!」 「おお、すげぇ。肝が据わってるな」 その会話が自分のことだと気づき、私は思わず足を止める。   ――ちょっと待って。あれ、そんな武勇伝みたいな話じゃなかったはず……!  頬が熱くなるのを隠そうと、うつむいて歩を早めた。「おーい! 噂の勇者さまじゃないか!」  背中をばん、と叩かれて、思わず前のめりになりかける。  赤毛のリディア・マルセルだ。 「ほんとにあの鎧に飛び込んでったんだろ? すげぇな! 俺なら腰抜かしてたね!」「鎧に飛び込んではいないって……。ただ、突然動かなくなったから兜を外して、中は確かめたけど。……ちょ、ちょっと誇張されてると思うよ」  私は苦笑いする。 そこへ、長身のオルフェ・ダランが腕を組んで現れた。 「度胸があるのは悪くない。だが、敵の正体も分からぬまま不用意に近づくのは無謀だ」  ――そうはいっても、絶対オルフェだって同じことをしたと思う。はっきり言えば、オルフェだけには言われたくない。言わないけど。 淡々とした声だが、その眼差しには真剣な評価の光が宿っている。「次からは俺を呼べ。大剣で一刀両断してやる」  ……やっぱり。 オルフェならやりそうだな。度胸ありそうだし。てか、度胸どころか無鉄砲の塊。私のは話が一人歩きしてるだけ。……実際三人の中で一番度胸がなかったのは私だ。 「は、はあ……ありがとうございます」「ふん、やはり注目を集めているな」  すらりとした黒髪の少年、レオン・フィオリが横から口を挟んだ。 「ただの悪戯にしても、冷静に仕組みを見抜いたのは評価に値する。……セリウス、君は思ったより観察眼があるな」 仕組みを見抜いたのは、アラン。私じゃない。
last updateLast Updated : 2025-12-20
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第6話 メンバー募集

   翌日・1年A組教室 朝の教室に足を踏み入れたセリウスは、途端にざわめきに包まれた。「おい、来たぞ!」 「二連続だってよ、怪談解決!」 「『彷徨う鎧』に続いて『呪われた肖像画』まで!」 どっと拍手と口笛が起こる。あっという間に人垣ができ、セリウスは逃げ場を失った小動物のように囲まれてしまった。(……またか。恥ずかしいなぁ)「すげえじゃんセリウス! 学園七不思議ハンターだ!」  赤毛のリディアが、悪戯っぽい笑みを浮かべ、力加減を考えない手のひらで私の背中をばんばん叩く。身体がぐらぐら揺れ、思わず情けない声が漏れそうになった。「『血の涙の肖像』に飛び込んで、額縁から仕掛けを取り出したんだろ?」 「いやあ、俺だったら悲鳴上げて逃げてたな!」「ち、ちがっ……そんな派手なことはしてないよ! ちょっと上を探ったら瓶が出てきただけで……」  必死に弁解するが、クラスメイトたちは耳を貸さない。「またまた~、謙遜しちゃって!」 「英雄は控えめなぐらいがちょうどいいってな!」 茶化す声に混じって、羨望や好奇の視線が突き刺さる。  セリウスの顔は真っ赤に染まり、居心地悪そうに頭を抱えた。 そんな中、長身のオルフェ・ダランが腕を組んで歩み出る。人垣が自然に割れ、彼の大柄な体躯と鋭い眼差しに一瞬空気が引き締まった。 「ふむ……度胸と観察眼は認めてやる。だがセリウス、次は俺も同行させろ。仕掛けを見抜く前に俺の大剣で叩き斬ってやる」「いや、それだと証拠が残らないだろ……」  セリウスは小声でつぶやく。 黒髪のレオン・フィオリは、何か舞台に立つ俳優のように髪をかき上げ、優雅な笑みを浮かべた。その仕草ひとつで周囲が静まるほどの余裕を漂わせていた。 「二度も悪戯を見破るとは、偶然ではないな。……セリウス、君は将来、探偵か魔道学者の道に進むべきじゃないか?」「えっ……僕、騎士志望なんだけど……」  しどろもどろに答えるセリウス。 その後ろから、気配もなくすっと現れたのはフィオナだった。まるで影から抜け出してきたかのように、彼女は当然の顔で輪の中に加わった。 「みんな忘れてるけど、私も一緒にいたのよ?」  腰に手を当てて胸を張る。 「つまり、今回の『怪談調査隊』は私とセリウスとアランの三人。……セリウスだけじゃなく
last updateLast Updated : 2025-12-21
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第7話  王都郊外・ミルリオ森林 魔獣討伐訓練 1

   6月の澄んだ青空の下、一年生たちは王都郊外のミルリオ森林へ向かった。  馬車を降りた一年生たちは、鬱蒼としたミルリオ森林の前に整列していた。  深い緑の向こうからは、どこか野生めいた唸り声が断続的に響いてくる。「うわぁ……これが訓練場所か。思ったよりも深い森だな」  腰に下げた長剣の柄に手をやりながら、緊張気味に周囲を見回す。「ふふん、びびってんのか? 英雄様」  リディアが短槍を肩に担いで、にやにや笑う。「び、びびってないよ!」  必死に否定するが、アランが小さく肩をすくめた。 「セリウスは、いつも始めは凄く警戒するんだ。周囲の状況をいち早くつかんで、危険がないか、状況に合わせて対応する。警戒心が強いのは良いことだと思うよ。油断して怪我するよりましだからね」 教官のガレスが一歩前に出て、生徒たちをぐるりと見渡した。 「よし、全員揃っているな。では改めて説明する。――今回の訓練は、このミルリオ森林に巣食う魔獣の討伐だ。主な目標は、牙猪だ」「ファングボア……」  ざわりと一年生の間に小さな緊張が走る。 ガレスは手にした指揮杖で地面に図を描きながら続けた。 「ファングボアは体高が一・五メートル前後、成獣は馬ほどの大きさになる。硬い毛皮と突き出た牙が武器だ。突進力は凄まじく、真正面から受け止めれば即死もある」「……真正面から受け止めるなってことだな」  オルフェが腕を組んで唸る。「そういうことだ。前衛は横に受け流し、中衛と後衛が横腹を狙え。よいか? 正面からぶつかりに行って斬り伏せられるのは、よほどの熟練騎士だけだ」  ガレスの目が鋭く光り、一瞬オルフェの方に向いた。「ぐっ……そ、そんなの俺だって分かってる!」  オルフェが慌てて顔をそむける。リディアが小声で「怪しいなあ」と笑った。「他にこの森で出る魔獣は?」  レオンが静かに手を挙げて尋ねる。「よい質問だ。――ファングボア以外には、森林狼の群れ、それから|毒蛇《
last updateLast Updated : 2025-12-22
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第8話  王都郊外・ミルリオ森林 魔獣討伐訓練 2

   牙猪を三頭仕留めたあと、セリウスたちは互いに息を整えつつ陣形を立て直した。 「ふぅ……これでひとまずは落ち着いたな」  アランが周囲を確認し、剣を納める。「おい、セリウス。今度は立ちすくむなよ!」  オルフェが大剣を肩に担ぎ、不機嫌そうに言う。「わ、分かってるよ……でも、あんな勢いで突っ込まれたから、体が動かなくなっちゃったんだ。次は大丈夫……」 「ははっ、そりゃ初めては、普通そうなるよなあ」  リディアが豪快に笑ってセリウスの背中を叩く。 「だから、俺らがいるんだって。チームってそういうもんさ。気にすんな!」「……まぁ、今回は連携で勝てましたし、それで十分ですよ。3匹の牙猪を相手に上出来です」  レオンが槍を拭きながら淡々と言い、班の空気を締めた。 しばらくして、森のあちこちに散開していた班が集合地点へ戻り始めた。戦果を背負って運んでくる者、傷を負った仲間を支えて戻る者、表情はそれぞれだ。 やがて全班が揃うと、教官ガレスが腕を組んで前に立った。 「……よし、全員戻ったな。死人も大怪我もなし。上出来だ」  低く太い声に、緊張していた一年生たちはほっと胸をなで下ろした。「では報告を聞く。――まずはA班」 各班が順に討伐数と行動を報告していく。失敗や混乱があった班には、ガレスの厳しい叱責が飛ぶ。 そしてセリウスたちの班の番になった。 「牙猪を三頭討伐。連携で仕留めました」  アランが代表して簡潔に報告する。「ふむ……三頭か。なかなかだ」  ガレスがゆっくりと頷き、班の面々を鋭く見渡す。 「正面から受け止めようとした無鉄砲が一人いたようだな?」「うっ……」  オルフェがたじろぐ。「だが、仲間が冷静に援護し、連携で倒した。評価すべきはそこだ。力任せに突っ込むだけでは命を落とす。今日の戦闘で、身に沁みただろう」「……はい」  オルフェは渋々ながら頭を下げる。「それと――」
last updateLast Updated : 2025-12-23
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第9話  冒険者ギルド

   休日の朝、寮の一室。  窓から差し込む陽光に、セリウスは寝癖を直しながら荷物を整えていた。  机の上には小さな革袋と、古びた短剣、磨き直した鎧の一部。「……いよいよか」  胸の奥が、妙にそわそわする。 (ギルドには、たくさんの人間がいるだろう。できるだけ他人との接触は控えめに……目立たないようにして、いや、騎士養成学校の生徒がギルドに登録に行けば注目を浴びないわけにはいかないだろうが、ギルドの人たちに、女だということが、ばれないように気を付けなくては……絶対にばれちゃいけないんだ) 軽く息を整えたところで、ドアが勢いよく開いた。「おーい! 準備できてるか、英雄さま!」  赤毛のリディアが元気よく顔を出した。 着替える時はドアの鍵は閉めるようにしているが、それでも突然ドアが開かれると心臓がびくりと跳ねる。「ちょ、ちょっと! ノックぐらいしてくれよ!」「ははは、細けぇこと気にすんな! 俺なんか、昨日のうちに装備磨いといたぜ。見ろ、このツヤ!」  リディアは胸当てをぴかぴかに光らせて自慢してみせる。「……眩しすぎる。猪と戦う前に光で目を潰せそうですね」  呆れたようにレオンが続いて入ってくる。「ふん。どうせ登録なんざ紙切れだろ? 準備に手間取るほどのことじゃねぇ」  大剣を担いで現れたオルフェは、すでに戦闘に行くかのような物々しい装備だ。「登録だけなのに……重装備で行く気?」  セリウスが呆気に取られる。「当たり前だ。俺の勇姿をギルドに刻むんだからな! ギルドの奴らに舐められるわけにはいかないだろ」「……格好から入るタイプなんだね」  アランが苦笑しながらまとめ役の顔で入ってきた。 「じゃあ、みんな揃ったし出発しようか」 *** 街の中心にある冒険者ギルドは、木造二階建ての大きな建物だった。  昼前にもかかわらず、中は冒険者たちで賑わい、酒場兼掲示板のスペースからは笑い声や依頼の呼び声が飛び交っている。「おぉ~!
last updateLast Updated : 2025-12-24
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