Todos os capítulos de 『男装の令嬢は男になりたい』: Capítulo 51 - Capítulo 60

70 Capítulos

第50話 オークションの行方

 「六千万――、他にはいらっしゃいませんか!?」 拍賣人の声が震える。「七千万だッ!」 豪奢な装束を纏った中年の貴族が立ち上がった。「このバルフォード侯爵家が退くと思うか! この石は我が領の未来を左右するのだ!」 観客からざわめきが起こる。名門バルフォード侯爵――中央でも屈指の権勢を誇る貴族である。 だが黒衣の人物は微動だにせず。「八千万」 低く、ただ一言。 場が再び凍りつく。 侯爵の額に汗が滲み、唇を噛みしめた。「ふ、ふん……! 九千万!」「一億」 黒衣が告げた瞬間、歓声と悲鳴が同時に巻き起こった。「一億ゴールドだと……!? 正気か!」 バルフォード侯爵が立ち尽くす。これ以上は家の財力でも背伸びになる――誰もがそう悟ったその時。「一億五千万!」 重々しい声が会場を震わせた。 扉の方から、軍装の壮年の男が悠然と姿を現す。 会場にいた者たちが息を呑んだ。「まさか……王国軍総司令、ゼルディア将軍……!」 将軍は堂々と壇に歩み寄り、観客を一瞥した。「この媒介石は、個人ではなく王国のために必要だ。国家の名において入札する」 黒衣の人物と将軍の視線が交錯する。場内の緊張は最高潮に達した。 数秒の沈黙――そして黒衣は小さく舌打ちすると、椅子に深く腰掛けた。「……降りる」 拍賣人が高らかに槌を打ち鳴らした。「落札――一億五千万ゴールド! 落札者は王国軍総司令、ゼルディア将軍殿でございます!」 場内に万雷の拍手とどよめきが広がる。 セリウスたちは呆然としながらも、歴史的瞬間を目撃した興奮に胸を震わせていた。「すごい……俺たちの石が、国を動かしたんだ……」
last updateÚltima atualização : 2026-02-10
Ler mais

第51話 オークションの後で

  寮の食堂に腰を落ち着けた五人は、湯気の立つスープにも手を付けられず、ただ呆然としたまま現実感を取り戻せずにいた。 あの石の落札額は――一億五千万ゴールド。桁外れの数字が、まだ頭の中でぐるぐる回っていた。 そして王国軍総司令ゼルディア将軍からの呼び出し。 どちらも普通なら夢物語のような話である。「リディア……俺の頬、つねってみてくれ」 オルフェが力なく顔を突き出す。 無言でリディアが指先を伸ばし、思い切りひねり上げた。「いっっっでええっ!」「……夢じゃないみたいだな」 リディアの気の抜けた声に、五人の空気がかすかに和らぐ。 だが笑いはすぐに途切れた。レオンが腕を組み、低く言う。「しかし……一億五千万ゴールドですよ。王国の将軍が、そんな額を出してまで手に入れた品を僕たちが見つけ出してきたってことになります」「ああ、あれだけの激戦の末に手に入れた品だからな。それなりの値は付くだろうと思っていたが……二千万どころか、一億五千万に跳ね上がるとは予想外だったな」 アランが応じる。「本当だね。ギルドに売っていたら2千万だったと思うと、危なかったわけだね」 私も思わず驚きを隠せなかった。「それにしても、ギルドの査定額、今思うと桁違いに安すぎじゃねえか?」 リディアも正気に返って不満を口にした。「二千万が一億五千万だからなあ。確かに売らないで良かったし、ギルドの査定は、安すぎだな」 オルフェが胸で腕を組み正気に返ったように口を尖らす。 アランはリディアとオルフェを確認しながら言い放つ。「オークションってのは、時に常識外れの値が付く時もあるんだろうよ。ギルドの査定は二千万以上って言ってたんだし、オークションに出した方が良いともアドバイスしてくれたし、ギルドの対応としたら、そんなもんだろう。しかし、一人三千万! みんな何に使うんつもりだ?」「三千万かー! 俺
last updateÚltima atualização : 2026-02-11
Ler mais

第52話 新学期

   次の朝は、抜けるような青空が広がっていた。  澄んだ風が校舎の白い石壁をなで、寮の中庭に並ぶ花壇を鮮やかに照らし出す。夏休みが終わり、新しい学期の始まりだ。冒険者としてダンジョンに潜るのはしばらくお預け。今日からは、学生としての生活が再び優先される。 私は窓を開け、深く息を吸い込んだ。空気は冷たく、胸の奥まで透きとおるようだったが、心の中は昨日の出来事でまだざわついていた。落札価格――一億五千万ゴールド。そして、王国軍総司令ゼルディア将軍との対面。  夢とも現実ともつかないその記憶を、私は何度も反芻していた。「おはよう、セリウス」 背後から軽やかな声がかけられる。振り返れば、隣室の扉が開き、フィオナ・ド・ヴェルメールが姿を現していた。朝の光を浴びて、絹糸のような黒髪がさらりと揺れる。その笑みも仕草も、どこからどう見ても女性そのものだ。だが実際には男性――本人曰く「美は性別を超えるもの」だそうで、確かにその存在感には誰も逆らえない。  私とはまるで正反対の人間だが、だからこそ妙な親近感を覚える。そして同時に、彼ならば私の内心や秘密を見抜いてしまうのでは、と警戒心も拭えなかった。「昨日はだいぶ真剣そうに話していたわね。私、少し心配になったわ?」  フィオナの瞳が、柔らかくも探るように細められる。「おはよう、フィオナ。昨日はちょっと、色々あってね」  私は肩をすくめて答える。「そうらしいわね。オルフェの大声で、大体のことは聞いていたわ」 ……オルフェの大声。確かにあいつの声は。  思わず私は苦笑した。「あの声じゃ、フィオナには全部知られちゃったみたいだね」「でも、内容がちょっと信じがたくて。本当なの?」 フィオナは小首をかしげる。光を反射する長い睫毛が影を落とし、その眼差しにはからかいよりも真剣さが混じっていた。「一億五千万ゴールドのこと? ゼルディア将軍のこと? どう聞こえたかわからないけど、どちらも本当だよ」 そう告げながらも、胸の奥にじわりと重みが広がる。言葉にすればするほど、それが現実であること
last updateÚltima atualização : 2026-02-12
Ler mais

第53話 《呪具の持ち込み事件》

   その日の訓練後。  器具の片付けを手伝うために倉庫へ入った私たちは、そこで妙なものを目にした。「……ん? おい、これ見ろよ。なんだか変な欠片が落ちてるぞ」  オルフェが棚の下から引っ張り出したのは、黒く煤けた石片のようなものだった。小指の先ほどの大きさだが、表面には蜘蛛の巣のような線が刻まれていて、まるで意図的に描かれた呪紋のようだった。「ただの破片じゃねーのかよ?」  リディアが眉をひそめるが、すぐに首をかしげる。 「うーん、見たことのない模様だなあ……気味が悪いぜ!」 私は胸の奥に氷の塊を落とされたようなざわつきを覚えた。どこか、冷気のような気配が漂っている。 「レオン、ちょっと鑑定してみてくれないか?」「はい、分かりました」  レオンが片膝をつき、掌に石片を載せて目を閉じる。淡い蒼光がレオンの瞳に宿り、低く張り詰めた声が静まり返った倉庫に響いた。 「……はっきり分かります。微弱ですが、確かに呪詛の残滓が残っています。これは……自然にできたものじゃありませんね。意図的に、人工的に仕掛けられたものです」「なっ……呪詛!」  リディアが声を上げる。 「もしかして、この前の剣の破損や魔導装置の暴走と関係あるのか?」「やはりな……これで、あの一連の事故が偶然じゃなかったと裏付けられた。ちょっとおかしなことが、続きすぎると思ってたよ」  アランが険しい顔で頷く。 オルフェは黒い石片を睨みつけ、吐き捨てた。 「ちくしょう……誰かが学舎の中で暗躍してやがるってわけか。学生を狙っているのか……それとも学舎そのものを混乱させるつもりなのか……」「にしても……こんな小さな欠片一つで、これほどの影響を与えられるなんて……」  私は石片を覗き込み、指先でそっと触れる。冷たい。触れた瞬間に、背筋を這い上がるような嫌な感覚が走った。 「うっ……! 触れた瞬間に、背骨を氷の刃で撫でられたような悪寒が走った……! ……間違いない。これが原因のひとつだよ」
last updateÚltima atualização : 2026-02-13
Ler mais

第54話 《呪具の持ち込み事件》 2

 翌日の放課後。人気の少なくなった学舎の裏手。私たちは顔を突き合わせ、小声で打ち合わせをした。「じゃあ、手分けして怪しい場所を探ろうぜ。器具庫だけじゃねえ……演習場や人形置き場も怪しい」 オルフェが低い声で言うと、リディアが腕を組んで頷く。「了解。俺は人形の方を見てくる。あれは、中が空洞だから仕込みやすいんじゃねーかと思うぞ」「私とセリウスは魔力炉を確認する。レオンは鑑定があるから、一緒に回ろう」 アランが素早く分担を決め、私たちは散開した。 ――訓練用人形置き場。 リディアとオルフェが、人形の腹部をナイフで割った瞬間、黒い破片がカランと転がり出た。「……出やがったな」 リディアが顔をしかめる。「ほら見ろ! やっぱり中に仕込まれてたんだ!」「くそっ、これで二つ目か……。完全に意図的だな」 オルフェが石片を睨みつける。 そのころ、私とアラン、レオンは魔法演習場の炉心室を調べていた。 鉄の扉を開け、魔力炉の制御盤の裏を覗いた瞬間――。「……あった!」 私が声を潜めて指差すと、小瓶のような容器が出てきた。中には黒い粉が渦を巻いている。「ただの粉じゃありません。……これは、魔力を乱す呪具です」 レオンが素早く鑑定し、鋭く告げる。「こんなもんが炉に仕掛けられてたら……」 アランが顔をしかめる。「魔力炉が暴走して、演習中の学生が吹き飛ぶところだったな」 背筋が冷たくなった。「まさか……まだ他にもあるんじゃないか?」「可能性は高いな」 アランがきっぱりと言う。「探れば探るほど出てくるかもしれない。つまり、相手は本気でこの学舎を壊すつもりだ」 そこへリディアとオルフェが駆け込んできた。「おい! 人形の腹
last updateÚltima atualização : 2026-02-14
Ler mais

第55話 《呪具の持ち込み事件》 3

 学舎の中心部にある教官室。扉を開けると、明かりに照らされた長机の周囲に教官たちが集まっていた。学長もその中央に立ち、眉をひそめている。「セリウス、アラン、リディア、オルフェ、レオン……お前たちか」  学長の声には驚きと緊張が混ざっていた。「はい、学長。私たちも巡回中に不審な気配を察知しました」  私が答えると、学長は短く頷いた。「報告を聞こう。すべて正直に」  教官のひとりが補足する。 「訓練用人形や魔法演習装置に異常があったという件か?」「その通りです。今までにたくさんの呪具を回収してきましたが……」  レオンが小瓶と石片を机に置く。 「今もなお、呪具が仕掛けられ続けており、事故の原因となっています。これ以上放置すれば大規模な事故につながる恐れがあります」 教官たちは互いに視線を交わす。ガルド教官の顔も引き締まった。 「……これは、ただ事ではないな」  ガルドが低く呟く。「学長、今も私たちは巡回しましたが、正体不明の黒衣の者と遭遇し、呪術で妨害されました」  リディアが拳を握り、緊張感を露わにする。 「学舎内に潜む者が、さらに呪具を次々に仕掛けようとしている可能性があります」「……ふむ」  学長は机に手を置き、沈思黙考する。 「お前たち学生が危険に晒されるのは、看過できぬ。だが、教師だけで全てを防ぐことも難しい」「俺たちも協力するぜ」  オルフェが鋭く言った。 「情報収集や怪しい場所の発見には、俺たちが率先して動ける。教官の目だけじゃ届かないところも、俺達なら気付くかもしれねー」「……そうか」  学長はゆっくりと頷く。 「よろしい。君達に特別に捜査することを許そう。いや、お願いしたい。だが、危険な行為、特に単独行動は絶対にしないようにな。必ず二人以上で動くこと。そして、発見した呪具は直ちに私に届けよ」「了解です」  アランが力強く返す。 「それから、要望です。夜間の警戒体制も強化してください。学舎の外部、通路、
last updateÚltima atualização : 2026-02-15
Ler mais

第56話 《呪具の持ち込み事件》 4 

 黒い靄が廊下一帯を覆い、視界が閉ざされる。  息をするたびに、胸の奥へ冷気が流れ込むようだ。「……位置を見失った!」  リディアが低く吐き捨てる。「気配を探れ!」  アランの声が飛ぶ。彼の剣先が闇を払うように走った。 次の瞬間、靄の奥から疾風のような斬撃。  火花を散らしながらアランの剣と激突し、金属音が狭い廊下に響く。「くっ……速い!」  アランが押し返される。 すぐさまオルフェが大剣を横薙ぎに振るう。だが影は低く身を沈め、信じられない反射でかわした。  その動き――どこかで見たことがある。「今の……学舎の剣技だ!」  私の胸に稲妻のような閃きが走る。 その一言に、リディアが眉をひそめた。 「つまり、あいつは外部の刺客じゃなく……!」 影は答える代わりに、懐から札を抜き放ち、床へ叩きつける。  赤い炎のような紋様が瞬くと同時に、爆ぜる衝撃波。「下がれ!」 アレンの指示に応えるようにレオンが即座に防御魔法障壁を展開し、全員が吹き飛ばされるのを防いだ。 靄が一瞬晴れ、影のフードがわずかにずり落ちる。  見えたのは、額に走る古い傷跡、そして鋭く光る瞳――見覚えがある。「お前……!」  アランが目を見開く。 しかし次の瞬間、影は符を燃やし尽くし、再び姿を闇へと溶かす。 追跡の最中、影は回廊の角をすり抜け、月光が差し込む中庭へ飛び出した。  私たちはすぐさま追いすがる。「待てっ!」  アランが剣を振るい、火花が夜闇を裂いた。 黒衣の影は後方へ弾かれ、覆面がずれた。  一瞬、額を横切る古い傷跡が月明かりに浮かぶ。  そして、眼鏡の奥に潜んでいたのは、鋭く光る双眸――。「……っ!」  私は息を呑んだ。あの瞳を、私は知っている。「今の顔……!」  リディアが小声で言いかけた瞬間、影は手をか
last updateÚltima atualização : 2026-02-16
Ler mais

第57話 《呪具の持ち込み事件》 5

 記録庫を後にした老学長ヴァルターは、ゆるやかに廊下を歩き出した。  石畳に杖の先が「こつり、こつり」と響く。夜の学舎は静まり返り、その音がやけに大きく耳に残る。 彼は角を曲がり、詰所に控えていた秘書官へ低く命じた。 「アランデル老教士を……呼んでくれ」 秘書官は一礼し、闇へ駆けていく。  やがて、剣術教官であるアランデル老教士が連れてこられた。  数十年にわたり学舎を守り続けてきた武人であり、学長が最も信を置く数少ない教員の一人だ。「ヴァルター殿、急ぎとのこと……」 「静かに。内密の話だ。ここでは声を抑えてくれ」 二人は人気のない回廊を進み、閉ざされた応接室へ入った。  学長は扉を確かめ、重ねて鍵を掛けると、机に蝋燭を灯した。 その炎に照らされ、老学長の目は一層鋭さを増す。 「アランデル。……学舎に裏切り者がいる可能性がある。一年生のアランたち五人がこのことを知らせてくれた。最近立て続けに起こっている事故との関連を含めてな」 アランデルは眉をひそめた。 「裏切り者、ですと……?」「そうだ。名を伏すが、ある教官が帝国呪術と関わりを持ち、密かに帝国式の呪術を仕掛まわっている疑いがある。まだ証拠は脆弱だ。だが、生徒らが目撃したのは確かだ」「……放置すれば、学舎全体が呪いに呑まれましょうな」  アランデルは低く呟き、無意識に腕を組んだ。 老学長はうなずき、重い声で続ける。 「この件は極秘だ。外に漏らせば、学舎は動揺に沈む。おぬしには、密かに監視と護衛を任せたい。アランたちを守ると同時に、疑わしき者を見張れ」「承知しました。老骨ではありますが、必ずや」 二人の間に短い沈黙が落ちる。蝋燭の火がわずかに揺らめき、壁に映る影を大きくした。 やがて学長は深く頷き、言葉を結んだ。 「――いずれ真実は暴かれる。だがそれまで、敵に悟られぬよう、我らは目立たぬように捜査するしかない」 その夜から、学長とごく少数の信頼できる教員による極秘の監視網が動き始めた。
last updateÚltima atualização : 2026-02-17
Ler mais

第58話 《呪具の持ち込み事件》 6

 作戦は単純であるが危険を伴っていた。講義が終わると同時に、私たちは席を立ち、誰にも不自然に見えないように教壇を離れた。五人がばらばらに。だが――できるだけ離れすぎず、しかし十分な間隔を保ってカミーユ教官を尾行する。カミーユ教官を直視するのはリディアとレオン。少し離れて私とアラン、オルフェの三人が続く。互いの視界に仲間が入ることで、万が一の合図や援護がすぐに行えるはずだ。 カミーユ教官はいつもと同じ足取りで講堂を出る。黒の外套を静かに翻し、突然立ち止ると、眼鏡越しに書類をめくる。その所作を、リディアとレオンは息を殺して見守りながら、リディアは手で私たちに止まれの合図を送り、私たちは廊下の陰に身を潜めて距離を詰める。五人の連携が自然に機能していた。 カミーユ教官が再び歩き出し、建物を出て中庭を抜けると、私は心の中で速やかに位置を調整する。影と影の間合い。石畳に落ちる靴音。冷えた夕暮れの風が、私の髪を揺らした。カミーユ教官は意識してか無意識か、学舎の抜け道を選んで歩いている。まるで構内の構造を血肉のように知り尽くしているようだ。 私たちは距離を保ちながらも確実に追う。講堂前の群れを避け、裏口を回り込み、古い蔵書棟の影を利用して身を隠す。今は見つかる訳にはいかない。確実に証拠を掴むことだけに集中するのだ。 カミーユ教官が小さな石造りの回廊へ入る。灯りが少なく、反響音だけが大きくなる場所だ。一度、身を低くして壁沿いの継ぎ目を確かめる仕草を見せた。――その瞬間、リディアがわずかに前へ出て手招きで合図する。私たちはほんの一歩だけ前へと詰め、死角に潜んだ。 回廊の角を曲がると、カミーユは急に速度を上げ、裏階段へと消えた。「いそげ!」 リディアの言葉で私たちはためらわず一斉に動く。  五人が固まって階段を下り、石の匂いと冷気が混じる地下通路へと続く。足音を殺すため、靴の裏に意識を集中させる。 地下通路の突き当たり、カミーユ教官は古い鉄製の扉を開け、室内へ入って行く。扉は小さく、普段は授業用具の保管に使われるだけの場所のはずだ。教官の姿が扉の内側に消えると、私たちは息を合わせて扉のそばで身を潜める。五人の気配だけが、薄暗い廊下に静
last updateÚltima atualização : 2026-02-18
Ler mais

第59話 《呪具の持ち込み事件》 7

 私たちは一斉に石壁の隙間へ飛び込んだ。  隠し通路は人ひとり通るのがやっとの狭さで、湿った土と鉄の匂いが鼻を突く。灯りはなく、ただ遠くで揺れる赤黒い光が不気味に奥を照らしていた。「足跡がある……!」  先頭を走るオルフェが床を指差した。靴跡が濡れた泥を削り、まだ新しい。「待て! 罠があるといけない。俺が先頭を行く」「分かったよ。そういうことはリディアが頼りだからな」  オルフェがしぶしぶ先頭を譲った。 私たちは息を合わせ、声を殺して進む。  石壁の裂け目が次第に下り坂へと変わり、地下水の流れる音が近づいてきた。「この先……地下水路に繋がってる……?」  リディアが不安げに呟いた瞬間、轟音が響いた。 ――水の奔流だ! 通路の奥から押し寄せた水が壁を破り、私たちを飲み込もうと迫る。 「くそっ、やつの仕業か!」「僕に任せてください!」  レオンが結界を張り、奔流の勢いを受け止める。  私たちは体を低くして壁際に張り付き、必死にしぶきを避けた。 そして水煙の向こうに、カミーユ教官の姿が一瞬、見えた。  外套を翻し、こちらを振り返る。額に刻まれた古い傷が、濡れた光に浮かび上がる。「……愚か者どもが。追えば殺すぞ」 低く響く声。  教官は、そのまま背を向け、さらに奥へと姿を消そうとする。「待てぇっ!」  オルフェが咆哮し、水を蹴って駆け出した。 私たちも後を追う。足元は濡れ、視界は霞む。諦める訳にはいかない。 やがて通路は大きな空洞に出た。  崩れかけた石柱が立ち並び、中央には地下水を溜めた黒い池が広がっている。蝋燭が何本も灯され、壁に呪符が貼りめぐらされていた。 ……準備されていた舞台のようだ。罠かもしれない。ここは危険だ。最低でもアラン様はお守りせねば。 舞台の中心にカミーユ教官が立ち、掌に血を滲ませて印を結んだ。  赤黒い光が水面に広がり、そこから異形の影が形を取り始めてい
last updateÚltima atualização : 2026-02-19
Ler mais
ANTERIOR
1234567
ESCANEIE O CÓDIGO PARA LER NO APP
DMCA.com Protection Status