カミーユ教官の瞳が、氷のように冷え切った光を帯びる。 外套を裂かれ、帝国の織り地を露わにされた瞬間、彼はもう仮面を被ることをやめていた。「小僧ども……調子に乗るなよ」 低く響いた声と同時に、彼の掌から噴き出した血煙が一瞬で空洞を満たす。 赤黒い靄が脈動し、池の水が沸騰するように泡立った。「こうなったら――貴様らを口封じのために死んでもらうしかないな」 轟音とともに、水面から影の柱が立ち上がる。一本、二本ではない。無数の腕のような影が一斉に襲いかかり、石柱ごと薙ぎ払った。「うわっ!」 リディアが弾き飛ばされ、崩れた石片の下敷きになりかける。私は慌てて肩を取って引き寄せたが、その隙に別の影が背後へ回り込んでくる。「セリウス、避けろ!」 アランの怒声。私は反射的に身を低くし、背後の影の爪が壁を抉る。火花のような粉塵が散った。……守るはずのアラン様に私はいつもかばわれている。こんなはずじゃないのに。 レオンの詠唱が響く。 「――〈氷結槍〉!」 数本の氷槍が走り、影を裂く。だが裂かれてもなお影は再結成し、倍にも増えたように押し寄せてくる。「くそっ、数が減らねぇ!」 オルフェが歯を食いしばり、大剣で必死に払い続ける。だがその腕すら影に絡め取られ、動きを封じられかけていた。 ――このままでは押し潰される! 私の胸に焦燥が走る。 カミーユ教官は中央で悠然と印を結び、血を垂らし続けている。その身の回りには見えぬ壁が張り巡らされ、オルフェの剣もリディアの槍も届かない。「諦めろ。お前たちは、ここで死ぬのだ。お前たち知った秘密も闇に消える」 その言葉に、背筋が凍りつく。 私たちの疑念も、真実も、この場で握り潰されようとしている。 影の奔流が迫り、レオンの結界が悲鳴を上げるように軋んだ。 「……もたない……!」 カミーユ教官の血走った瞳が私たちを射抜く。 ――本気だ。この男は本当に、私たちを皆殺しにするつもりだ。
Last Updated : 2026-02-20 Read more