Todos os capítulos de 『復讐の転生腹黒令嬢は溺愛されたので天下を取ることにしました』: Capítulo 61 - Capítulo 70

83 Capítulos

55  待ちきれない王の猛アタック

 パーティーの開始時刻が迫る中、イザベラの部屋の前には、すでに一人の男が待ち構えていた。「まだか……?」 焦燥に駆られたルークは、廊下を行ったり来たりしながら苛立たしげに靴音を響かせる。彼の鋭い黒曜石の瞳は、まるで獲物を待ち受ける猛禽のように扉を凝視していた。待つことが苦手な王にとって、この時間は拷問にも等しい。 ルーク・ベルシオン王は、逡巡するように腕を組みながら扉を見つめる。何度もノックしようとするが、扉の向こうから聞こえる女性たちの華やいだ笑い声と、衣擦れの音に思いとどまる。その一つ一つが、彼の焦りを一層募らせた。 しかし、彼は待てる男ではない。 ガチャッ! 意を決したように扉を開けると——「きゃあっ!? 陛下!? ちょっと待ってください、まだ準備中です!」 部屋の中央では、あやめが必死にイザベラのドレスの裾を整えていた。その視線の先、鏡の前に立つイザベラの姿に、ルークの世界が一瞬にして塗り替えられる。 真紅のドレスが波のように優美に揺れ、繊細な金刺繍が灯火に照らされてきらめく。彼女の肌は月光のように白く、きっちりと編み上げられた金の髪がその気高さを際立たせていた。美しい。あまりにも——。「おお……」 ルークの息が詰まる。心臓が一瞬跳ね上がったような感覚に襲われる。 彼の視線は、金の髪から滑るように鎖骨、ドレスの緻密な刺繍へと移り、やがてその凛とした瞳と絡み合う。すべてが完璧だった。 ずいっ 無言のまま、ルークはイザベラへと歩を進める。 イザベラは戦慄した。彼の目が、あまりにも真剣で、深く、熱を帯びている。じわじわと迫る彼に、思わず後ずさるが—— 背後に椅子がある。逃げ場はない。「……美しい」 低く響いたその声は、驚くほど真剣だった。まるで宝石を愛でるような、いや、それ以上の敬意と渇望が滲んでいる。 ルークはそっとイザベラの手を取る。大きく温かな手が、指先からゆっくりと熱を伝えてくる。「あなたがどんな衣装を着ても魅力的なのは知
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56 結婚の条件再確認 

 パーティー会場へ向かう長い廊下。そこには、歩くたびに揺れる優雅なドレスの裾と、それに寄り添う王の影があった。「ルーク様」 イザベラは立ち止まり、じっと彼を見上げる。「ん?  なんですか? イザベラ」「ルーク様。あなた、最近ずっと結婚の話をしてますけど……私の条件、忘れていませんよね?」「……条件?」 ルークはとぼけた顔をしてみせる。 だが、その瞬間、イザベラの鋭い目が彼を射抜いた。「スピネル王国の征服の件……」 その言葉に、ルークの表情が一瞬で険しくなる。「……ふむ」 彼は腕を組み、少し考え込むように天井を見上げた。「難しいのはわかってます。でも、それが私の条件。忘れてはいないですよね?」「もちろん覚えているとも。だがな……」 ルークはゆっくりと歩み寄り、イザベラの腰に軽く手を添える。「そんなに待たずとも、あなたはもう私のものになっていいんじゃないですか?」「は?」「征服というものは、時間がかかるものなのです。私は今、着実にスピネル王国に工作を仕掛けています。あなたの言ったとおり、リチャード王派とジェームズ派の対立を煽り、内部分裂を起こさせている最中です」「へえー。それで?」「つまり、もはや勝利は時間の問題です。ならば、条件達成前に結婚してしまうのもアリではないですか?」「却下ですね」 イザベラは即答した。「なぜですか!?  もう勝利は確実なのに」「『確実』と『完了』は違います。それに、あなたがどれだけ優れた戦略家でも、まだスピネル王国は健在なんです」「むう……」 ルークは顔をしかめる。「まったく、わたしの愛がどれほど強いか、まだわかっていないようですね。待ちきれないのですよ、イザベラ」「分らなくはないけれど……。でも、私も妥協するつもりはありません」 イザベラはルークの腕を振り払い、堂々とした足取りで歩
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57 王宮の夜会──王が誇る 「忠臣と未来の王妃」

 豪奢なシャンデリアが天井から燦然と輝き、無数の燭台がまるで夜空の星のごとく煌めく。大理石の床には光が反射し、華やかな色とりどりのドレスと軍服が優雅な波のように揺れ、会場を彩っていた。シャンパンが注がれるたびにグラスの縁が澄んだ音を奏で、上質な香水と美食の甘美な香りが、夜会にふさわしい妖艶な空気を作り上げる。 その華やかな宴の中心に、誰の目も奪う一際際立つ二つの存在があった。 ルーク・ベルシオン王──漆黒の髪と深紅の軍服が王たる威厳を放ち、その腕を取る女性は、見る者すべての息を止めるほどの美貌をたたえていた。 イザベラ・ルードイッヒ──いや、ルークにとっては、"未来の王妃"。 「諸君!」 ルークが広間の中央で一歩前に出る。その声音は朗々と響き渡り、ざわめいていた会場が一瞬にして静寂に包まれた。無数の視線が彼の手を取るイザベラへと注がれる。「今日は特別な夜だ。皆、聞いてくれ。この麗しき淑女、イザベラ・ルードイッヒこそ……私が心から愛し、未来の王妃と迎えたい女性である!」 会場に驚きの波紋が広がった。「まあ……! グランクラネルの真珠では……!」「陛下がここまでおっしゃるとは……!」「お美しい……これほどの方が王妃になられるとは、ベルシオン王国も安泰ですな!」 歓声ともため息ともつかぬ声が貴族たちの間に広がり、興奮と驚嘆が渦巻いていた。 会場の隅では、カーネシアン出身の四人の貴族たち──ウイリアム侯爵、オリボ伯爵、カッパー侯爵、ユーロ公爵が静かに見守っていた。「なるほど……陛下の本気度が伝わってきますな」 ウイリアム侯爵が低く呟く。その精悍な顔立ちに、一瞬感慨深げな色が滲む。「これは興味深い。ルードイッヒ嬢がどのように応じるか、見物ですな」 オリボ伯爵は唇の端を上げる。彼の狡猾な目が、会場の雰囲気を鋭く観察していた。「ふん、陛下らしいではないか! だが、さすがにこれだけの貴族の前で発表されたら、逃げ場はないな」 カッパー侯爵が豪快に笑う。その金髪の口ひげが
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58 王宮の夜──策謀の帳が下りる時1

 煌びやかなパーティーの喧騒を抜け出し、イザベラは静かな自室へと戻った。華やかなドレスの裾を引きながら、ようやく落ち着いた表情を見せる。「ふう……やっと解放されたわ」 柔らかな灯りがともる部屋の中で、すでに待機していたあやめとセバス(小太郎)が彼女を迎える。「ご無事で何よりです、イザベラ様」  あやめはいつもの沈着な表情で、そっと銀の盆を差し出した。その上には温かいハーブティーが湯気を立てている。「お疲れでございましょう? まずは一息つかれてください」「ありがとう、あやめ……本当に疲れたわ」  イザベラはティーカップを受け取り、ゆっくりと喉を潤した。心地よい香りが、先ほどまでの喧騒を和らげてくれるようだった。 一方、部屋の片隅に控えていたセバス(小太郎)は、いつもの冷静な表情で主を見つめていた。「お疲れ様です、お嬢様。しかし、こうして貴族たちに囲まれるのも慣れたものですね」「慣れたくもないけどね……」  イザベラは苦笑しながら、ソファに腰を下ろした。「ルークったら、あんなに堂々と『未来の王妃』なんて言うのだから……」「相変わらず押しが強い方ですね、陛下は」  あやめが目を細める。「冗談ではないわ。本気であのまま結婚まで押し切るつもりよ」「ほう……それはそれで面白い展開ですね」  セバス(小太郎)は冷静な口調で言った。「面白くないわよ。私は『条件』を達成するまでは認めるつもりはないのだから」 イザベラの言う『条件』──それは、スピネル王国の征服。「しかし、陛下は前倒ししようとしているようでしたが?」「あれは誤魔化しているだけよ。本音ではスピネル王国を攻略することの難しさを理解している。今は私の教えた通りジェームズ派とリチャード派の対立を利用しようとしているみたいだけど……」「陛下がこのまま漁夫の利を狙うとして……イザベラ様としては、スピネル王国をどう動かすおつもりですか?」「今のところ、ルークの計画を見守る
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59 王宮の夜──策謀の帳が下りる時2

 そこにセバスが静かに口を開いた。「陛下の計画をさらに確実にする方法がございます」 イザベラとあやめは興味深げにセバスを見つめた。「ネルソン・スカバル公爵とビンセント・スプラス侯爵の対立を煽り、王弟ジェームズをさらに孤立させるのです。ネルソン公爵はリチャード王の叔父として宰相の座にありますが、ジェームズ殿下を支持するビンセント侯爵とは犬猿の仲。一方で、ビンセント侯爵はジェームズ殿下の叔父という立場を利用し、宰相の座を狙っております。この二人の対立を激化させることで、スピネル王国はますます混乱するでしょう」「それなら、内乱も起きるし、スピネル王国の戦力を分断することもできる……」 イザベラの瞳が鋭く輝いた。「リチャード王に離間策を仕掛けるのはすでに陛下に教えているけれど、それをもっと早急に効果的にするということね」「仰せの通りでございます」 セバスは静かに頷く。「ルークに任せていたらいつになっても、あの国、内乱を起こさないものね。小太郎に動いてもらおうかしら」 イザベラの求めに頷きながらセバスが続けた。「加えて、オーガスト・ドレット伯爵やベンジャミン・グレン伯爵のような現実主義者がどちらの陣営につくか、見極めることが肝要かと存じます。彼らはどちらが優勢かを冷静に判断した上で動くでしょう」「つまり、彼らをうまく誘導すれば、さらに状況を有利にできる……面白いわね」 イザベラはゆっくりと微笑んだ。 そして少しだけ目を伏せる。スピネル王国の情勢は今後のベルシオン王国の未来を大きく左右する。だが、それだけではない。彼女にはまだ果たさなければならない復讐が残っている。「……ヘインズ・クラネルとカトリーヌ」 その名を口にすると、部屋の空気が少しだけ張り詰める。 グランクラネル王国第一王子、ヘインズ・クラネル。  かつての婚約者であり、イザベラを裏切り、陥れた男。 そして、カトリーヌ。  イザベラを貶め、婚約を奪い、すべてを狂わせた女。「あの
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60 リチャードの疑い

   スピネル王国の軍議の間には、沈黙が支配し、まるで嵐の前の静けさのような重苦しい緊張が漂っていた。空気は張り詰め、誰も無駄な動きをしない。緊迫感が肌にまとわりつくようだった。 巨大な戦略地図が広げられたテーブルの上には、細かく記された地図が置かれ、ベルシオン王国の地形が浮き彫りになっていた。要塞の位置、補給路、軍勢の動きが緻密に描かれ、駒は戦場に配置された兵士のように並び、冷たい光を反射している。 長椅子に腰掛けた貴族たちは、誰一人として気軽に動く者はなく、ネルソン・スカバル公爵の言葉をまるで裁定を待つ罪人のように固唾をのんで聞き入っていた。額には薄く汗が滲む者もいる。 今日の軍議は「ベルシオン王国への出兵計画」と称され、スピネル王国内の主要な貴族すべてに召集がかけられていた。しかし、それは表向きの理由。本当の狙いは、王の座を狙うジェームズと、その側近であるビンセントをおびき寄せることにあった リチャード・スピネル王は豪奢な椅子にふんぞり返り、赤ら顔を険しく歪めていた。彼の周囲にはネルソン・スカバル公爵をはじめとする重臣たちが集まり、戦略について議論を交わしていた。武骨なビンセント・スプラス侯爵の席は空のままであり、ジェームズ・スピネル公爵の姿もなかった。「……ジェームズとビンセントが来ておりませんな」 リチャードの隣で控えていたネルソン・スカバル公爵が、静かに呟いた。その顔に浮かぶのは、僅かな苛立ちと警戒心。 リチャードは鼻を鳴らし、不機嫌そうに呟いた。「病だと? ふざけおって……」 ジェームズとビンセントは、それぞれ病を理由に欠席の意を伝えてきた。だが、ネルソンに言わせれば、それはあまりに都合が良すぎる話だ。「奴らがただの病で休むとは思えませんな。こちらの意図を察し、警戒しているのでしょう」 リチャード王の口元が歪んだ。彼の短気な性格を知る者たちは、その目が怒りに燃え上がるのを見て緊張を走らせた。最初は表向きの冷静さを保っていたものの、次第に苛立ちが募っていく。彼の脳裏には、腹違いの兄の不遜な態度と、何かを企んでいるのではないかという疑念が渦巻いていた。
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61  リチャードの疑い 2 

   王都スピネル城の奥深く、軍議の間には再び重苦しい空気が漂っていた。 リチャード・スピネル王は玉座に深く腰掛け、眉間に皺を寄せながら報告を聞いていた。その隣にはネルソン・スカバル公爵が控え、机上の地図に目を落としている。「……間違いないのか?」 リチャード王の低く唸るような問いかけに、報告を行った近衛の騎士が深く頭を下げた。「はい、陛下。ジェームズ公とビンセント侯爵の軍勢が密かに集結しつつあります。公都近郊の要塞に兵を集め、武具の調達も急ピッチで進められております。明らかに戦の準備を進めているかと……」 リチャードは拳を握りしめた。「やはり……。やつら、私に刃向かう気か……!」 怒りと裏切られた憤懣が表情ににじむ。ジェームズはこれまでも不穏な動きを見せていたが、決定的な証拠を掴めずにいた。しかし、今となっては言い逃れできる状況ではない。「愚か者め……! 王たるこの私に背こうとは!」 ネルソン公爵が冷静に地図を指でなぞりながら進言した。「陛下、これ以上猶予を与えれば、やつらの軍備はさらに整うでしょう。我らが先に動かねば、反乱が本格化し手がつけられなくなります。直ちに討伐の軍を編成し、ジェームズ公とビンセント侯を叩くべきかと」 リチャードは顎髭を撫でながら考え込んだ。軍を動かせば、戦は不可避。だが、このまま放置すれば、弟に王座を奪われる可能性がある。そうなれば、今の贅沢な生活も、一国の王としての威厳も失われる。「よい。軍議を再び開く。貴族たちを招集し、ジェームズとビンセントの討伐を決定するのだ!」 玉座から立ち上がったリチャード王の声が軍議の間に響き渡った。「ネルソン、すぐに準備を進めよ!」「御意、陛下」 ネルソン公爵は静かに頷き、速やかに動き出した。 こうして、スピネル王国の内乱は決定的な局面へと進んでいく——。***  スピネル王国の王都スピネル城。軍議の間には、重苦しい空気が漂っていた。 リチャード・スピネル王は、金の装飾が施された
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62 思いがけない一日 1

 煌びやかな宮廷生活に慣れたイザベラだったが、その日は何かが違っていた。王城の窓から城下を見れば、胸の辺りがざわついた。 秘密の抜け道を使いあやめと一緒に城下に気晴らしに出かけることにしよう。「たまには城の外にでて、息抜きをしたいのよ。この気持ち、あやめにもわかるでしょう」「はい。理解いたします。お嬢様」*** 市場の通りを歩くうちに、ふと鼻をくすぐる甘く香ばしい匂いに足を止める。こんがり焼かれた焼き菓子が屋台の鉄板の上でジュウジュウと音を立て、たちまち彼女の食欲を刺激した。黄金色の表面がカリカリに焼き上がり、割れ目からとろりとした蜜が覗く。見た目だけでわかる。これは絶対に美味しい。「……あら、これは」 気品を保たねば、そう思いつつも、イザベラは気づけば銀貨を差し出し、一つ買い求めていた。 一口。 カリッとした食感の後に広がる、優しい甘さと芳ばしさ。中の餡は熱々で、とろりと舌の上に広がる。「なにこれ……! 外はカリカリ、中はとろり……! こんなに美味しいもの、貴族の晩餐会にもなかったわ!」 感嘆の声を上げると、通りを行き交う庶民たちが驚いたように足を止め、彼女を見つめていた。美しく洗練されたドレスをまとった貴族の令嬢が、屋台の菓子に夢中になっている。そんな光景を見たことがないのだろう。「……お嬢様、お行儀が……」 付き添いの侍女・あやめが、小声で忠告する。しかし、イザベラはそんなことを気にしている場合ではなかった。もう一口、もう一口と手が止まらない。 すると、屋台の店主がニヤリと笑って声をかけてきた。「お嬢さん、お口に合いましたかい? それなら、こっちの焼きリンゴもおすすめですよ」「えっ……焼きリンゴ?」 誘われるままに一つ手に取ると、シナモンの香りがふわりと立ちのぼる。かじると、しっとりと煮詰められたリンゴの甘みがじゅわっと広がり、これまた絶品だった。「ああ……これもすごく美味しい!」 イザベラの感動が伝わったのか、周囲の庶民たちがどっと笑い、次
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63 思いがけない一日 2

 賑やかな市場を歩くイザベラとあやめ。庶民の暮らしに触れた前回の訪問が思いのほか楽しかったため、イザベラは別の日に改めて市場を訪れることにした。 新鮮な果物や珍しい香辛料が並ぶ露店を見て回っていると、ひときわ華やかな衣装を着た美男子が近づいてくる。「おや、あなたのような美しい花が、この市場に咲いているとは。どこのお嬢様かな?」 男は軽く金髪をかき上げながら、余裕たっぷりの笑みを浮かべている。 イザベラは一瞬、めんどくさそうに相手を流そうとするが、男はしつこく食い下がる。「あなたほどの女性を見逃すなんて、貴族の名が廃るというものだよ」「……じゃあ、あなたは貴族なの?」 そう聞いた途端、男は得意げに胸を張る。「もちろんさ。私は伯爵家の三男、エドワード・マクシミリアン。この国の社交界ではちょっとした名士でね。もしよかったら、今度の舞踏会に招待させてもらえないかな?」 イザベラは内心で呆れながら、ちらりとあやめを見る。彼女は小声で耳打ちした。「あれはマクシミリアン伯爵家の三男、女遊びが酷くて有名な方です。貴族のご令嬢方の間でも評判が悪いとか……」 イザベラは思わずため息をつき、男の手を軽く払った。「私がどこの誰かも知らずに口説くなんて、ずいぶん軽いのね。」 エドワードは怯みながらも、なおも食い下がろうとする。しかし、その瞬間、静かながらも威圧感のある声が背後から響いた。「ほう……その“名士”とやらが、私の婚約者を口説くとはな」 振り向けば、そこには腕を組んだルーク・ベルシオン王が立っていた。冷たい笑みを浮かべた彼の姿に、エドワードの顔が見る見る青ざめる。「へ、陛下……!?」 彼は慌てて数歩後ずさり、ぎこちなく頭を下げると、逃げるように市場の人混みに消えていった。 ルークはため息をつきながらイザベラを見つめる。「……まったく、放っておくとすぐに妙な男に言い寄られるな」「私が魅力的だから仕方ないでしょう?」 軽く挑戦的な笑みを向
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64 エンピナース城攻防戦 1

 リチャード王達はジェームズ達の討伐に乗り出した。リチャード・スピネル王の軍2000、ネルソン・スカバル公爵軍1200、オーガスト・ドレット伯爵1100、ベンジャミン・グレン伯爵1100の総勢5400である。 リチャード王の軍団は、ベンジャミン軍を先頭にネルソン軍、リチャード軍と続き、オーガスト軍は一日遅れで追いつく予定であった。 ジェームズ公爵領の北部にそびえるエンピーナース城は、灰色の石壁に囲まれた堅牢な要塞であった。長年の風雪に耐えてきたその城は、戦乱の時代を生き抜いてきた証を刻んでいる。城門の前には深い堀が広がり、頑丈な跳ね橋がその入口を守っていた。城内では兵士たちが槍や弓を手入れしながら、来る戦いに備えている。秋の空は澄み渡り、紅葉した木々が城の周囲に色を添えていた。 城の城壁から南方を見渡すと、遠くに広がる平原の向こうに、リチャード軍が進軍してくる様子がうかがえた。その光景を前に、ジェームズ・スピネル公爵は静かに秋空を見上げ、呟く。「リチャードの奴、短気な奴だ! もう軍を動かしてくるとはな……」 彼の隣に立つのは、ビンセント・スプラス侯爵。茶髪の端整な顔立ちをした男で、細身ながらもどこか貴族然とした気品を漂わせている。彼は腕を組みながら肩をすくめ、鼻で笑った。「全くです。奴は臆病者故、様子を見ている余裕というものが、なかったのでしょうな。奴が動かなければこちらもまだ、動かなかったものを」 アーロン・フレミング侯爵がその言葉に同意するように頷いた。白髪交じりの黒髪を持つ彼は、厳格な顔つきに鋭い目を光らせ、戦場を見据えている。彼は痩身ながらも、持つ雰囲気はまさに老獪な戦略家といったところだった。「全くだ。軍議の時のリチャードの顔を見せてやりたかったぞ。小物感丸出しだったな」 そう言って嘲笑するのは、フランク・ミル子爵。赤毛のがっしりとした体格の男で、豪快な笑顔を見せながら陽気に笑う。彼は戦場でも屈託のない態度を崩さないが、その腕っぷしの強さは誰もが知るところである。「この戦い、楽しみになってきたぜ。リチャードの奴を叩き潰せば、俺たちの勝利も確実だ!」 その隣では、オル
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