ベルシオン王国の北方、連なる山々を超えた先にあるスピンドル平原に、三代に渡り戦国の世を生き抜いてきたスピネル王国がある。現在の国王は、初代カーター・スピネルの弟スカバル公爵家出身の母を持つリチャード・スピネルである。だが彼には、スプラス侯爵家出身の母を持つ兄ジェームズ公爵がいた。 兄弟の順逆からすれば兄ジェームズが王位を継ぐべきだという声もあったが、正妃の子であるリチャードが即位し、彼の母マリーの弟であるネルソン・スカバル公爵が宰相として権勢を振るっている。前王の突然の死により後継者の指名がないまま決定された王位継承は、血統の違い、正妃と側妃の子という差異、そして派閥の力関係が大きく影響した結果であった。 当然、王位の決定に際してはリチャード派とジェームズ派の暗闘が存在し、その勝敗によって両者の立場は大きく変化した。そして、敗北したジェームズ派の貴族たちの間では「ジェームズこそが真の後継者である」とする考えが今なお燻っている。その中心人物は、ジェームズの叔父であるビンセント・スプラス侯爵その人であった。 近年、スピネル王国はベルシオン王国に対して度重なる出兵を行っているが、戦果を上げられず、敗戦が続いている。王都カーターズポリスではリチャード王の失策に対する不満が広がり、一部では暴動の噂すら囁かれ始めていた。「ジェームズ様、ここ数年のベルシオン王国への出兵と敗戦により、王都でもリチャード王の資質に疑問を抱く声が高まっております。やはり、あの無能に王は務まりませんな」「リチャードのやつ、勝てる見込みもなく無謀な出兵を繰り返しおって……。兵を出す我らの負担が分からないらしいな。貴族たちの不満も高まろうのう! なあ、ビンセント叔父上」 王都カーターズポリスの貴族街にあるスプラス侯爵邸。その自慢の庭園の東屋で紅茶を楽しみながら談笑する二人は、周囲を気にすることなく率直な言葉を交わしていた。「まさにその通り。無謀な出兵を繰り返せば、貴族も庶民も不満が溜まるのは必定。そもそも出兵して何の成果も上げられず、貴族や兵たちに十分な補償もできないのなら、最初から派兵などすべきではないのです。無能と誹られるのも当然でしょう」「弟は昔から考え
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