Todos os capítulos de 静かな幸せは、裏切りの匂いがしたー医師・渡辺楓が選んだ、愛という名の代償ー: Capítulo 131 - Capítulo 140

166 Capítulos

第131話

 警察署を出た瞬間、楓は胸の奥に溜まっていた緊張が、ふぅっと息と一緒に抜けていくのをはっきりと感じた。  心地よい風が肌を撫で、不思議と心だけは軽くなっているようで、肩の力がようやく落ちた気がした。 隣に立つ冬真も同じだったのか、大きく息を吐き、楓の方へ振り返る。  先ほどまでの張り詰めた空気とは違い、彼の顔に浮かんだのは、安心したような柔らかな笑顔だった。「無事に済んでよかったな」「うん……ほんとにありがとう、冬真」 本当に、何度言っても足りない。  今日一日で、楓は何度「ありがとう」と口にしただろう。  それほど冬真の存在が心強かった。彼がいてくれなければ、今回の一件はもっと……もっと悪い方へ転がっていたかもしれない。 見上げると空は澄んだ青で、明るい陽光が空気を白く照らしていた。  警察署前の道路では、忙しなく人が行き交い、車が絶え間なく流れていく。  そんな日常のざわめきが、今の楓には妙にありがたく、あたたかく感じられた。「とりあえずタクシー拾おう。なんか美味いもん食べに行こう。なにがいい?」 冬真が片手を軽く上げながら言うと、楓はその手につられるようにくるりと彼の方を向き、ぱっと顔を明るくした。「何かおいしいもの!」 まるで子どもが遠足前に浮かれているような即答に、冬真は思わず吹き出した。「その“おいしいもの”が何なのかを聞いてるんだけど?」「んー……なんだろ……あ、でも今日は好きなもの食べたい気分!」「抽象的すぎるって」 他愛もないやり取りなのに、ふたりは自然と笑い合った。  重かった空気がようやく晴れ、いつもの自分たちに戻れた気がした。 楓と冬真は歩道の端へ移動し、通り過ぎるタクシーの流れを眺めながら、冬真が手を上げようとした。 ―その時だった。 冬真の視線が、ふいに楓の肩越しの方へ向かう。  さっきまで笑っていた目が、一瞬で冷たく、無表情へと変わった。 その変化に気づいた楓の胸が、ざわりと波立つ。「どうし―」 楓が振り返った先には、忘れようとしても忘れられない人物が立っていた。 ―亮。 少し離れた場所からこちらへ歩いてくる亮と、楓の視線がぶつかった。  気まずい沈黙が一瞬で落ちる。 亮も楓に気づいたのか、足を止め、苦しげに眉を寄せた。「楓……」 その声は、かつて何度も聞いた優しい響き
last updateÚltima atualização : 2026-02-09
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第132話

亮は頬に走った痛みよりも、楓の瞳に宿る強い感情に打たれたように、しばらくその場で動けなかった。  叩かれた右頬に手を当てることすら忘れ、ただ呆然と楓を見つめる。 隣にいた冬真も、一瞬言葉を失っていた。  驚きと同時に、楓がどれほどの思いを抱えていたのかを、改めて思い知らされた気がした。 楓は小刻みに肩を震わせながら、震えた声で亮を見据えた。「また……人のせいなの!?」 その声は怒鳴り声でも、泣き声でもない。  しかし抑えても抑えきれない強い感情が、言葉の端々に滲み出ていた。「亮が自分で選んだ結果が、今でしょ!?  彼女だって……あなたが応えてくれたから、こんなこと起こしたんじゃない!!」 亮は反論できず、ただ俯きかけた顔を上げることができなかった。 楓の言葉は鋭く、でもどこまでも正しかった。「だったら……最後まで彼女に寄り添うべきよ!!」 亮の目が揺れた。  言い訳も、謝罪も、すべてこの瞬間に崩れ落ちていくのがわかる。 楓はそれ以上何も言わなかった。  吐き出すべき言葉は、すべてこの一瞬に込めたからだ。 冬真は楓の横顔を見つめ、そっとその手を取るように近づいた。しかし、楓の方が先に、冬真の腕を引っ張ると、 「行こ、冬真」 と、その言葉を最後に、楓は亮に背を向け、歩き出した。  冬真は楓に腕を引かれながら、亮に鋭い視線を一度だけ向けたが、楓と一緒にその場を離れた。 亮は取り残されたまま、楓が去って行く方向を見つめることしかできなかった。  伸ばしかけた手は空中で止まり、声も喉の奥で消える。「……楓……」 かすれた声が漏れたが、もう届く距離ではなかった。 少し離れた通りまで来ても、楓はまだ冬真の腕をぎゅっと握って引っ張るように歩いていた。  冬真は楓の歩幅に合わせながら、落ち着くのを待っていた。 しばらくして、楓の呼吸が少しずつゆっくりになり、足も自然と止まった。 冬真が優しく覗き込む。「楓……大丈夫?」 楓はゆっくりと冬真を見上げた。  その瞳はまだ少し赤かったが、涙はもう浮かんでいなかった。 そして、ふっと笑った。「……ああ、スッキリした!!」 あまりにも清々しい表情に、冬真は思わず目を丸くした。「え……」 次の瞬間、冬真は声を上げて笑い出した。「楓、お前……ほんとすごいな」 だがその笑
last updateÚltima atualização : 2026-02-10
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第133話  闇に潜む“夜明け会”の正体

 亜里沙と海斗が逮捕された翌日。  警察署の一室では、二人の取り調べで明らかになった“夜明け会”の実態が、捜査本部に共有されていた。 “夜明け会”——その名前だけ聞けば、何やら健全な団体のようにも聞こえる。  しかし、その本性はまったく逆で、インターネットの影に潜む闇の集団だった。 海斗は最初こそ黙秘を続けていたものの、警察が押収したスマートフォンから“夜明け会”との詳細なやり取りが見つかると、観念したように口を開いた。「……夜明け会は、ただの掲示板荒らしとか、そんなレベルじゃない。ネット上のことなら……ほぼ何でもできる奴らなんだよ」 その第一声に、捜査員たちが眉をひそめる。 海斗が語る“夜明け会”は、表向きは存在しないはずの匿名型コミュニティだった。  しかし実態は、特定の依頼者から金を受け取り、誹謗中傷、個人情報の拡散、SNSアカウントの乗っ取り、検索結果の操作、さらにはフェイクニュースの大量生成まで行う――言わば“ハッカー集団”だった。「気に入らない奴がいると……俺は“夜明け会”に依頼して、その人間がネット上で悪く言われるように仕向けた。関係のないSNSまで荒らされて……嘘の噂が勝手に広まる。気づいたら、そいつの評判なんて地に落ちてる」 海斗はうつむきながら震える声で続けたが、その震えが罪悪感から来るのか、それとも恐怖からなのかは誰にも分からない。「……でも、本気でやばいのは、あいつらが“遊び”感覚で動いてたってところだ……」 夜明け会のメンバーは、全員が本業を持ちながら裏で暗躍していた。  昼間は会社員、学生、フリーランス――表向きはごく普通の生活。  だが夜になると、何十台もパソコンやスマホを駆使して攻撃的な書き込みや情報操作を行っていた。 その技術はまさに“サイバー犯罪”そのもので、一般人では到底同じ土俵に立てないレベルだった。「……でも、どうしてそんなやつらが、楓さんを攫う計画まで?」 捜査員が問うと、海斗の表情が歪んだ。「あれは……亜里沙の提案なんだよ。あいつらも、亜里沙が楓を恨んでることを知って……“もっと派手なことをしてやりましょうか”なんて……。ネットの嫌がらせだけじゃ飽き足らなくて……リアルにも介入し始めた」 その場にいた捜査員の背筋に冷たいものが走る。 しかし実は、警察――特にサイバー犯罪課は、以前
last updateÚltima atualização : 2026-02-10
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第134話  楓を攫った影たち

 夜明け会のメンバーが一斉に逮捕されたその日の午後。  捜査本部に新たな情報が持ち込まれた。 海斗が語った “楓を攫った実行犯” の存在――。 その正体は、世間が思い浮かべるような反社会勢力ではなかった。  むしろ真逆で、一見すると普通のサラリーマンのような、どこにでもいそうな男たちだった。 取り調べの中で海斗は苦々しい表情を浮かべながら言った。「……あいつら、別にプロじゃない。ただの……落ちぶれた元サラリーマンみたいな連中だったよ」 彼らは“夜明け会”のメンバーではないが、夜明け会が裏で斡旋していた“便利屋まがいの仕事”を専門に受ける男たちだった。 かつてはどこかの会社で働いていたが、トラブルを起こして退職した者。  ギャンブルに溺れ、家庭を失った者。  人間関係のこじれから社会から離れた者。 いわば、“人生に躓いた男たち”。 犯罪に手を染めることへの抵抗が薄くなり、日銭を稼ぐためならどんな仕事でも受けてしまう――  そんな歪んだ生活をしていた者たちだった。 今回の楓の拉致も、彼らにとっては “軽い仕事” のつもりだった。  夜明け会から提示された報酬額を聞き、深く考えずに引き受けたのだ。「場所は分かってます。もうすぐ突入できます」 サイバー犯罪課と刑事課が連携し、実行犯たちが潜伏しているアパートを割り出した。 雑居ビルの一角。  古びた外階段、薄暗い廊下、生活感のないドア。 特捜班が静かに息を潜め、タイミングを計る。「――いけ!」 一斉にドアが破られ、黒い装備の警察官たちが中へ突入した。 室内から響く怒号。  慌てふためく足音。  抵抗する声、叫び。 だが数分後には、全員が床に押さえつけられ、手錠をかけられていた。 捕まった実行犯たちの姿を見て、捜査員は誰もが思った。(……これが人を攫った犯人だと?) 彼らは反社のような威圧感もなく、顔に緊張が走れば震え、怒鳴られれば言い返すこともできない。  ただの、くたびれた男たちだった。 だが――そんな彼らですら、人の人生を脅かすには十分すぎる存在だった。 翌朝。  捜査本部に実行犯確保の知らせが入り、楓の身に対する危険はついに排除された。 桜は深く安堵し、楓もようやく肩の力を抜いた。  慎一も病院でそのニュースを聞き、誰よりも強く息を吐いた。「……
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第135話  “闇の実態”

 夜明け会のメンバー逮捕の知らせが入った翌朝。  弁護士である楓の母・桜は、県警本部の一室に呼ばれていた。  担当刑事の黒木が分厚い資料を抱えて入ってくると、桜は椅子から立ち上がって軽く会釈した。「昨日の集中逮捕で、夜明け会の中心的メンバー十七名を確保しました」「……十七名。想像していたより多いですね」「はい。ただ実際には“周辺協力者”を含めると、三十名は超えると見ています」 桜は深く息を吸い、目の前に置かれた資料を開いた。  そこには、これまでの捜査情報が時系列で整理され、さらに海斗の供述が追記されていた。 ――夜明け会の実態。  依頼を受けて動く裏稼業のネット犯罪集団。  表向きは普通の会社員や学生。  しかし深夜には、複数アカウントを操り、攻撃的な投稿を仕掛け、個人情報を盗み、炎上を起こし、検索結果を操作する。 桜は静かに目を細めた。「なるほど……これほど組織的であれば、名誉毀損だけでは済まされませんね」「ええ。そこで渡辺先生からも、法的観点で意見をうかがいたいと」 黒木が資料をめくると、そのページには“夜明け会の行為と疑われる犯罪”が列挙されていた。 桜はペンを指に挟み、迷いなく項目を指し示した。「まず、海斗さんが依頼していた“デマの拡散”“虚偽投稿”——これは 偽計業務妨害罪 が成立します」 黒木が大きく頷く。「次に、複数アカウントによる荒らし行為や攻撃的投稿。これは 威力業務妨害罪 に該当しますね」 桜は次のページを開く。「個人情報を無断で投稿したり晒したりした件。これは 個人情報保護法違反、または プライバシー侵害。民事でも強い訴訟が可能です」 刑事もメモをとりながら聞く。「そして最も重大なのは……SNSアカウントの乗っ取りです。これは 不正アクセス禁止法違反。犯罪の中でも証拠が残りやすいので、確実に立件できます」 黒木は苦い表情を浮かべた。「夜明け会は、ゆがんだ技術者集団でしたからね……」 桜は軽くページを叩く。「さらに“信用失墜を狙った”事実無根の投稿は 信用毀損罪 にあたります。  “社会的評価”ではなく“職業上の信用”を守るための条例です」「では、海斗の責任は?」「当然、彼は 教唆犯 として処罰されます。やらせた側も罪ですから」 黒木は深く息をついた。「……渡辺先生、本当に助かりま
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第136話  実行犯の素顔

 県警の会議室で実行犯確保の報告を受けた桜は、一言も発しないまま資料を凝視していた。  数分後、黒木刑事がそっと言葉を添える。「渡辺先生、もしよければ……実行犯の供述内容、共有いたしますか?」「お願いします」 桜が静かに頷くと、黒木はファイルをめくり、三名の写真が並んだページを開いた。 一人は三十代前半、くたびれたスーツ姿。  一人は四十代、無精髭の男。  そしてもう一人は二十代後半、どこか幼さの残る顔。 桜は思わず息を呑んだ。――どこにでもいそうな、ただのサラリーマン。 黒木も同じ感想を抱いたように、苦く笑った。「……驚くほど普通の男たちでしたよ。本当に、“街ですれ違っても気づかない”ぐらいの」 桜は眉をひそめ、資料をめくる。「彼らの経歴は?」「三人とも、かつては会社勤めでした。しかし……全員、人生のどこかで崩れています」 黒木は一人目のページを開き、淡々と説明する。「一人目の男は……会社の金を使い込み、懲戒解雇。その後はフリーター生活。金に困って夜明け会の“裏仕事”に関わるようになった」 桜の目が細く鋭くなる。「二人目は、ギャンブルで借金だらけ。家庭も失い、昼間はパチンコ、夜は裏仕事」 黒木は次の写真を示す。「三人目は、職場の人間関係がこじれ、引きこもるようになった青年。ネットで夜明け会と繋がり、“簡単に稼げるバイトがある”と言われて参加したそうです」 桜は資料を閉じると、静かに息を吐いた。「……誰も、最初から犯罪者ではなかったのね」「はい。ただ、そこに“夜明け会”が付け込みました。  『人ひとり拉致するだけだ』『危険はない』と……軽いノリで」 桜の手が震えた。「楓を――“人ひとり”としか思わなかったのね」 黒木は力強く頷いた。「ですが、全員確保済みです。逃げ場はありません」 その頃、警察の拘置室では、三名の実行犯がそれぞれの部屋で取り調べを受けていた。「……俺たち、本当にそんな大ごとになるなんて思ってなかったんです……」 最年少の男が、涙を堪えながら刑事に訴える。「夜明け会に“仕事”を頼まれて……金に困ってたし……軽い気持ちだったんです……」 刑事は冷ややかに言い放つ。「人ひとり拉致して“軽い”仕事? 冗談じゃない」「……すみません……すみません……」 涙を流すその姿には、反社のような強
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第137話

 桜が警察署を後にし、桐山アソシエイトの事務所で、慎一と桐山所長と作戦会議を行っていた頃、楓は冬真のマンションに居た。  大きな窓から差し込む昼下がりの光が、まだどこか緊張の残った呼吸をそっと癒すように部屋を照らしている。「冬真、仕事は? 行かなくていいの?」  楓が声をかけると、キッチンでコーヒーを淹れていた冬真が振り返る。  その表情は、ここ数日で見せたどの顔よりも穏やかで、そしてどこか決意を含んでいた。「うん。しばらく行かない」  落ち着いた声に、楓は思わず目を瞬いた。「いいの?……私が居るからなら、私、実家に帰るけど…」 それは本心だった。  楓は自分のせいで、誰かの日常が狂うのが耐えられなかった。  事件の後遺症は身体だけではなく、心の深いところにも影を残していたからだ。 だが冬真は、マグカップを置くとゆっくり近づいてきて、楓を抱き寄せた。「ダメ」 短い一言だったが、その声には揺るぎがなかった。「………冬真?」  楓は抱き返すこともできず、ただ戸惑いながら冬真を見上げる。  冬真は楓の肩に手を置き、ゆっくりと離して彼女の顔をのぞき込む。「俺の秘密の話、聞いてくれる?」 促されるようにして楓がソファに座ると、冬真は淹れたばかりのコーヒーをトレーに乗せて持ってきた。  ふわりと漂う焙煎の香りが、二人の間に落ち着いた空気を作る。「う、うん。」  楓の声はわずかに震えていた。 冬真は自分のカップのコーヒーを一口飲み、深く息を吐いて言った。「俺、今の仕事を辞めようと思っているんだ」「え!?……」  楓は思わず息を呑み、体を冬真の方へ向けた。「ナンバーワンなのに?……辞められるの?」 冬真は、からかうような、それでいてどこか寂しげな笑みを浮かべる。「引き留められるだろうけどね……でも、俺、もう28なんだよ。潮時かな。」 楓は固まった。  冬真の年齢を知らなかったことに、今さら気づいた。  聞かなくてもいいと思っていたし、立ち入る勇気もなかったのだ。「あたしなんて、もうすぐ31だよ……」  思わず自嘲気味に口にすると、冬真は笑って楓の頭を優しく撫でた。「そんなに変わんないじゃん」 その当たり前の言葉が、妙に胸にしみた。 そして冬真は軽く姿勢を整え、真剣な眼差しで楓を見た。「実は、俺の実家が不動産
last updateÚltima atualização : 2026-02-11
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第138話  真琴の怒りと、三人の再会

冬真との幸せな午後を送っているとき、楓のスマホに電話がかかって来た。 『楓!!?あんた大丈夫だったの!!!?』 真琴の大きな声が漏れてきて、楓はスマホを耳から離し、冬真も苦笑していた。 「ごめん、連絡しなくて……」 楓が恐縮して言うと、また大きな声で『そんなのいいけど、大丈夫?』と真琴が言う。 「うん……真琴…声、おっきいよ」 楓が言うと、真琴は普通のトーンに戻って『ごめん。さっき慎から聞いてびっくりして… で、今はどうしてるの?』と聞いた。 楓は冬真の方を見ながら「冬真の家にずっと居る」と小さな声で言った。 『……!? 冬真って……club Algo の冬真くん!?』と素っ頓狂な声で聞く。 楓も躊躇しながら「うん」と答えた。『冬真くんの家って……あんた、それ……! どこ!? 今どこにいるの!? 顔見せろ!』「ま、真琴……ほんと落ち着いて……」『落ち着けるかー!! 楓が無事なのはわかったけど! 顔見ないと落ち着かん!』楓はスマホを耳から少し離し、冬真を見る。 冬真は肩を震わせ笑いながら「すごい勢いだね」と目で笑った。「……真琴が会いたいって」「行こう。心配してくれてるんだから」冬真の静かな言葉に、楓は胸が温かくなる。 真琴には会わないと収まらないだろう……という諦めも半分あったが。『ほら早く! 場所送れ! 私もう出るから!』その剣幕に押されるように、楓は冬真と待ち合わせ場所を決め、真琴に送った。一時間後。 待ち合わせたカフェの前で、真琴が腕を組みながら立っていた。 見つけた瞬間、真琴は叫ぶ。「楓ーーーーっ!!」「ま、真琴っ……!」抱きつかれ、楓は後ろによろける。 冬真がさりげなく背中を支え、倒れないようにしてくれた。「生きててぇぇ……よかったぁぁぁ……」「お、大げさ……」「大げさじゃないっ!!」真琴はむぎゅぅぅとさらに抱きしめたあと、冬真に向かってペコリと頭を下げた。「冬真くん、ありがとう。本当にありがとう」「いえ。楓を守れたから、それで十分です」落ち着いた低い声が、逆に真琴のテンションを止めたのかもしれない。三人は近くの落ち着いたダイニングに入り、席についた。注文を終えると、真琴はテーブルに身を乗り出した。「で、事件って何だったの? 慎から聞いたけど……ちゃんと教えて」楓は深呼吸し、冬真の横顔を一度見てか
last updateÚltima atualização : 2026-02-11
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第139話 夜風と、二人だけの“未来”の話

店を出ると、夜風がふわりと三人の髪を揺らした。 昼間の暑さが嘘みたいに優しくて、照明の光が街路樹の葉に反射し、ささやくように揺れている。「はぁ~食べた食べた。冬真くんって意外と紳士じゃん」真琴が両手をぐっと伸ばしながら言う。 その言葉に、冬真はわずかに眉を上げた。「意外とって……」「だってホストじゃん。もっと軽いのかと」「真琴っ……!」楓が慌てて止めようとしたが、真琴は全く悪びれる様子もない。 それどころか、からかうように冬真をじっと覗き込んでいる。冬真は苦笑しつつ、少し照れたように目を伏せた。 街灯の下でまつげの影が長く落ち、ほんのわずかに照れた。「そう思われるのは仕方ないけど……楓には違うと思われたかったからね」「……冬真」その一言が胸に沁みてしまい、楓は小さく息を飲む。 恋人でもないのに、恋人以上に大切に扱われているような、その感覚がこそばゆくてたまらない。真琴は「はいはい、はいロマンチック~」と手をひらひらさせ、二人の空気をわざと乱した。 そのおかげで楓の顔の熱は少しだけ引いたが、照れは収まらない。タクシーを止める真琴が、最後に楓の肩をぎゅっと掴む。「楓、ちゃんと休みなね。冬真くん、あとは頼んだ!」「任せてください」冬真が落ち着いた声で返すと、真琴は「んじゃねー!」と勢いよくタクシーに乗り込んだ。 ドアが閉まり、車が走り去っていく。 そのテールランプが遠ざかるほど、周囲の空気がふっと静かになった。楓と冬真は並んだまま、自然に同じ方向へ歩き始める。 足音がゆっくりと歩道にリズムを刻み、夜の街が広がる。「……ごめん、真琴、うるさかったでしょ」楓が小さく言うと、冬真は首をゆっくり横に振った。「いや。良い友達だよ。楓のこと、本気で心配してるの伝わった」その声は、夜の空気と混ざるように柔らかかった。 冬真は軽く楓を見る。その視線が温度を持って、心に触れてくる。そして冬真は、楓の手の甲にそっと触れた。 触れるか触れないかの、羽のように軽いタッチ。 だけど、それが怖いほど丁寧で、慎重で、優しくて― 楓は返事ができないまま、息を呑んだ。「……楓、返事は急がなくていいって言ったけど」冬真がゆっくりと言葉を紡ぐ。「うん」自分でも驚くほど小さな声が漏れた。「今日、真琴さんと話してる楓を見て……余計に思
last updateÚltima atualização : 2026-02-11
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第140話   桐山アソシエイト会議室

一方その頃、桐山アソシエイトでは。 桐山アソシエイトの事務所にある会議室。通常は静かで、淡々とした法律事務の空気が流れているはずの場所が、この日に限って異様な緊張に包まれていた。長いガラスのテーブルには、分厚い書類の束が何十センチにも積み上がり、蛍光灯の光が白く反射している。 そこに向かい合うように座るのは三人―楓の母であり辣腕弁護士の桜、弁護士として急成長している慎一、そして事務所トップである桐山所長。普段は軽妙に笑う所長でさえ、眼鏡の奥の瞳に緊張の色を宿し、指先で訴状案の束を静かに叩いていた。 事件の大きさと、楓という“守るべき人”が明確にいるという事実が、この会議に重みを与えていた。桜がそっと訴状案を持ち上げ、ページを開いた。 その仕草は弁護士として長年鍛えられた熟練のものでありながら、どこか“母親”としての感情も滲んでいる。「まず第一に、楓の名誉を回復させること。そして、もう二度と彼女の人生を踏みにじらせない。……この訴状は、そのための武器よ」会議室の空気が、さらに引き締まった。 桜の静かな声に、決意の硬さが込められていた。楓の事件は複雑を極める。 SNS拡散、偽造画像作成、誘拐未遂、名誉毀損、業務妨害―― 絡み合う加害者の複数性、計画性、そして病院を巻き込んだ社会的影響。 刑事ではすでに検察が動いていたが、民事では楓が受けた「生活・職業・精神のすべての損害」を正確に数値化し、請求として積み上げねばならなかった。慎一が資料をめくりながら、深く、そして力強く頷いた。 睡眠不足からか頬がやつれ、目の下に薄く影が落ちている。 だが彼の瞳の奥の光は、むしろいつもより強い。「はい。刑事で立件される部分は検察に任せるとして、民事では“被害の全容”を徹底的に示します。精神的損害、休業、職業的信用の毀損……全て、数字にします」その声音には、楓を守るために一歩も引かないという意志が宿っていた。 “弁護士として”そして”楓を想う男“として―その2つの立場が、彼の背中を押しているのだ。桐山所長がゆっくりと訴状案の束に目を通し、眉を寄せる。「楓さん……いや、楓先生だからこそ、責任は重くなる。医者の信用を傷つけた罪は、通常の名誉毀損より大きな損害になる。堂々と請求していい」医師という職業。 その社会的信頼は、一般人以上の影響力を持つ。
last updateÚltima atualização : 2026-02-11
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