楓は、グラスを持つ手が少し震えているのに気づいた。酒のせいだけではない。ここにいる全員が、自分の未来を、当たり前のように考えてくれている。それが、胸に堪えた。「……私」 楓は小さく息を吸う。「一人で、やっていかなきゃって……ずっと思ってた」慎一が、静かに首を振った。「一人で戦う必要はない」真琴も、楓の肩に手を置く。「頼れるときは、頼ればいいの」冬真は、何も言わずに楓を見ていた。―選択肢を与える。 決めるのは、彼女自身。それが、冬真のやり方だった。「……ありがとう」楓は、ようやく笑った。それは、裁判に勝ったからでも、自由になったからでもない。“支えられている”と、心から感じられたからだった。夜は、まだ深い。だがこの夜は、もう、孤独な夜ではなかった。夜はまだ深く、 けれど胸の奥には、確かな温度が残っていた。Night Indigoを出た四人は、 少しだけ人通りのある大通りへ向かって歩き出した。 夜風が、火照った頬に心地よく触れる。慎一は、すっかり出来上がってしまった真琴を、 半ば抱えるようにして歩いていた。 真琴は慎一の肩に体重を預け、 「ん~……足が、言うこと聞かない……」などと呟いている。「ほら、前見て歩け」 慎一は苦笑しながらも、その腕を緩めなかった。その少し後ろを、楓と冬真が並んで歩いていた。楓は、冬真の腕にそっと寄り添い、 その存在を確かめるように歩幅を合わせている。 冬真は何も言わず、楓が自然にそうしていることを、当たり前のように受け止めていた。通りに出た瞬間、一台のタクシーが、ちょうど目の前を走ってくる。冬真は迷いなく手を上げ、タクシーを止めた。「どうぞ、お先に」そう言って、真琴と慎一をタクシーのドアへと誘導する。真琴はぼんやりとした目で楓を見て、少しだけ姿勢を正した。「楓……今日はさ……ほんとに、おめでとう」慎一も、楓の方を見て、ゆっくりと頷く。楓は微笑み、胸に残る想いをそのまま言葉にした。「今日は、本当にありがとう」作り笑いではない、穏やかな笑顔だった。二人はそれ以上、何も言わずにタクシーに乗り込む。 ドアが閉まり、窓越しに真琴が小さく手を振った。「またね」タクシーは、夜の街に溶け込むように走り去っていった。残された楓と冬真は、思わず顔を見合わせ、ふ
Última atualização : 2026-02-13 Ler mais