ちょうどその頃――。 桜と一成が微笑みながら、ワインで乾杯するその同じ夜、まったく違う場所で、別の嵐を巻き起こそうとしていた人物が居た。 都内でも屈指の高級クラブ〈BLANCHE(ブランシュ)〉。 金色のシャンデリアが光を散らし、バカラのグラスが輝く。 セレブや業界人が夜ごと通うこの店の奥VIPルームで、亜里沙はいつもより激しいペースで酒をあおっていた。 ソファに投げ出すように腰掛け、真っ赤なワイングラスを乱暴に傾ける。 濃いアイメイクの奥で、怒りに燃える瞳がギラついている。 そんな亜里沙の周りには、いつもの“取り巻き”が数人。 モデル崩れや俳優の卵、金持ちのボンボンなど、ツテを頼りに群がってくる男たちだ。「おいおい、今日のお姫様はご機嫌ナナメだってさ」 「誰かご機嫌取りしてあげてよ〜。怖くて近づけねぇわ」 ふざけ半分、媚び半分の声で、一人の若い男が亜里沙の横に滑り込む。 亜里沙は、パシッと音を立ててグラスをテーブルに置くと、吐き捨てるように言った。「……あの女! 絶対、医者を続けられなくさせてやるんだから!!」 高級クラブの空気がピリつくほどの怒気。 誰に言うでもない“呪いの言葉”に、男たちは顔を見合わせた。「え? 例の女医のこと?」 取り巻きのひとりが、ニヤつきながら言う。 「海斗がいろいろ仕込んでくれたんじゃなかったっけ? なんかヤバめの人が裏にいるとか。海斗がまた金積んだら、その女医さん、攫われるんじゃね?」「それ面白いじゃん」 別の男も、テーブル越しに身を乗り出しながら続ける。 「医者っていいよな〜。あいつ、女医なんだろ? 一回くらいオレも仲間に入れてもらえないかなぁ〜」 男は下品な笑いを浮かべ、舌で唇を舐めた。「お前、それはゲスいわ」 「最低すぎw」 他の取り巻きたちが笑いながらもあきれた表情を見せるが、その誰もが止めようとはしない。 亜里沙は――そんな会話を聞いて、ふっと口元を歪ませた。 まるで悪魔がニヤついたような、腹の底から湧く嗜虐の笑みだった。「それ……いいじゃない」 ゆっくりと言葉を落とす。 「なんなら、亜里沙がお金は出すわ」 周囲がどっと盛り上がる。「さすが〜!」 「お姫様、太っ腹!」 「それで潰しちゃおうぜ、その女医!」 クラブの煌めきが、もはや
Última atualização : 2026-02-04 Ler mais