――あのメッセージが届いてから、1週間が過ぎた。『オレ、他に好きな女ができた。』 その文字は、楓の心に深く突き刺さったまま、まだ抜けていなかった。 むしろ日が経つほど、傷は広がり、痛みは鈍い重さに変わっていく。 楓は毎朝、重い足を引きずるように病院へ向かった。 以前は早足で歩いた道。 今は、靴が地面に貼り付いたように進まない。(行かなきゃ……患者さんが待ってる) それだけが、楓を動かす僅かな力だった。 感情に任せて立ち止まることは許されない。 医者として、彼らの前で泣くわけにはいかない。 けれど、心はぼろぼろだった。 診察中、患者の言葉が耳に入らない瞬間がある。 意識がふっと途切れ、気づけば指先が震えていた。「渡辺先生、大丈夫ですか?」 看護師にそう声をかけられるのも、もう何度目だろう。 笑ってごまかすたび、胸の奥がひび割れる。(大丈夫じゃない。でも……言えない) 誰にも言えなかった。 亮と自分の関係が、こんな形で壊れたことを。 夜、マンションに戻っても、心は休まらない。 部屋に入るたび、亮の姿を探してしまう自分がいる。(あのメッセージ……本当に亮が打ったの?) 何度読み返しても、亮の声では再生されない。 亮はそんな冷たい言葉を選ぶ人ではなかった。 楓はスマホを抱きしめるようにソファへ沈み込む。 画面が暗くなるたび、すぐに触れて確かめる。 明るくして、また暗くして――その繰り返し。 夜中に目が覚めれば、真っ先に手が伸びる。 通知の光がないと分かると、胸がまた静かに沈んだ。 電話も、メッセージも、一度も返ってこない。(あの女の人の名前……“亜里沙”) 亮の名刺入れで見つけた名。 それが、楓の頭の片隅にずっとこびりついて離れない。(亮は……今、誰といるんだろう) その考えを振り払おうとすると、涙が滲んだ。 そして――一週間が過ぎた金曜日の夜。(このままじゃだめだ……) 楓は何度も深呼吸し、自分に言い聞かせた。 気持ちの整理をつける時期だと、ようやく思えたのだ。(亮の気持ちを直接、聞かなきゃいけない) 怖い。 でも、この沈黙のまま終わるのはもっと怖い。 タクシーに乗り、亮のマンションへ向かう。 窓の外を流れる街の灯りは、どれもぼやけて見えた。(亮……ちゃんと話そう。ねぇ…
最終更新日 : 2025-12-31 続きを読む