楓が救命救急センターに走って到着する前から、 大きな声 を上げて泣き叫んでいる亜里沙の姿が目に入った。 そしてその横には―― 頭から血を流し、顔面蒼白の亮が亜里沙の寝かされたベッドにもたれるように座り込んでいた。 楓が駆け寄るよりも早く、応援要請をしてくれていた速水医師が、苛立ちを隠さない声で亮に向かって叫んでいた。「あなたの方が重症ですから! とにかくあちらに座ってくださいって言ってるでしょう!!」 亮は返事も曖昧で、意識が遠のきかけているのが誰の目にも明らかだった。 だが亜里沙だけは、自分の腕に少しついた擦りキズを指さしながら、「私の方が痛いの!見てよ!亮がちゃんと庇わないから悪いんでしょ!!」と、泣きながら亮の袖を引っ張って離さない。 楓は小さく息を吐いた。(……またこのパターンね) 前にも似たような騒ぎを、この救命センターで見てきた。 だが、いちいち呆れている場合ではない。 楓は気持ちを切り替え、表情を仕事の顔へと戻した。「亮、腕貸して。歩ける?」 声を掛けると、亮はかすかに目を上げ、「あ……」とだけ答えた。 返事になっていない。 楓は亮の腕をしっかりと掴み、看護師と手際よく両側から支え上げ、診察室のベッドへと運んだ。 その瞬間―― 亜里沙が甲高い声で叫んだ。「ちょっと!!どこに連れてくの!!亮は私のそばに居てって言ったの!!」 亮は立ち上がろうとしたが、足がもつれてよろけた。 楓と看護師が支えていなければ、その場で倒れていたに違いない。「危ないから!亮は今、動かしたらダメ!」 楓が強めの声で言うと、亜里沙はぷるぷると震わせた唇で睨み返した。「なんであんたが命令すんのよ……! こいつのせいで私が怪我したんだから!」 その言葉を聞いた速水医師が、とうとう堪忍袋の緒が切れたらしい。 白衣をバッサリ翻し、鋭い声で叱責した。「黙りなさい!彼は失血して意識が飛びかけている!あなたの“すり傷”より命が危ない人がここにいるんです!」 亜里沙は「ひっ」と肩を震わせ、瞬時に黙った。 しかし視線の先では、亮が楓に支えられたまま、頭をがくりと垂れている。 ――落ちた。「亮!!」 楓と看護師は同時に声を上げ、亮をベッドへ寝かせた。 体温が急速に奪われたかのように冷たく、胸の上下も浅く、乱れている。「血圧低下
最終更新日 : 2026-01-25 続きを読む