亮の“それ”が発覚したのは、月曜の午前中、部長に呼び出された時だった。「佐々木……お前、ここの数字、説明できるか?」 会議室。 机の上には、亮が担当している宮原商事の案件資料が置かれていた。 そこには、ありえないはずの数字が並んでいた。 亮に告げられた“横領疑惑”は、単なる書類の不備ではなかった。 会社側が提示した資料には、宮原商事の取引案件――「在庫調整に伴う特別値引き契約書」が添付されており、その数字こそが問題の焦点だった。 その月、宮原商事は大型の物流倉庫の閉鎖に伴い、残った在庫商品の大量引き取りを亮の会社に依頼していた。 本来なら、商品の買い取り単価は通常の65%が相場だ。しかし―― 亮が提出した契約書では、単価が“40%の特別割引”になっていた。「……40? いや、これ完全に赤字になる数字じゃ……」 部長が怒鳴りながら机を叩いたのも無理はない。 40%という数字は、他社競合との契約でも滅多に出ない“破格”だった。 もしそのまま契約が履行されれば、会社は1,800万円以上の損失を出す計算になる。 さらに問題はそれだけに留まらない。 本来、決裁には「担当者 → 課長 → 部長 → 経理部」という四段階の承認が必要だ。 しかし亮が提出した書類には、なぜか担当者(亮)以外の印鑑が一つも押されていなかった。 未承認の状態で契約書が社外に送られ、宮原商事の倉庫担当者の間では「佐々木さんから正式に値引き承認をもらった」と話が広まっていた。 部長の怒声が飛ぶ。「こんなもん、会社に損害を与える“不正処理”以外の何に見える!」「俺……そんなつもりじゃ……」 亮の声は震えていた。――“つもりじゃない”? 亮もそう言いたかった。 だが脳裏にある夜の記憶がよぎった。 先週の金曜、亮は亜里沙から突然呼び戻された。 「いますぐ来て。今夜は取引先の会食に行くから、書類? 明日でいいでしょ?」 そう言われ、亮は予定していた書類チェックを途中で切り上げ、 データだけ急いで入力し、未承認のまま提出したのだ。 本来なら、部長と課長に印鑑をもらい、経理に送り、最終承認を待つ流れになる。 だが―― “今日中に出さないと間に合わない”と焦っていた亮は、確認用のフォルダに入れるのを忘れ、そのまま自分の電子決裁だけ押
Última atualização : 2026-01-19 Ler mais