特別病室で、明弘は仕事をしていた。ガリッ、ザクッ――乾いた音が響き、和紀が長い揚げパンに豪快にかぶりついた。明弘のタイピングする手が止まり、また動き出す。ガリッ――また一口。モグモグ、モグモグ……「……」明弘が横目で睨むと、和紀は口いっぱいの揚げパンを頬張ったまま、動きを止めて彼を見返した。両頬はハムスターのようにパンパンに膨らんでいる。明弘にとって、息子と二人きりの時間は騒がしく、どう接していいか分からない時間だった。子供の扱い方など知らない。だから、直球で言うしかなかった。「うるさい」和紀はパチクリと瞬きをし、ゆっくりと頷いた。「……気をつけます」彼は口の中でふやけた生地を、音を立てないよう慎重に咀嚼し始めた。音は消えた。だが、あの独特な油の匂いが部屋中に充満し始める。潔癖な明弘には不快極まりない匂いだ。明弘は作業を中断し、ドアの外にいる政彦を呼んで窓を開けさせ、換気させた。和紀は自分が邪魔だと悟ったようだが、揚げパンがあまりに美味しいので、少し申し訳なさそうに頭を下げた。そして、リスのように口を限界まで大きく開け、「あーん、ガブッ!」と一口で大量に詰め込んだ。明弘は眉をひそめてそれを見た。「喉に詰まらせるぞ」和紀は口の中がいっぱいで喋れず、ただひたすら首を横に振った。その時、病室のドアが開き、真由紀が入ってきた。和紀の最初の反応は、食べていた揚げパンを背中に隠すことだった。まるで木の実を守る小動物のように。真由紀はその様子を一瞥したが、構っている余裕はなかった。彼女は昨夜、一睡もしていなかった。「大谷さん、和紀を連れて外へ」政彦は動かなかった。真由紀は彼を睨んだ。「なによ。私の言うことはもう聞けないというの?」政彦はやはり動かない。彼が仕えている主君は真由紀ではない。誰のために働き、誰の命令を聞くべきか、彼は心得ていた。明弘がようやく口を開いた。「行っていいぞ」政彦は一礼し、和紀を促して部屋を出て行った。和紀は小走りで戻ってくると、机の上の飲みかけのイチゴ豆乳を大事そうに抱えて出て行った。部屋に静寂が戻り、真由紀はソファに座る明弘を見据えた。その沈着で、どこか底知れない冷徹さと傲慢さを帯びた顔つき。幼い頃、あの大勢
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