私の肩には、彼のジャケットがずっしりと重くのしかかっている。 その重みは、彼が背負っているものの重さであり、私を守ろうとする意志の質量そのものだった。 すれ違う人々が、海が割れるように道を開けていく。 誰ももう、笑っていなかった。 そこにあるのは畏怖と、そして羨望の眼差し。 ボロボロのドレスを隠し、シャツ姿の男に守られて歩く私の姿は、皮肉にも、この会場の誰よりも「特別」に見えたに違いない。 ◇ 会場を出て、冷たい夜風が頬を撫でた瞬間、私は大きく息を吐き出した。 張り詰めていた緊張の糸が切れ、膝がガクンと折れそうになる。 それを、征也の腕が強引に引き上げた。「……しっかりしろ。車までは歩け」 声はぶっきらぼうだった。 けれど、ジャケットの上から私の二の腕をさする手は、火傷しそうなほど熱く、微かに震えているようにも感じられた。「ありがとう、ございます……。あの、ドレス、ごめんなさい……あんなに高価なものだったなんて……」「気にするな。あんな布切れ、いくらでも代わりはある」 征也は前を向いたまま、吐き捨てるように言った。「だが、お前の代わりはいない。……あの女に傷をつけられなくてよかった」 心臓が、早鐘を打った。 代わりはいない。 その言葉が、胸の奥深くに突き刺さる。 嬉しい。どうしようもなく、嬉しい。 でも、同時にどす黒い疑念が頭をもたげる。(騙されちゃダメ。……これは、自分の所有物が傷つくのが嫌なだけよ) 病院で見た、彼と医師の密談。 母を人質にしているという事実。 今日のこの「騎士道精神」も、すべては私を籠の中に繋ぎ止めるためのパフォーマンスなのかもしれない。 「価値がある」と言ったのも、私個人への愛ではなく、十億円を投資した商品としての価値という意味かもしれない。
Last Updated : 2026-01-23 Read more