◇「……莉子ちゃん、顔色が真っ白だよ」 病院の正面玄関を出ると、まるで最初から私が逃げ出してくることを知っていたかのように、蒼くんの車が停まっていた。 後部座席の窓が音もなく下がり、彼が心配そうに眉を下げて私を見ている。「……見たかい?」 優しすぎる問いかけに、私は無言で頷くことしかできなかった。 喉が詰まって、声が出ない。 信じようとすがっていた柱が根元から腐り落ち、頼るものを失った虚無感だけが胸に渦巻いている。 昨夜交わしたキスの熱さが、今は冷たい鉄の鎖となって、私の唇を締め上げているようだった。 騙されていたんだ。 愛されていると錯覚して、自分から首を差し出し、檻の鍵を渡してしまっていた。「……乗るかい? 送ってあげるよ」 蒼くんがドアを開ける。 柔らかなシートと、空調の効いた快適な空間。そこは、征也の傍にある張り詰めた緊張感とは無縁の、暖かな場所に思えた。 乗り込んでしまいたかった。 このままどこか遠くへ、誰も知らない場所へ連れ去って欲しかった。 けれど、足がすくんで動かない。『俺の目の届く範囲で動け』『もし一度でも無視したら、帰国後にお前がどうなるか……わかっているな?』 征也の低い声が、呪いのように耳にこびりついて離れない。 今ここで逃げたら、母はどうなる? あそこに「人質」として残されている母は。 征也を怒らせれば、母への「支援」という名の生命維持装置は、彼の一存で切られてしまうかもしれない。「……ううん。大丈夫」 私は震える唇を噛み締め、首を横に振った。「迎えの車が……来てるから」「……そう。まだ、あの男の元へ戻るんだね」 蒼くんは悲しげに目を細めた。 けれど、その口元には、どこか怜悧な笑みが微かに滲んでいるようにも
ปรับปรุงล่าสุด : 2026-01-21 อ่านเพิ่มเติม