時計の針が、深夜二時を回った。 隣で眠る征也の寝息が、深く、一定のリズムを刻み始めたのをじっと待つ。シーツが擦れる微かな音さえ立てないよう、私は慎重に身体を滑らせてベッドを抜け出した。 冷え切ったフローリングに裸足を乗せた瞬間、足の裏から這い上がってきた冷気が、心臓をぎゅっと鷲掴みにする。 振り返り、ベッドの彼を見る。 昨夜の会食で煽ったアルコールのせいか、征也は泥のように眠っていた。無防備に投げ出された腕、枕に散らばる少し乱れた黒髪。 月明かりに浮かぶその寝顔は、かつて私がひそかに想いを寄せていた少年の頃と何も変わらないように見えて――胸の奥がちくりと痛む。 (……ごめんね、征也くん) 声に出さず、唇だけで謝る。 私は、あなたを裏切ろうとしているわけじゃない。 ただ、信じたいのだ。 蒼くんから送られてきた写真や、彼が囁いた「征也が君の家を潰した黒幕だ」という言葉が、真っ赤な嘘であることを証明したい。 そのためには、この目で確かめるしかなかった。彼が隠している「真実」を。 ガウンを羽織り、帯をきつく締める。私は自分の気配を殺し、忍び足で寝室を出た。 静まり返った廊下は、昼間の暖かさが嘘のように冷たく、どこまでも続いているように思える。 階段を降り、リビングへ向かう。 ソファのクッションの下。そこに隠しておいた封筒を、震える指先で引き抜いた。 中に入っていたのは、蒼くんから渡されたメモだ。端のほうに、小さく数字が走り書きされている。 『4410』 征也の書斎にある金庫の暗証番号だという。 なぜ蒼くんがそんなものを知っているのか。考えると怖くなるけれど、今の私には、その数字だけが唯一の手がかりだった。 封筒を握りしめ、一階の奥にある書斎へと足を向ける。 重厚なマホガニーの扉が、黒い壁のように私の前に立ちはだかった。 この部屋は、征也が「仕事の心臓部だ」と言って、使用人でさえ一歩も立ち入らせない場所。 ドアノブに手をかけ、ゆっくりと回す。 中に入ると、使い込まれた革と古びた紙、そして微かに残る征也の煙草の匂いが、鼻腔をくすぐった。 月明かりだけが頼りの、薄暗い部屋。 壁一面を埋め尽くす本棚。主人の不在を守るように鎮座する大きな執務机。 その背後にある壁に、一枚の絵画が
Last Updated : 2026-01-26 Read more