あの日から、屋敷に流れる時間は凍りついたままだった。 窓の外では、季節外れの長雨がしとしとと降り続いている。 湿った空気が隙間という隙間から入り込み、屋敷全体を覆う重苦しい沈黙を、さらに粘り気のあるものへと変えていた。 夜の七時。 ダイニングルームには、カチャリ、カチャリと、銀の食器が触れ合う乾いた音だけが響いている。 広すぎるマホガニーのテーブル。 その端と端に、私と征也は座っていた。 かつては、彼が私の隣に椅子を引き寄せ、膝が触れ合うほどの距離で食事をしていた場所だ。 けれど今は、物理的な距離以上に、果てしない断絶が二人の間に横たわっている。「……」 私は皿の上に載せられた白身魚のポワレを、フォークの先で小さく崩すことしかできなかった。 喉の奥が詰まって、固形物を受けつけない。 おそるおそる視線を上げると、テーブルの向こうに座る征也の姿が目に入った。 彼は、食事に手をつけていなかった。 手元にあるのは料理ではなく、琥珀色の液体が波々と注がれたロックグラスだ。 彼は無言でグラスを傾け、氷がカランと音を立てるたびに、強い酒を喉の奥へ流し込んでいる。 その姿は、見ていられないほど荒んでいた。 いつも完璧に整えられていた黒髪は乱れ、無精髭が顎を覆っている。 シャツのボタンは三つほど外され、露わになった鎖骨は病的なほど白い。 目の下には濃い隈が刻まれ、頬がこけている。 たった数日で、彼は別人のようにやつれてしまっていた。「……社長」 耐えきれず、私は声をかけた。 征也の手が止まる。 虚ろな瞳が、ゆっくりとこちらに向けられた。 その目には、私を射抜くような鋭さはもうなく、ただ曇った硝子玉のような虚無が広がっている。「……なんだ」 声が、酷く掠れていた。 酒焼けしたような、ざらついた響き。「少しは、食べてください。…&hellip
Last Updated : 2026-01-28 Read more