◇ バスルームに入り、鍵をかけた瞬間、私は壁に背中を預けて崩れ落ちた。鏡に映る自分の顔は、死人のように青白い。「逃げなきゃ」 本能が警鐘を鳴らしている。ここはシェルターなんかじゃない。別の、もっと恐ろしい檻だ。征也の檻は、熱くて、狭くて、息苦しかったけれど、そこには確かな体温があった。生きていくための熱があった。 でも、ここの檻は違う。冷たくて、無機質で、私の存在そのものを否定して、「理想の人形」に作り変えようとする狂気に満ちている。「……征也くん」 無意識に、首元のスカーフを解いた。露わになったのは、大粒のサファイアのネックレス。深い青色の輝きが、バスルームの白い照明の下で、鋭く光る。 彼が私につけた首輪。外そうと思えば外せるはずなのに、どうしても指が動かない。これを外してしまったら、私が私でなくなってしまう。征也との繋がりが、完全に断たれてしまう。 それだけは、絶対に嫌だった。「……隠さなきゃ」 私はネックレスを外さず、肌着の下に入れ込んだ。冷たい石が胸の谷間に触れ、ひやりとする。でも、すぐに体温で温まり、私の鼓動に合わせて脈打ち始めた。 まるで、征也が「俺はここにいる」と訴えかけているように。 シャワーを浴び、渡されたワンピースに袖を通す。やはり、きつい。胸元や腰回りが締め付けられ、息をするのも苦しい。丈も短く、膝上まで足が露出してしまう。 鏡の中の私は、無理やり子供服を着せられた大人の女のようで、滑稽で、哀れだった。「……似合わない」 自嘲気味に呟く。でも、蒼くんはこれを望んでいるのだ。無垢で、無知で、彼に従順な「莉子ちゃん」を。 バスルームを出ると、蒼くんがソファで待っていた。私を見るなり、彼の目が怪しく輝いた。「……ああ、やっぱり」 彼は立ち上がり、うっとりとした表情で私に近づいてくる。「完璧だ。……僕の思った通りだ」 彼は私の手を取り、くるりと回らせた。まるで、新しく
Last Updated : 2026-01-31 Read more