面会室の冷たい空気に、征也の吐息が白く混ざる。「地位も、名誉も、金も。すべてを失った泥水の中で、俺たちは……お前が一生かけても辿り着けない場所にいた」 アクリル板を挟んで、二つの視線が交錯する。 すべてを手に入れ、揺るぎない現実をその手で抱きしめる男の、静かで熱を帯びた瞳。 そして、すべてを奪われ、執着していた女の心すら最初から自分には向けられていなかったという事実を突きつけられた敗者の、ひび割れた瞳。 「……ぁ……あ……」 蒼の口から、言葉にならない音が漏れ始めた。 視線の先にある、白黒の不鮮明な写真。そこに写る小さな命の影が、蒼が胸の奥で大切に守り続けてきた「完璧な箱庭」の幻想を、音を立てて粉砕していく。 彼が欲しかったのは、ただ莉子の隣で微笑む未来だったはずだ。幼い頃、泥だらけになって笑い合っていた彼女を、誰よりも美しく、誰よりも純粋なまま、永遠に自分だけのものにしておきたかった。 けれど、彼が用意した無菌で冷たいショーケースの中では、彼女は決して笑わなかった。 地位も金もない泥水の中でも、この憎き男の隣でなら、彼女はあんなにも鮮やかに、息を吹き返したように笑うというのか。 「……違う、僕は……」 震える両手が、ゆっくりと持ち上がり、自らの顔を覆った。 指の隙間から、ぽろぽろと大粒の涙がこぼれ落ちる。 力で縛り付け、外の世界のすべてを奪い去れば、彼女は自分にすがるはずだと信じていた。自分の愛し方だけが正解なのだと。自分の用意した城こそが、彼女の幸せなのだと。 だが、その執着こそが、彼女を一番遠くへと追いやっていたのだ。自分自身の手で、彼女の心を永遠に殺してしまっていたことに、今更ながら気づかされた。 「僕が……僕が、莉子ちゃんを……」 パイプ椅子から滑り落ちるようにして、蒼は冷たいコンクリートの床に崩れ折れた。 暴れ狂う
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