ベッドの上の小さなテーブル。 万年筆のインクが、白い紙に吸い込まれていく。 宛名は、リストアップした十数人の社長たち。 カリカリ、カリカリ。 静かな部屋に、ペン先が紙を引っ掻く音だけが響く。『突然のお手紙、申し訳ありません。天道征也の妻、莉子と申します』 ビジネス文書のような定型文は使わない。 一人の妻として、夫の窮地を救ってほしいという、血の通った言葉を紡ぐ。『夫は、不器用な人です。自分の真意を語らず、誤解されることばかりです。ですが、彼がどれほど真剣に、皆様の会社の技術と従業員の方々を守ろうとしていたか。……それを、皆様だけは分かってくださっていると信じています』 指先が微かに震える。 彼が今、どれほど冷たい風に吹かれているかを想像するだけで、胸が痛い。『夫は決して諦めません。すべてを失ったこの狭い部屋からでも、再び立ち上がろうとしています。……どうか、彼に力を貸してください。彼を、一人で戦わせないでください』 文字が滲みそうになるのを、必死に瞬きをしてこらえる。 最後の一枚。 これは、誰よりも重要な人物への手紙だ。 私は便箋を替え、ペンを握り直した。『Cher Monsieur Bertrand,(親愛なるベルトラン様)』 流暢なフランス語で、手紙を綴り始める。 フランスの大手宝飾ブランドの重役、ベルトラン氏。 かつて、天道グループの本社で、アポなしで乗り込んできた彼を私が応接室でもてなした時のことを思い出す。 彼はあの時、私を『優秀で美しい秘書』だと褒めてくれた。 そして、征也の強引なやり方に苦笑いしながらも、確かな信頼関係を築いていたはずだ。 彼なら、今の日本の金融業界を支配する神宮寺の圧力など意に介さず、純粋なビジネスの可能性として動いてくれるかもしれない。『私の夫は、今、理不尽な悪意によって翼をもがれようとしています。ですが、彼の誇りは決して折れてはいません。……彼が再び空を飛ぶための、最初
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