「木崎の父親が勤務する中堅商社については、主要取引先を通じて過去の不正な取引処理と信用不安の資料を提示済みです。明朝九時には社内調査が開始され、木崎の父親も責任者として処分を免れない状況です。また、木崎本人の就職内定先である大手銀行の人事部へは、素行不良の事実と被害届のコピーを内容証明で送付済みです。明日の午後には、内定取り消しの検討に入る見込みです」 淡々とした、事務的な声。 陽向は息を呑んだ。 たった一日、自分が靴底をすり減らして警察や大学を駆け回り、必死に訴えてもビクともしなかった現実の壁が。 電話一本で、紙切れ一枚で、完全に崩壊していく。「大学の学生課については?」 征也の問いに、三田村は眼鏡のブリッジを中指で押し上げた。「天道グループからの次期キャンパス建設への寄付金の保留を示唆したところ、十五分前に学長から直接連絡がありました。木崎および関与したサークルメンバー数名は、明日の教授会で、停学を含む懲戒審査に入ります。関与が確認されれば、退学処分も避けられません。警察にも正式な資料を提出済みです。被害届の受理と同時に、明朝には脅迫および威力業務妨害の容疑で任意聴取が入る見込みです」「……待てよ」 陽向の声が、車内の静寂を破った。 膝の上の拳が、小刻みに震えている。「店へのネットの書き込みはどうするんだ。あいつらが捕まっても、嘘の噂が残ったままじゃ、客は戻らない!」「ご安心を、陽向様」 三田村が、感情の乗らない声で答える。「専門の対策チームが、書き込みのログと関連アカウントを押さえています。発信者情報の開示手続きと並行して、明日には関係者全員へ警告書と損害賠償請求の予告通知を送付します。請求額は、学生同士の悪ふざけでは済まされない規模になる見込みです。同時に、主要なネットメディアやグルメサイトへは、すべて事実無根の悪質な嫌がらせであったという声明を、天道グループの法務部名義で一斉配信します」 完璧な、隙のない社会的な抹殺。 暴力よりもはるかに冷酷で、逃げ道のない包囲網。 陽向は口の中がひどく乾燥していくのを感じた。
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