二人の男の視線がぶつかり合う。張り詰めた空気は、もう限界寸前だった。私の心臓は早鐘を打ち、口の中は鉄の味がした。「莉子ちゃん、こんな男の言うことを聞く必要はない。僕が……僕が守るから」 蒼くんが耳元で囁き、さらに私を自身の身体へと引き寄せる。 鼻孔をくすぐるのは、高級な石鹸の香りと、微かな汗の臭い。痛ましげに眉を下げているけれど、二の腕を掴む指には、鬱血するほどの力が込められていた。 痛い。骨が軋む。 それは慈愛なんかじゃない。誰にも渡したくないという、子供じみた所有欲だ。 その必死な様子を、征也は鼻で笑った。冷ややかな侮蔑を含んだ笑みだ。「守るだと? 口だけは達者だな。こいつの母親の命を買い取ったのは俺だぞ」 征也が最後の一段を降り、大理石の床を踏みしめる。「一億近い手術費用に、特別病棟の維持費。お前のところの銀行は、担保も持たない人間にその額を無利子で即日貸すのか? 救い出すと言いながら、結局は自分の懐からは一円も出さず、会社の金と看板でいい格好したいだけだろ」「それは……っ」 蒼くんが言葉に詰まる。図星を突かれたのか、整った顔に焦燥が浮かんだ。視線が泳ぎ、脂汗がこめかみを伝う。「莉子、そいつの手を振り払え」 征也が目前まで迫る。 鋭いミントの香りが、雨の匂いを含んだ湿った空気と混ざり合う。彼自身の高い体温が、蒼くんの清潔な匂いを塗り潰すように迫ってきた。「約束したはずだろ。二十四時間、俺に従うと。……今、お前の主人が誰なのか、ここで分からせてやろうか」 射抜くような征也の黒い瞳に見据えられ、身体の奥が熱を持って震えた。昨夜、首筋につけられた痕が、彼の低い声に呼応するようにドクンと脈打つ。 ◇「莉子ちゃん、騙されないで。そんな口約束、無効だよ……っ。僕と一緒に来れば、最高の弁護士を用意する。君のお母さんだって、もっといい病院へ転院させてあげるから」 蒼くんの声が上擦った。温厚な仮面が剥がれ落ち、その下から余裕のな
Last Updated : 2026-01-04 Read more