Lahat ng Kabanata ng 没落令嬢の家政婦契約 ~冷酷CEOは、初恋を逃さない~: Kabanata 31 - Kabanata 40

150 Kabanata

第31話 サファイアの首輪③

 周りを取り囲むダイヤモンドの煌めきさえ霞んでしまうほどの、圧倒的な輝き。 かつて月島家が栄華を極めていた頃でさえ、これほどまでの品を見たことはない。 家一軒どころか、城一つが買えてしまうのではないか――そう思わせるほどの価値が、その青い石には宿っていた。「綺麗だ……」 背後から私を包み込むようにして、征也が鏡の中の私を凝視している。 けれど、きっと、その言葉は私に向けられたものではない。 私の首を飾り、自由を奪う、彼の持ち物へと向けられたものなのだろう。 征也の大きな手が、私の鎖骨の上を滑り、冷たいサファイアを掌で包み込んだ。「よく似合っているぞ、莉子。その透けるような肌に、この青はよく映える」「……こんな恐ろしいもの、受け取れません。私には、とても……」「勘違いするな。誰が『やる』などと言った」 征也の目が、鏡越しに私を射抜いた。 低く、けれど背筋が震えるほど官能的な響きを含んだ声。「これは貸しているだけだ。家政婦の制服と同じようにな」「制服……?」「そうだ。お前が俺の持ち物であることを、誰の目にも明らかにする印だと思え」 印。 商品につけられる、値札。 征也の指が、サファイアの表面をゆっくりとなぞる。 硬質な石の滑らかさと、皮膚に触れる彼の指の熱さ。 その激しい対比に、頭の芯が痺れていく。「これは、俺たちが交わした約束の証だ。風呂に入る時も、寝る時も、絶対に外すことは許さない」 鏡の中の征也が、私の耳元に唇を寄せた。 まるで愛を囁く恋人のような近さ。けれど、告げられた言葉は、私を永遠に繋ぎ止める呪いのようだった。「……鏡をよく見ておけ、莉子。お前が誰のものかを、な」 サファイアの重みが、ずしりと鎖骨に食い込む。 それは単なる石の重さではない。 彼の歪んだ執着、独占欲、そして逃れることのできない現実の
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第32話 サファイアの首輪④

「嫌なら外してみろ。違約金をすべて払って、この部屋から出て行けばいい」 試すような響き。 そんなことができるはずがないと知っていて、私を追い詰めているのだ。 母の命も、これからの暮らしも、すべては彼の手のひらの上にある。 この首輪を外すことは、生きることを投げ出すのと同じ意味を持っていた。「……できません」「聞こえないな」「……外せません。私は……あなたの、持ち物ですから」 屈辱に視界が滲む。 けれど、それを聞いた征也の表情は、歪むほどの喜びに染まった。 彼は満足げに目を細めると、私の首筋に顔を埋めた。「んっ……!」 熱い吐息が、敏感な肌に吹きかけられる。 背筋を稲妻のような痺れが駆け抜けていった。 怖い。悔しい。 なのに、どうしてこんなにも、身体の奥が熱くなるのだろう。 彼に縛られているという事実が、彼に支配されているという証が、空っぽだった私の中身を埋めていくような、恐ろしい充足感。「いい子だ」 征也の唇が、首筋に触れた。 キスではない。獲物を味わうように、舌先で肌を這う。 昨夜つけられた赤い痕――しつこく残る印の上を、なぞるように。「ひゃ……っ、や、やめて……ください……っ」「暴れるな。鎖が擦れて傷になるぞ」 嘘だ。 彼は私が傷つくことなんて、微塵も気にしていない。 ただ、私が自分の腕の中で翻弄され、情けない声を漏らす姿を見たいだけなのだ。 征也の手が、ドレスの背中のファスナーにかけられた。 ジジジ、と布が擦れる音が、静まり返った部屋に大きく響く。「あ……っ!」「大人しくしていろ。……今日は一日、随分と気を張り詰めていたようだからな」 ファスナーが下ろさ
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第33話 サファイアの首輪⑤

 ホテルからの帰り道も、沈黙だけが続いていた。 首元の重みだけが、先ほどの出来事が夢ではないことを絶えず告げている。 冷たかったはずのサファイアは、いつの間にか私の体温を吸って生暖かくなっていた。 まるで、私の身体の一部になり代わろうとする寄生虫のように、肌に馴染んでいる。 屋敷に戻ると、深夜にもかかわらず、エントランスの明かりが煌々と灯っていた。 車寄せにリムジンが滑り込むと同時に、数名の使用人たちが駆け寄ってくる。 征也に促されて車を降りた私は、無意識に首元のネックレスを隠そうと、手が動いた。 あまりにも目立ちすぎる。 これを見れば、誰もが私と彼との関係を――単なる雇い主と家政婦ではない、もっと歪で背徳的な繋がりを察してしまうだろう。「……隠すなと言ったはずだ」 私の手首を掴み、征也が冷たく言い放つ。「それは見せるためにつけているんだ。この屋敷の人間全員に、お前が誰のものか知らしめるためにな」「そんな……恥ずかしくて、顔を上げられません……」「恥? 今さら何を言う」 征也は私の手首を離すと、顎をしゃくって屋敷の入り口を示した。「行け。お前の部屋はもう用意させてある」「え……?」 私の部屋? 通いの家政婦である私に、部屋など必要ないはずだ。 まさか、住み込みということなのだろうか。 呆然とする私の背中を、征也の手が強引に押した。「言ったはずだ。二十四時間、俺の管理下に置くと。……今日からお前はこの屋敷で暮らすんだ」「聞いてません……! お母さんを一人にするなんて、そんなことできません!」「母親の世話なら、腕利きの看護師を三人手配した。お前が下手な介護をするより、よほど快適に過ごせるだろうよ」 用意周到すぎる。 私の逃げ道を、一つずつ丁寧に、そして確実な力で潰してきているのだ。 反論しよう
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第34話 十億円の契約①

 煌々と灯るエントランスの明かりが、網膜を刺すように痛かった。 深夜の静寂に包まれた天道邸は、どこまでも広くて冷たく、足を踏み入れるたびに自分の輪郭が薄れていくような心細さに襲われる。 私の首元では、体温を吸って生暖かくなったサファイアの石が、一歩歩くごとに鎖を揺らし、鎖骨を小さく叩いた。まるで、逃げ出すことを許さない重石のようだった。「……戻ったぞ」 背後で、征也の低く抑えられた声が空気を震わせた。 彼は私を追い越してリビングへ向かう。その広い背中から漂う、冬の空気のように研ぎ澄まされたコロンと、微かな煙草の残り香、そして彼自身の熱を帯びた独特の匂い。それらが逃げ場のない室内で混じり合い、私の肺の奥まで重く沈み込んでくる。 私は、彼の傍らに置かれた従順な「所有物」として、その背中を追うしかなかった。 その時だった。 リビングのサイドボードに置いていたスマートフォンが、激しく震え、静まり返った闇を切り裂くように鳴り響いた。 こんな時間に、誰が。 嫌な予感が、冷たい指先のように背筋を這い上がっていく。胸の奥が、警鐘を鳴らすようにドクドクと不規則な拍動を刻み、喉の奥が引き攣るように乾いた。 画面に表示された名前に、私は息を呑んだ。『病院(救急外来)』 頭の中が、真っ白なノイズで埋め尽くされていく。 震える指を何度も滑らせ、ようやく通話ボタンを押した。耳に押し当てた端末の冷たい感触さえ、ひどく遠い世界の出来事のように感じられた。「……はい、月島です」「月島莉子さんですね。お母様の容態が急変しました。心臓の機能が急激に低下し、肺に水が溜まっている状態です。現在、集中治療室で懸命な処置を行っていますが……非常に厳しいと言わざるを得ません」 受話器の向こうから届く医師の淡々とした声が、逃れようのない判決のように耳の奥へ突き刺さる。「そんな……、だって、最近は体調も良くなっていたのに……」「今すぐ、こちらの病院が
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第35話 十億円の契約②

 視界がぐにゃりと歪み、立っているのがやっとだった。膝ががくがくと笑い、床に崩れ落ちそうになるのを、壁に爪を立てるようにして必死で堪える。  お母様が、いなくなってしまう。  私を愛してくれた、世界でたった一人の大切な家族。私のせいで家も名誉も奪われ、病床に伏してなお私を気遣ってくれたあの人が、ただお金がないという理由だけで、冷たいベッドの上で息を引き取ってしまう。 「……待ってください。必ず、用意します。何とかしますから。だから、お願いです、治療を止めないで……!」  なりふり構わず受話器に向かって縋る私の視線の先で、征也がソファーに深く腰掛け、足を組んでこちらをじっと見つめていた。  彼は何も言わず、ただ琥珀色の液体が満たされたグラスをゆっくりと傾けている。その瞳の奥には、私の絶望を静かに眺めるような、透き通った冷たさが宿っていた。  彼に、助けてと頼む?  いいえ、そんなことできるはずがない。彼は私を屈服させ、壊すためにここに置いているのだ。私の苦しみを見つめることでしか己を満たせない男に、母の命を救ってくれなんて、どの口が言えるのだろう。  真っ白になった思考の隙間に、一人の名前が滑り込んできた。  蒼くん。  神宮寺蒼。彼は、困ったことがあればいつでも助けると言ってくれた。彼なら、大きな財閥を背負う彼なら、この泥沼のような絶望から私を掬い上げてくれるかもしれない。  私は逃げるように通話を切り、震える指で履歴から蒼の番号を叩いた。  呼び出し音が、鼓動に合わせて永遠のように長く繰り返される。心臓が喉から飛び出しそうなほど激しく打ち鳴らされ、指先は氷のように冷たくなっていた。 『莉子ちゃん? こんな時間にどうしたの。何かあった?』  繋がった。蒼の穏やかで、包み込むような温かい声。その響きに触れた瞬間、張り詰めていた心の糸がぷつりと切れ、熱い涙が溢れ出した。 「蒼くん……助けて、お母様が、お母様が死んじゃう……っ。十億……十億円必要なの。お願い、私、何でもするから、一生かけて返すから……助けて……!」 『十億……。分かった、落ち着いて。僕の個人資産と、父に掛け合えば何とかできる。今すぐ君のところ
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第36話 十億円の契約③

 鋭い破壊音と共に画面が蜘蛛の巣状にひび割れ、蒼との繋がりが物理的に砕け散る。「何を……何をするの……っ!」 私は震える声で叫び、彼に食ってかかろうとした。けれど、征也は私の細い手首を掴み、強引に自分の方へと引き寄せた。「っ……痛い……!」「他の男に、泣きついて情けを乞うのか。それも、俺の目の前で」 彼の瞳は、激しい怒りに燃えているようにも、あるいは言葉にできないほど深い悲しみに沈んでいるようにも見えた。掴まれた腕から、彼の激しい脈動が直に伝わってくる。「だってお母様が……! お金がないと、死んじゃうの! あなたには関係ないでしょう。あなたは私を苦しめるのが目的じゃないの。それなら放っておいてよ……!」「関係ないだと」 征也の顔が近づく。鼻先が触れそうな距離で、彼の荒い呼吸が私の唇をなぞり、肌を焦がす。「お前の絶望も、お前の涙も、お前が流す血の一滴まで、すべて俺のものだ。他の誰かに、その欠片も渡すつもりはない」 彼は私を突き放すように離すと、サイドボードから一通の書類を取り出し、テーブルに叩きつけた。 そこには、これまで交わしてきた家政婦としての書類とは比べものにならないほど、重々しい気配を纏った書面があった。「……これは……何……?」「婚姻届だ」 その言葉の意味を頭が拒絶し、私は声を失った。「……結婚? あなたが、私と……?」「勘違いするな。これは救いではない。お前を永遠に閉じ込めるための、誓約だ」 征也は一本のペンを私の前に放り投げ、冷たく言い放った。「十億円。今すぐ、お前の母親の転院先と医療チームを手配してやる。この国で望みうる最高の治療を、俺の名において保証しよう。その代わり――」 彼は一歩、また一歩と私を追い詰めていく。背中
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第37話 十億円の契約④

 涙で視界がぐしゃぐしゃに滲む。顔を上げることさえできず、ただ膝をついた大理石の床を見つめていた。硬い冷たさが膝頭から伝わり、骨の髄まで染み込んでくる。 しんと静まり返った広いリビングに、みっともない嗚咽だけが吸い込まれていく。 やがて、頭上から低い声が落ちてきた。「……いいだろう。なら、法的にも俺のものになれ」 有無を言わせない響きだった。「今この瞬間から、お前のすべては俺が管理する」 顎を掴まれる。骨ばった指が容赦なく肉に食い込み、無理やり上を向かされた。 征也と目が合う。 凍えるほど冷ややかなのに、瞳の奥だけがじっとりと暗く濁っている。その熱に射すくめられ、喉がひきつった。「サインしろ」 目の前に万年筆が突きつけられる。 受け取った軸は鉛のように重く、指先の震えが止まらない。ペン先を紙に落とす。『月島 莉子』 カリ、カリ、とペンが紙を引っ掻く音が、やけに大きく響いた。 この名前を、自分の意思で書くのもこれが最後かもしれない。次に名前を書くときは、違う名前。彼の影として、彼の牢獄の中で生きるための名前になってしまう。 最後の一画を書き終え、ペンを置いた。 その直後、腕を強烈な力で引かれる。 バランスが崩れ、景色が流れたかと思うと、いきなり唇を塞がれていた。 慈しみなんてない。喰らうような、乱暴な口づけだった。 彼の舌が、私の口内を荒々しく蹂躙し、支配の証を刻みつける。 苦しくて、酸素が足りなくて、それなのに胸の奥が甘く疼く。 母を助けられるという安堵と、自らの魂を差し出したという絶望が混ざり合い、私の感覚を麻痺させていく。 首元のサファイアが、二人の身体の間で押し潰され、胸骨に硬く、鈍い痛みを与えた。「これで……お前はもう、どこへも行けない」 唇が離れた直後、耳元に熱い息がかかる。 鼓膜を震わせる低い声。逃げ場のない宣告。 鋼のような腕に閉じ込められたまま、私はただ、小さく震え続けることしかできなかった。
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第38話 雷雨の初夜①

 窓の外では、世界が壊れてしまうのではないかと思うほど激しく、叩きつけるような雨が続いていた。 時折、重く湿った空気を無理やり切り裂くようにして雷鳴が轟き、その青白い閃光がカーテンの隙間から滑り込んでは、色のない廊下を不気味なほど白々と浮かび上がらせる。 私は、自分のために用意された部屋で着替えを済ませ、薄いガウンを羽織っただけの心許ない姿で立ち尽くしていた。 つい先ほど、母の転院と手術の準備がすべて整ったという連絡が、征也の秘書から入ったばかりだ。十億円という、想像もつかないような巨額が動いたはずなのに、受話器から聞こえる声はどこまでも事務的で、一人の人間の命が、たった数枚の書類上のやり取りで繋ぎ止められたのだという事実に、私は立っていられないほどの眩暈を覚えた。 それは確かに救いだった。けれど同時に、私という人間を天道征也という男に差し出した、もう後戻りのできない証でもあった。「今夜、俺の部屋に来い」 別れ際に耳元で囁かれた、低く、抗うことを許さない響き。 その声がいつまでも鼓膜の奥にこびりついて離れず、私の心臓を冷たい指先でなぞるようにかき乱している。 震える手で、そっと自分の首筋に触れてみた。そこには、鎖の中央ではめ込まれた深い青色の石が、私の肌の熱を吸い取るようにして冷たく鎮座している。 あの日、彼から贈られたサファイア。これは私が彼の妻になったことを示す印であり、一生外すことの許されない鎖のようにも感じられた。 私は意を決して、彼の寝室へと続く重厚な扉の前に立った。 一歩踏み出すたびに、足の裏から床の冷たさが伝わり、せっかく固めたはずの覚悟を少しずつ削り取っていく。 ノックをしようとした指先は、自分でも驚くほど細かく震えていた。「……失礼します」 喉の奥から絞り出したかすれた声は、激しい雨の音にあっさりと飲み込まれてしまったようだった。 返事を待たずに、重い扉をゆっくりと押し開ける。そこには、私の部屋の何倍もある、静まり返った広大な空間が広がっていた。 部屋の明かりは落とされており、ただ一点、枕元のランプだけが柔らかな琥珀色の光を投
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第39話 雷雨の初夜②

浴室のドアが開き、立ち込める湯気の中から征也が姿を現した。 私は思わず息を呑み、足が床に縫い付けられたように動けなくなった。 彼は黒いバスローブを一枚、無造作に羽織っているだけだった。大きくはだけた胸元からは、硬く鍛えられた逞しい厚みが覗き、まだ拭いきれていない水滴が、熱を持った肌の上を艶やかに滑り落ちていく。 濡れて重たくなった髪が額に張り付き、いつも以上に彫りの深い顔立ちをどこか野性的に際立たせていた。 「……来ていたのか」 征也は、私がそこにいるのを承知していたかのように、迷いのない足取りで近づいてくる。 一歩、また一歩。 彼が近づくにつれ、立ち昇る熱気と、男としての抗いようのない重苦しい圧迫感が私を押し潰そうとする。 逃げ場を求めるように視線を泳がせたけれど、結局は、彼の鋭く光る瞳に射抜かれるようにして捕らえられてしまった。 「何をそんなに震えてる。お前が自分から望んだことだろう」 彼は私のすぐ目の前で足を止めた。 見上げるほどに高いその体躯。見下ろす瞳の中には、獲物をじわじわと追い詰めるような、暗く淀んだ情熱が揺らめいている。 「……わかって、います。私は、あなたのものだから……。今日から、それが私の役目なんだって、ちゃんと理解しています……っ」 精一杯の虚勢を言葉に乗せて答える。けれど、唇の端は震え、膝が笑って立っているのがやっとだった。 征也は、私のそんな幼い抵抗を冷たく見透かすように、長い指先を私の頬に滑らせた。 ひんやりとした指の感触が、火照りきった肌に触れ、電気のような刺激が爪先まで駆け抜ける。 「震えるなと言ったはずだ」 彼の声は低く、命令というよりは呪縛に近い響きを持っていた。 「約束を果たせ。……お前は俺の妻になったんだ。その意味を、今からその身体に叩き込んでやる」 そう言うと、彼は私の腰を強く引き寄せ、強引に唇を塞いだ。 先ほどまでの無理やりなキスとは違う。もっと深く、ねっとりと絡みつくような、私の内側をすべて彼の色で塗り替えてしまおうとするような、激しい侵食。 彼の舌が、私の口内の輪郭を一つずつ丁寧になぞるたびに、頭の中が真っ白な光に包まれていく。 鼻を突く彼の匂いが、私の本能を直接揺さぶり、かき乱す。嫌だ、怖い、そう叫んでいるはずなのに、背中を這う
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第40話 雷雨の初夜③

「あっ……!」 視界が大きく揺れ、私は反射的に彼の首に腕を回してしがみついた。 濡れた髪が私の頬に触れ、冷たい雫が胸元にこぼれ落ちる。その冷たさが、かえって彼と密着している部分の熱を異常なほどに引き立たせた。 彼は私を抱えたまま、ゆっくりとした歩調で、大きなベッドの中央へと歩を進めた。 シーツの上に降ろされると、ふわりとした感触と共に、逃げ場を塞ぐようにして彼の重みが覆い被さってきた。 もう、どこにも行けない。 背中には柔らかなマットレス、そして上からは逃れられない大きな支配者が私を押さえつける。 征也の指が、私のガウンの合わせ目に掛かった。「……月島莉子」 彼は、私の名を呼んだ。今となっては、私の旧姓である名前を。 その響きには、かつて高校の屋上で私を呼んだ時の、あどけない少年の面影がほんの少しだけ混じっているように聞こえて――私は胸の奥を、鋭い刃物でぐちゃぐちゃに掻き回されるような痛みを覚えた。「あの日、お前が俺から逃げ出した日……俺がどんな夜を過ごしたか、考えたことはあるか?」 彼の指が、ゆっくりと時間をかけるようにしてガウンの紐を解いていく。 少しずつ、外気に晒される肌が粟立ち、心臓の音が耳元までうるさく響いた。「あの時から、俺の時間は止まったままだ。俺の……不甲斐なかった俺自身への憎しみと、お前への、呪いみたいな執着だけで、俺はここまで這い上がってきた」 彼の言葉は、震えるほどの告白のようでいて、同時に残酷な死刑宣告のようでもあった。「だから、今夜からはお前がその代わりをしろ。……どんなに泣いても、絶対に許さない」 ガウンが肩から音もなく滑り落ち、私の無防備な姿が露わになる。 征也さんの瞳の色が、いっそう濃く、昏くなった。 彼は私の細い足首を掴み、自分の方へと乱暴に引き寄せる。 その手のひらは、火傷しそうなほどに熱かった。そして、掴まれた場所から、毒のように甘いしびれが血液に乗
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