彼が息をついている間に、私は素早く動いた。 デスクの上に散乱した書類。ただ無秩序に積まれているように見えるが、内容は「至急の決済」「検討案件」「報告書」に分かれているはずだ。 家政婦として、散らかった部屋から必要なものを見つけ出し、整理整頓するのはお手の物だ。 私は手際よく書類を分類し、不要なメモを捨て、彼が今まさに必要としているペンを、書きやすい位置に揃えて置いた。 さらに、部屋の隅にある加湿器のタンクが空になっているのに気づき、水を補充してスイッチを入れる。 「……何をしている」 「お仕事の邪魔になっていた『ノイズ』を片付けました。……部屋の湿度が低すぎます。これでは喉も目も乾いて、集中力が落ちてしまいます」 わずか三分。 戦場のように荒れていたデスクは理路整然と片付き、部屋の空気は潤いを取り戻した。 征也は、整理されたデスクと、私の顔を交互に見た。 「……お前、意外と使えるな」 「家政婦ですから。散らかった場所を整え、主人のコンディションを管理するのは、私の仕事です」 私が少し胸を張って答えると、征也は鼻で笑ったが、その目は笑っていなかった。感心と、微かな独占欲が混ざり合った熱い視線。 「そうか。なら、その腕前を存分に発揮しろ。……俺が仕事しやすいように、環境を整えろ」 彼がペンを取る。 さっきまでの停滞が嘘のように、ペンの走る速度が上がっていた。 役に立てた。 ほんの些細なことだけれど、私がここにいる意味を作れた気がして、胸の奥が温かくなる。 その時だった。 フロアの入り口あたりが、にわかに騒がしくなったのは。 「困ります! アポイントメントは明日のはずですが!」 「Please, let me pass! I need to speak with President Tendo immediately!」 受付の女性が、大柄な外国人男性を必死に押しとどめようとしている。 男性は顔を真っ赤にして怒鳴り散らしており、英語とフランス語が入り混じった早口でまくし立てていた。 「どうした」 ただならぬ気配を感じ取って、奥から秘書室長の男性が飛び出してくる。 「室長! フランスの提携先の……ベルトラン氏がいらっしゃったんですが、アポの日時を間違えられているようで……! 今すぐ社長に
Last Updated : 2026-01-15 Read more