ドアの向こう側から、雨音が絶え間なく聞こえてくる。 彼女はまだ、そこにいるのではないか。 雨に打たれながら、俺がもう一度ドアを開けてくれるのを、泣きながら待っているのではないか。 そう思うと、手が勝手にドアノブへと伸びそうになる。 「開けろ……開けて、抱きしめるんだ」 本能がそう叫ぶ。 俺が守らなくて誰が守るんだ。あんな薄着で、この冷たい雨の中に放り出して、風邪でも引いたらどうする。 もし今すぐドアを開けて、彼女をこの狭い部屋に引きずり込み、毛布でくるんで「悪かった」と頭を下げれば、彼女は泣きながら俺の胸に飛び込んでくるだろう。 だが、それは破滅への第一歩だ。 俺たちがこの四畳半で抱き合ったところで、明日には神宮寺が月島家を潰しにかかる。 俺にはそれを止める術がない。 彼女が家を失い、親を失い、絶望のどん底に落ちていくのを、ただ隣で慰めることしかできない、無力な男に成り下がるしかないのだ。 「……ッ、ああぁぁッ……!」 喉の奥から、声にならない咆哮が漏れた。 俺は両手で自分の髪を乱暴に掻きむしり、床に額を擦り付けるようにしてうずくまった。 情けない。 悔しい。 自分自身の無力さが、死ぬほど憎い。 雨音の隙間に、微かに足音が聞こえた気がした。 ピチャ、ピチャと、水たまりを踏む音。 それがゆっくりと遠ざかり、やがて完全に雨のノイズに溶けて消えていく。 帰ったのだ。 彼女は、俺に完全に拒絶されたと信じ込み、絶望を抱えたまま、あの大邸宅へと戻っていった。 「……ごめん」 暗闇の三和土で、誰にも聞こえない謝罪を口にする。 冷たいコンクリートの感触が、手のひらから体温を奪っていく。 彼女の涙の熱さは、もう俺の手の甲には残っていない。 ただ、彼女を傷つけたという消えない罪悪感だけが、焼き印のように俺の魂に刻み込まれていた。 ゆっくりと、顔を上げる。 裸電球の傘に溜まった埃が、薄暗い光の中で揺れている。
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