私のお腹に顔を埋め、涙を流したあの夜から、彼は確かに変わった。 過去の呪縛から解放され、感情の蓋が開いた。 しかし、その反動は、この「陽向」という絶対的な守るべき存在の誕生によって、彼を別の極端な状態へと追い込んでいるようだった。 愛しすぎるがゆえの、失うことへの異常なまでの恐怖。 かつてすべてを自分の思い通りに支配してきた男が、今、自分の思い通りにならない脆弱な命を前にして、ひざまずいている。 私は小さく息を吐き、彼の大きな右手を両手で包み込んだ。 冷たい。 春の陽気の中にいるのに、彼の指先は氷のように冷え切っていた。 「引き出しなんていらないわ」 彼のこわばった指を、一本ずつ丁寧にほぐしていく。 硬く強張った関節を撫で、血が通うように優しくさする。 「あなたが今まで何を握ってきたかなんて、関係ない。今のあなたに必要なのは、理屈や計算じゃなく、ただその腕の形を少し変えることだけよ」 「莉子……」 「大丈夫。陽向は、あなたが思っているほど弱くないわ。あなたと私の子供なんだから」 私は彼の手を引いて、ベビーベッドの縁まで引き寄せた。 彼は抵抗するように足を踏ん張ったが、最後は諦めたようにため息をつき、私の誘導に従った。 「見て。今、陽向が少し動いたでしょ」 ベッドの中の小さな身体が、モゾモゾと身を捩った。 むにゃむにゃと口を動かし、小さな拳が顔の横でかすかに揺れる。 「起きるのか?」 「ううん、夢を見てるのよ。さあ、腕を出して」 「待て。心の準備ができていない。角度は? 頭の支えはどの程度力を入れればいい? 背骨をまっすぐに保つためには……」 「うるさいな。いいから、力を抜いて。こうやって、輪っかを作るの」 私は彼の右腕を陽向の首の下へ、左腕をお尻の下へと滑り込ませるように指示した。 彼の腕の筋肉が、鉄の棒のように硬くなっているのがわかる。ニットの袖越しにも、その強張りがはっきりと伝わってくる。 「もっと力を抜いて。そんなにガチガチだと、陽向が居心地悪いでしょ。水に浮かぶ丸太を想像して」 「丸太……。いや、丸太は沈む可能性がある。それよりももっと軽い……」 「はい、持ち上げるわよ。せーの」 彼のぶつぶつというつぶやきを無視して、私は彼の腕ごと、陽向の身体をゆっくりと持ち上げた。
Last Updated : 2026-03-16 Read more