冷たい雨粒が、容赦なく頬を打ち据えていた。 肺に吸い込む空気は水気をたっぷりと含み、気管を焼くように冷たい。 濡れたアスファルトを蹴るたびに、革製のローファーがバシャリと重たい音を立て、泥水がふくらはぎへと跳ね返る。 紺色の制服のブラウスはすでに限界まで雨水を吸い込み、氷のように冷たくなって肌にぴったりと張り付いていた。 髪を固定していたスプレーはとうの昔に流れ落ち、重くなった黒髪の束が視界を遮るように顔にまとわりついている。 走っても、走っても、息が苦しいだけだった。 膝の関節が軋み、太腿の筋肉が悲鳴を上げている。 それでも、足をとめることはできなかった。 立ち止まれば、あの四畳半のアパートの光景が、強烈な色彩を持って脳裏に蘇ってくるからだ。 白熱灯の下に滑り落ちた、白いサラシ。 見えてしまった、レイの秘密。 そして、錆びたお菓子の缶から取り出された、色褪せた一枚の写真。『僕は、君の王子様にはなれないよ、ユイ』 レイの、少し困ったような、けれどすべてを見透かしたような優しい声。 その響きが、鼓膜の内側に張り付いて離れない。「……はぁっ、はぁっ……」 喉の奥から、ヒューという間抜けな呼吸音が漏れる。 限界に達した足がもつれ、水たまりの中で大きく体勢を崩した。 咄嗟に手をつこうとしたが間に合わず、膝から激しく地面に倒れ込む。 ザリッ、とアスファルトの表面がストッキングを破り、膝小僧の皮膚を削り取った。 鋭い痛みが走り、思わず顔をしかめる。 起き上がろうと手のひらを地面についたが、力が全く入らない。 擦りむいた膝から、じんわりと血が滲み、雨水に薄まってアスファルトへ流れていく。 冷たい泥水の中に四つん這いになったまま、大きく息を吐き出した。 泥だらけの両手を見つめる。 つい先日まで、三百万円のヴィンテージギターが入った革張りのハードケースを、得意げに握りしめていた手だ。 お金の力で、相手の世界を買い取
آخر تحديث : 2026-05-30 اقرأ المزيد