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All Chapters of 怖い話まとめ1: Chapter 51 - Chapter 60

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金縛り

 これは俺が体験した話。とりあえず金縛りってタイトルにしてるけど、メインはこいつじゃない。 もちろん金縛りにもあうけど。 夜中、人生3度目だか4度目の金縛りに襲われた。息が苦しくて、圧縮されてく感じがした。こんなのは初めてで、急いで助けを求めないといけないと思い、無理やり動いて父の部屋に行った。 途中、何度も何度も叫んだ。姉に殴られるかもしれないとか、そんなの気にしてられない。自分の命が危機にさらされている。 本能でそう感じていた。 父の部屋についてホッとすると、目が覚める。この表現は正しくはないんだけど、この言葉が1番近いから勘弁してほしい。 気がつくと俺は自室のベッドに寝てた。父の部屋から戻ってきたわけではない気がした。 父の部屋に行ったつもりになっていたというか。 姉が殴り込んできたり、父が心配して顔を出したりしないあたり、きっと声すら出ていなかったんだと思う。 どれくらい後だろう? 朝、えげつない倦怠感で、ベッドから出るのもやっとで、息も苦しい。なんとか1階にある台所に行って口をゆすごうとしたところで目が覚める。 実際に朝。俺はベッドの上。この前金縛りになった時と同じだ。 こんなことが何回かあった。最近は落ち着いてるけど。幽体離脱って感じではない。幽体離脱したことないけど。でもあれって自由に動き回るイメージじゃん。 あんな重苦しいものが幽体離脱だとは思えない。 話はこれで終わり。オチがなくて悪いな。
last updateLast Updated : 2025-12-21
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プライベートおじさん

 大学生の頃、ヤバいアパートにあたったことがある。 そのアパートは2階建てで、上下5部屋ずつあった。俺は204号室。つまり角部屋の隣だ。 そのアパートに引っ越してきた日、俺は荷物が少ないので午前中に荷物を運び入れることができた。家具とかは何日か前に入れてたしな。 昼頃、飯どこで食おうかな、外食ついでにどこになにあるか見てみようかなって思って、出かける準備をしてたら、隣から物音がした。そんなに大きな音でもないし、俺自身、繊細でもないから、「お隣いるんだな」くらいにしか思わなかった。 準備もできたので外に行こうと玄関に立つと、凄まじい勢いでドアが叩かれた。「な、なんだなんだ!?」「お、おお、おぉまぁええええぇっ!!! きき、き、聞いた、聞いたなああっ!」 おっさんの声だった。酔っ払ってるふうではない。シンプルキチガイ。「何を聞いたって言うんだよ。俺はなんにも聞いてねーよ!」「おれ、おれれおれおれ、俺の! 俺の音! き、きき、聞いた! 聞いただろ!」 あまりにも理不尽なので怒鳴り返すと、これまた理不尽な答えが帰ってきた。俺が聞いた物音と言えば、角部屋の隣人の物音くらいだ。こいつがそうなのか?「聞かれたくなきゃ物音立てずに生活しろ、タコ!」「んぎいいいいいいぃ!!! ぐぎいいいいいいぃぃ!!! 聞いた! おま、お前! 聞いた! お、おれのおれの声、聞いた! 俺の音、聞いた! 聞いた!」「聞かれたくなきゃ黙ってろってんだよ! 邪魔なんだよクソ野郎が!」 怒鳴り返すと、無効では奇声をあげていた。なんなんだ、このキチガイは。「ああああああああああああああああ!!!! あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」 男は叫びながら、ドアに頭を打ち付けてる。それか叩いてる。見えないけど、音は上の方から聞こえるからどっちかだ。 このキチガイがどんな顔してるのか見てやろうと思って、のぞき穴をのぞいた。 低身長で小太りのおっさんだ。赤に細い白のストライプが入ったダサい服を着ている。頭をドアに打ち付けながら、よだれ垂らして喚いてる。きたねーな。 ギョロッとしたおっさんと目が合う。おっさんはカッと目を見開くと、また怒鳴り始めた。「お前! おま、お前! み、みみみ、みぃ、見た! 見た見た! 見たなぁ! 聞くだけじゃなくて、見
last updateLast Updated : 2025-12-21
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お隣さん

 隣の家には子供が3人いた。数字が苦手だから、ちょっと分かりづらい書き方になっちゃうけど、許してね。 1番上からお兄さん(A)が私のふたつ上。真ん中の女の子(B)は私のひとつ下。末っ子の女の子(C)は私の6つ下。 あと、私には年子の兄、Dがいる。 上からA、D、私、B、C。 近所に年の近い子供がいなかったから、よく一緒に遊んでた。AとBはとっぽいし、気が強いから苦手だったけど、Cは私と同じくインドア派ということもあって、1番よく遊んでた。 この三兄弟の家――、S家にしようか。S家はうちよりもお金持ちで、ちょっとうらやましかった。 S家は人が多くて、おじいさん、おばあさん、お母さん、お父さん、そして3兄妹が住んでいた。 瓦屋根の家で、とってつけたようなベランダだった。 Aは元々あまりいい子ではなかったけど、だんだんグレていったの。悪い友達を家に集めて夜中に騒いだりしてた。綺麗なS家はいつの間にかゴミ屋敷になって、窓ガラスには何故か養生テープが貼ってある。 おじいさんやおばあさんが亡くなってお通夜とか葬式をしてるのに、悪い友達を呼んで騒いでたって、母さんから聞かされた。 お父さんも出ていって、おじいさんおばあさんが亡くなって、S家はどんどんボロボロになっていった。 和風の庭を手入れする人がいなくなって、草木がうちの敷地まで来て、虫もたくさん来て大変。 バリキャリって印象だったSお母さんは、猫背の小太りで、白髪も増えて一気に老け込んだ。前に郵便局で会ったけど、面影なんてほとんど残ってなかった。 時が経ち、Bちゃん、Cちゃんは家を出て、それぞれ家庭を築いたって噂。Aは相変わらず家にいるらしい。何をしてるのかは知らないし、知りたくもない。悪い友達も来なくなったのか、前よりはずっと静かだ。 音楽も聞こえなければ、バーベキューのにおいもしなくなって、わりと快適。 悩みがなくなってS家のことを考えなくなって3,4年くらい経った頃だったかな。夢を見た。 私もS家の3兄妹も皆子供で、S家に遊びに行く夢。 取ってつけたようなベランダからはしごが伸びて、そこからあがって、Bちゃんと遊んでたんだけど、Aが帰ってきて、怖くなって逃げる。 私はちゃんとはしごから降りれたけど、Bちゃんははしごから落ちて、動かなくなった。 上から怒鳴り声がして見上げると、Aが
last updateLast Updated : 2025-12-21
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祓いの湯

 俺は霊感はないに等しいけど、取り憑かれやすい体質らしくて、中学から同級生だったSによく祓われる。 Sは昔から霊感が強くて、その手の仕事をしている。結構有名らしくて、よく色んな人がSに相談しに行ってる。 長年いろんなのに取り憑かれたせいか、未だに見えはしないものの、なんとなく今自分に取り憑いてるっていうのは分かるようになった。 その日もそんな気がした。なんとなく全身が重いんだ。こういう時は大抵なにか憑いてる。 Sの家に行くと、Sは荷物を持って出てきた。どこかに行くような装いだ。「どこかに行くのか? その前に軽く祓ってほしいんだけど」「おぉ、また憑かれたのか。これから時間あるか?」「今日どころか、明後日まで暇だよ。有給取れって言われてさ」「じゃあちょうどいい。お前も来い」 Sは庭に出ると黒のハイエースに持っていたデカいカバンを放り込む。「どこ行くんだ?」「とりあえずお前の家だな」 助手席に乗ると、Sは俺の家まで車を走らせた。「泊まりに行くから、2日分の着替え持ってこいよ。あと、アイマスク持ってるか?」「あるけどなんで?」「とにかく持って来い」 Sはめんどくさそうに言いながら、はやく行けと手で示した。俺は家に入ると言われた通り着替えをリュックに詰め、アイマスクを持って助手席に戻った。「諸事情で場所バレると困るから、アイマスクしてろ」「不法侵入でもすんの?」「ばーか、合法だよ。いいからアイマスクしろ。運転しながら説明してやるから」 アイマスクをすると、車が動いた。「今から行くのは祓いの湯だ」「祓いの湯? なにそれ」「除霊方法には種類があってな。霊を水に、人間を器に例えると分かりやすいんだが、普通の人はお猪口くらいなんだよ。大きくて湯呑みだな」「Sは?」「デカい鍋って師匠は言ってた。霊が見えるだけのヤツはお茶碗くらい。祓えるヤツは最低でもどんぶりサイズだな。で、除霊法なんだけど、蒸発させて完全に消す方法、お前らお猪口から、自分の鍋やどんぶりに移し替える方法、お猪口をひっくり返す方法がある」「移し替えるって、自分に取り憑かせるってことか?」「少し違う。なんて言えばいいんだろうな――」 Sは少し悩んでから言葉を続けた。「水を蒸発させると、水垢が残るだろ? たぶん、それに近い。水垢を溜め込んでる、とでも言えばいいか」「
last updateLast Updated : 2025-12-21
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SLの夢

 俺がブラック企業を辞めたきっかけでもある出来事。この会社はマジでやばくて、何日も社員を拘束する。 中には3ヶ月帰れてない社員もいた。 幸か不幸か、仮眠室とシャワーはあるため、かろうじて人間の生活をしてる。といっても、仮眠室のベッドは6つしかなくて、拘束されている全員が寝られるわけじゃない。 常に7,8人は会社で寝泊まりしてて、中には寝袋や毛布を持参して、それで寝てる人もいる。 簡易ベッドを持ってきてる猛者もいたっけな。 仮眠室のベッドは、拘束時間が長い人が優遇される。2,3日や1週間程度の人はまず使えない。 1ヶ月拘束されて、ようやくベッドが使えるかどうか。 その頃、俺を含めた2ヶ月組が仮眠室を占領していた。ベッドの配置は病院の大部屋みたいな感じで、左側と右側に3つずつある。 あ、そうそう。書き忘れたけど仮眠室は男性用女性用で別に用意されてる。だから、男女合わせて12人が寝れるんだよ。 本来、その部屋には6人しかいないはずだが、ここはブラック企業なんでね。それぞれのベッドの下に寝袋で寝てるヤツ6人、簡易ベッドで寝てるヤツふたり。合計14人いた。 大人数いるせいか空気が淀むので、窓は四季問わず網戸。 シャワーを浴びてベッドに入ると、疲れ切っていた俺はすぐに眠った。いつもは夢なんて見ないのに、この日は珍しく夢を見た。 SLの中にいる夢なんだけど、運転手達がいるところにいる。運転手、つなぎの男、仮眠室で寝てるヤツ全員、仮眠室を使ってる女性社員がいた。 つなぎの男は上半分は脱いで、タンクトップを着て、頭に手ぬぐいを巻いてる。鍛え上げられた体が汗でテカっている。「燃やせ、燃えろ。どこまでも。楽園に行くには燃料が必要だ」 つなぎの男は歌いながら、でかい箱に入った石炭を、でかいシャベルを使って投入口に入れてた。「楽園に行きたきゃこっちに来い来い」 つなぎが歌うと、社員の半数くらいが並び出した。先頭に並んでるヤツは石炭が入ってる箱に入り、つなぎが箱に入ったヤツの頭をシャベルでコツンと軽く叩くと、石炭になった。 つなぎはまた石炭を入れ、石炭が少なくなると社員が箱に入って石炭にされ――。これの繰り返しだ。 石炭になる連中は恍惚とした顔で、自分の番を待っている。 俺は怖くて動けなかった。 SLが大きく揺れ、ようやく動けるようになる。他のヤツが
last updateLast Updated : 2025-12-21
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異臭の正体

 俺の爺ちゃんは霊感が強い。というか、霊媒師だかなんかをしてて、そこそこ有名な人だ。 うちは2階建ての戸建てで、庭がそこそこ広い。庭に茶室みたいなのがあって、爺ちゃんはよくそこで仕事をしてる。 入るなって言われてるし、爺ちゃんは怒ると怖いから、近寄らなかった。 そんな爺ちゃんの血を引いてるのに、俺には霊感がこれっぽっちもない。 あ、そうそう。爺ちゃんは母方の爺ちゃんなんだけど、母ちゃんと兄ちゃんは俺と違って霊感があるんだ。 だからふたりは時々助手みたいなことをしてるらしい。 あ、ちなみに父ちゃんは俺と同じく霊感ない。たぶん俺は父ちゃんの血が濃いんだろうな。 霊感ことないけど、においに敏感なんだよな。例えば、友達と河川敷で遊んでたら、生臭いにおいがしてさ。「なんか変なにおいしね?」って言っても、皆分からないって言うんだ。 そんなことが何回もある。その場でするわけないだろっていう悪臭が、俺にだけ分かる。 修学旅行に行った時は酷かった。地名とかは伏せるけど、過去に多くの死人が出たところに行ったんだ。こう書くと心霊スポットみたいだけど、そうじゃなくて、結構有名な観光スポットな。 そこの異臭がひどいのなんのって。その周辺は異様に臭くて、俺はあんまり楽しめなかった。 修学旅行から帰って、爺ちゃんにお土産を渡しながらその話をすると、「やっぱり爺ちゃんの孫だなぁ」って笑うんだ。 どういうことか聞くと、霊が見えなくても感じる人がいるらしい。それは人によりけりなんだけど、俺みたいに異臭を感じ取ったり、寒くなったり暑くなったりするんだって。「じゃあ、俺が今まで感じてた異臭は――」「ほとんどは霊だろうな」 爺ちゃんはそう言って豪快に笑いながら、俺の背中を叩いた。
last updateLast Updated : 2025-12-21
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ある作家の惨劇

 僕の妻は小説家で、何度も映像化するほど人気作家でした。サスペンスやホラー、スプラッタなどを書くことが多い彼女ですが、性格はとても穏やかで、料理上手で気配りもできるいい妻でした。 ただ、なくて七癖といいますか、妻には困った癖がありまして――。 執筆途中でつまづくと、「もう殺してえええっ!!!」と、それはもう大きな声で叫ぶんですよ。 郊外に住んでいたのですが、近くの住人に僕がDVしてるんじゃないかって噂が出たりして、大変でした。 妻の要望で、山奥に暮らすことになりました。下見をすると、家は妻が購入予定の2階建ての戸建てがひとつあるだけ。庭も広くて空気も美味しいので、僕も妻も気に入り、引っ越すことになりました。 幸い、僕は在宅ワークでしたので、山奥に行っても困ることはありません。 妻の担当編集は苦労していましたが――。 家には冷凍室があったので、休日にふたりで食材を買いに行き、冷凍室にストックしていました。業務用スーパーってカットした野菜も売ってるじゃないですか。だから車いっぱいに買い込んで、1ヶ月以上買い物に行かなくていいって感じでしたね。 お肉と魚も冷凍保存できますし。 妻がいくら叫んでも、周りの目を気にする必要もなかったので、快適でした。 僕も、音には鈍感というか、妻の絶叫は特に気にしないタイプでしたし。 その夜も、妻が執筆に行き詰まったらしく、書斎からは絶叫が聞こえてきました。「もう殺してえええっ!!!」「いやあああああああああっ!!!」「この! この凡才がぁ! 書けっ! 書くんだよぉ!」 いつも以上に荒れてるなぁと思いながら、妻の絶叫をBGMに、パソコンと向き合っていました。 翌朝、遅めの朝食を作っていたのですが、妻はなかなか顔を出しません。徹夜してまだ寝ているのだろうと思いながらも、起こしに書斎へ向かいました。 うつ伏せで寝てたら体に悪いですしね。 ノックをしても、返事はない。妻は僕より音に敏感で、ノックをしたら6割くらいの確率で起きてくるんです。 よっぽど深い眠りなんだろうなと思いながらドアを開けると、妻は白目をむいて、口から血を吐いて亡くなってました。 ショックを受けながらも駆け寄り、妻の冷たくなった体を抱き上げると、後ろから幼い笑い声が聞こえます。 振り返ると、着物を着た女の子がいました。 皆さん座敷わらし
last updateLast Updated : 2025-12-21
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成長する双子

 俺の趣味は旅なんだけど、その場所について知るには歩くのが1番だと思ってる。だから旅先ではよほどのことがない限り、交通機関は使わないようにしてる。 目的地に行くのには使うけど、それくらい。 のどかな田舎に行った時の話なんだけど、その土地に行くのに、バスを使ったんだ。宿がある町の近くにある森の中。森と言っても道路が整備されて、車もそこそこ通ってる。 それで、バス停に着いて降りる時、何かが足に当たってさ。 なんだろうって思って見たら、石が何個か転がってた。 バスに乗る時って地元民とか、その地によく行く人に声かけて色んな話を聞いたりするんだけど、さっき乗ってたバスはお年寄りが多かった。 実際、少子高齢化で過疎化が進んでるって言ってる人いたし。 俺だからよかったけど、お年寄りが気づかずに踏んで転んだら大変だと思って、石をどかした。 後ろから女の子がクスクス笑うのが聞こえて振り返ったら、いつの間にか双子の女の子がいた。色白で、綺麗な黒髪を胸のあたりまで伸ばして、おそろいの淡い水色のワンピースを着てる。 違いといえば、カチューシャの色くらいで、左側の子は赤、右側の子は黄色のカチューシャをつけていた。 年齢は5,6歳くらい。「君達がさっきの石を置いたの?」「違うよ」「違うよ」「「ねー」」 双子は顔を見合わせると、また笑い出す。バカにされてる気がして腹がたって、「ご両親は? 子供だけ?」ってキツめの口調で聞いたら、双子はきょとんとした顔をした。でもそれはほんの一瞬で、双子はまたクスクス笑い出す。「お兄さん」「可哀想」「もうすぐ」「死んじゃう」 双子は交互に言って笑うと、走り出してどこかに行ってしまった。 気味の悪い子達だと思いながら、さっさと忘れようと思い、歩き出す。 自然豊かで、虫や動物もたくさんいて、イタチやたぬきを見つける度に、写真を撮りながら歩いていた。 そろそろ宿がある町に向かおうと思い、森を抜ける道を歩いてると、また笑い声が聞こえた。 振り返るとさっきの双子がいた。どういうわけか、少し成長してる。小学3,4年生くらいに見える。「お兄さん、可哀想」「でも、仕方ないね」「怒らせちゃったから」「「ねー」」「怒らせたって何を? 君達はなんなんだ」 双子は森の中に走って消えた。 こんな感じで双子は何度か俺の背後に立っ
last updateLast Updated : 2025-12-21
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根付

 小学生の頃、クラスメイトのAが新しいキーホルダーをつけてきた。濃い紫色の紐に、動物のお面がついてるやつ。お面は白地に赤とか黒で模様とか目のふちが書かれた、日本ならではってかんじのやつで、紐と同じ色のふさふさがついてた。「そのキーホルダーかっけーな」「これはキーホルダーじゃなくて、根付っていうんだって」 Aは根付とキーホルダーの違いはよく分からないけど、親戚のおじさんからお土産でもらったって言ってた。「いいなー、俺の親戚、そんなかっけーお土産くれる人いねーもん」「へへっ、いいだろ」 その時、本当に羨ましいって思ってたし、Aも気に入ってるっぽかった。 Aが根付をもらってから3日後、俺はAと一緒に帰った。十字路に出ると、Aは左に曲がる。本来ならまっすぐ行くのに。「そっちじゃないだろ」「こっちの方がいいんだって」 まるで誰かから聞いたような口ぶりで言うと、Aはそのまま左側に行ってしまった。急いで家に帰る用事なんてないし、Aと一緒にいたかったから、俺も左に曲がって遠回りして帰った。 家に帰ると、母ちゃんが血相変えて駆け寄ってきて、苦しいくらいに俺を抱きしめた。「よかった! 無事に帰ってこれたんだね!」「痛い痛い! なんなの?」 母ちゃんは涙を拭いながら説明してくれた。さっきの十字路のちょっと先で事故が起きたんだって。 下校中の児童たちに車が突っ込んで、大変だったらしい。 母ちゃんはさっき電話で誰かからその話を聞いて、俺が巻き込まれてないか見に行こうとしてたら、俺が帰ってきて安心したって言ってた。 それからAは、時々いつもと違うことをしたがるようになった。いつも誰かから聞いたような口ぶりで、Aの言う通りにしていればひどいことにはならない。 俺はAの言う通りにしてれば、安全に過ごせると知ってからは、前よりもAにべったりになった。 親戚にSっていうヤンキーみたいな兄ちゃんがいるんだけど、学校から帰ってきたらS兄ちゃんがいた。兄ちゃんは俺を見るなり、「お前、最近変なことない?」って聞いてきた。 変なことと言われて、真っ先にAのことが浮かんだ。 Aの話をすると、会わせてほしいって言うから、一緒に公園に行った。これからAと公園で遊ぶ約束をしてたし、兄ちゃんとも遊びたかったから。「アイツだろ?」 公園に着くと、兄ちゃんはAを指さした。公園に
last updateLast Updated : 2025-12-21
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古びた日記

 僕の趣味は絵を描くことで、休みの日は色鉛筆とスケッチブックを持って、あてもなくふらふら歩き、描きたいものがあったら描いていた。 夏の夕方、散歩をしてると、広場に出た。広場には噴水とベンチがあって、憩いの場となってるけど、ここ数年の異常な暑さのせいで、日中は人が少ない。 いつもならこの時間の方が多いのに、その日は人っ子ひとりいなかった。どのベンチに座って描こうかと、噴水の周りを歩いていると、ベンチの上にノートが置いてあった。 気になって見てみると、年季の入った大学ノートで、子供っぽい丸い字で「日記帳」と書かれていた。 キラキラの立体シールが貼られているから、女の子のものだろう。 いけないことだとは思いつつも、人の日記って気になるもので、僕は周りに人がいないことを確認してから、ベンチに座って日記帳を開いた。 どうやら持ち主は小学生のようだ。学校や家であったことや、その日のおやつなんかが書かれていた。 エミちゃん(仮名)は1学年上に好きな男の子がいるようだ。日記の内容はエミちゃんの日常から、男の子のことになっている。「私達4年生の教室は2階だけど、大好きなあの人は5年生だから3階。せめて同じ階なら、もう少し近づけたのに」「せんぱいは今日も絵をかいてた。何かいてるんだろう?」「すごいすごい! せんぱいの絵が金賞だって! 1階のろうかにかざってあったから見てたけど、すごくきれいな絵だった! せんぱいって才能ある人なんだなぁ」 こんな感じで微笑ましい。次のページをめくろうとすると、友人から電話がかかってきた。「もしもし?」「よ、ヒイラギ。今暇?」「ちょっとおもしろいもの見つけたから、どちらかというと忙しい」「なんだよそれ。呑みに誘おうと思ってたのに」「その時間には空いてるから行くよ」「そん時そのおもしろいものについて聞かせろよ」「分かってるって」 電話を切った後、ページをめくった。「やっとせんぱいと同じ階になれた!」「せんぱい、大好き。大好きすぎてせんぱいのことしか考えられない」「せんぱいを少しでも近くにって思って、せんぱいのえんぴつと、私のえんぴつ交換しちゃった。気づくかな?」 徐々に狂気じみてきた日記に、背筋に汗が伝う。「せんぱいの家が分かった。赤いやねのすてきなおうち。こんなところで一緒に住めたらなぁ」「せんぱい、犬か
last updateLast Updated : 2025-12-21
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