これは会社の先輩から聞いた話。今でこそ働き方改革とか色々あって、過度な残業がなくなって働きやすいけど、俺が就職する前はとんでもないブラック企業だったらしい。 だから終電ギリギリまで働くこともあったし、終電逃してタクシーに乗るか、ネカフェに泊まるか悩んだりしてたって。 そうそう。会社の場所だけど、新宿のどこかってことにしておこう。本当はもっと別の場所にあるけど、地名がないとこの話は進めにくいし、身バレしたくないからさ。 その夜、先輩は残業で終電を逃し、タクシーで帰ることにした。先輩の家は新宿から電車で2駅のところにある。 疲れ切った先輩は、行き先を告げると、そのまま眠ってしまったらしい。 久しぶりによく寝たと思って起きたら、外は明るくなっていた。おかしいと思って外に出ると、のどかな田園が広がる見知らぬ土地で、困惑した。 予想外の出来事に眠気が覚め、ひとつ、おかしいことに気づいた。 なんで自分はタクシーから出られたんだ? 普通、タクシーって運転手がロックしたりするから、乗客が勝手に開けたりなんて出来ないことに気づいた先輩は、ドアを開けたまま、後部座席に座って運転席を見た。 運転手はいなかった。 眠気が限界まできてたから、運転手の顔や名前なんて確認してない。というか、確認したことなんてない。 もう一度タクシーから出て腰を抜かした。 どこからどう見ても、廃車だった。車体は錆びて、タイヤもパンクしてる。フロントガラスにはヒビが入ってる。 携帯は充電切れだし、場所も分からなくて途方にくれてると、軽トラに乗ったおじさんが先輩に声をかける。「兄ちゃん、ブラック企業に働いてるだろ?」「え?」 先輩は気味が悪くなって逃げ出したかったけど、頼れる人もいないから、そのおじさんと話をしてみることにしたそうな。 どうして自分がブラック企業で働いているのか聞いたら、おじさんは以下のことを話してくれた。 昔、この町出身の若者が都会に行って、タクシー運転手として働いていた。田舎出身の彼は、ブラック企業なんて本当に存在してると思わなくて、真夜中に疲れて乗車するお客さん達を見て、心を痛めた。 真夜中、新宿でお客さんを拾った。そのお客さんもブラック企業で働いていて、生気のない顔をしていたという。 お客さんに行き先を告げると、「のどかな田舎でゆっくりしたい」と泣き
Last Updated : 2025-12-21 Read more