All Chapters of 異世界に子供の姿で転生し初期設定でチートを手に入れて2: Chapter 51 - Chapter 60

90 Chapters

51話 賑やかなバスタイム

 少し離れた場所には、魔石の加工や武器の作成、魔術の研究に没頭するための作業場も独立して建てた。火や音を気にせず作業に打ち込める、俺だけの聖域だ。 完成した、ただのテントだった場所の拠点を目にした仲間たちが、次々と声を弾ませながら駆け寄ってくる。「新しくなっているのです! 一番乗りなのです!」 アリアが真っ先に飛び込み、ピカピカのフローリングの感触を確かめるようにパタパタと走り回った。「良い感じだねー♪ わぁーい、ひろーい♪」 エルも柔らかな足取りで後に続き、広くなった空間を存分に楽しんでいる。「……テントじゃなくなっていますね。こんな立派な建物、いつの間に……」 リナは信じられないものを見るように、壁や柱をそっと撫でて驚きを隠せない様子だった。「お風呂に入ってくるのです! わぁーい、こっちも一番乗りなのです!」 アリアは新しい風呂場の扉を見つけるなり、弾けるような笑顔で服を脱ぎ捨てんばかりの勢いで突撃していった。「わたしも、お風呂に入ってくるー!」 エルもふわりと宙を舞うような軽やかさで、楽しげにその後に続く。「あの……お風呂というのは、はじめてです。どんな感じなのでしょうか?」 リナが少し不安げに、けれど興味津々といった様子で立ち尽くしていると、後ろからティナが優しく彼女の背中を押した。「私もお風呂入ってきますね。リナ、とっても気持ちいいから一緒に行きましょう。疲れが全部溶けていくみたいになりますよ」 ティナに誘われ、リナもおずおずと風呂場へと向かっていった。脱衣所の方から聞こえてくる、女の子たちの賑やかな笑い声と水が跳ねる音。俺はリビングのソファに深く腰掛け、暖炉に火を灯した。ドラゴンが守る森の中、温かな我が家の完成。これこそが、俺の求めていた「静かな暮らし」の第一歩だった。 ようやく太陽が山脈の向こうへと隠れ、辺りに濃い藍色の帳が降りる頃、森のパトロールと訓練に出ていた二人が帰ってきた。 レナは肩を落と
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52話 内緒の寄り道

 仕組みは説明できても、それをどう運用すれば効率的かまでは分からない。「どうやったら、いっぱい捕れるかは自分で調べて研究して工夫してね。ボクに教えられるのは、その仕掛けの形くらいだから」 申し訳なさを感じつつそう伝えると、リナは少しだけ残念そうに、けれど納得したように頷いた。「わかりました。……研究ですね。……研究……はい、頑張ってみます!」 リナはそう言うと、地面にしゃがみ込み、枯れ枝や石ころを使って何やら真剣な表情で図解を描き始めた。その横では、アリアの放った小さな火球が「ぽふん」と可愛らしい音を立てて消え、エルが楽しそうに拍手している。 (平和だな……) 俺は作業場の軒先に腰を下ろし、自分たちの道を切り開こうとする彼女たちの背中を、心地よい日差しの中で見守っていた。 新緑の香りが漂う広場で、リナが熱心に図面を描く姿を眺めながら、ふと思った。あんなに楽しそうに罠を研究しているのなら、その道を極めて暮らしていくのもありかもしれない。 だとしたら、杖を振って魔法を放つよりも、獲物を仕留めたり細かな細工をしたりするために、剣やナイフの扱いを覚える方が実用的だろう。俺は彼女の隣に歩み寄り、声をかけてみた。「リナは魔法より、剣やナイフの技術を磨いた方が良いかもよ。狩りをするなら役に立つと思うし」 リナは顔を上げ、少し驚いたように瞬きをしたが、すぐにその瞳に強い決意の光が宿った。「ナイフの使い方を覚えたいです。戦い方とか……あと、獲物の解体の仕方も……」 やっぱり、そうなのか。控えめな彼女が自ら望む道。そのうち、この森一番のトラップのプロになれるかもしれない。「後でレナにナイフの使い方を習うと良いよ。それと、解体ならステフに習うと良いよ。二人ともその道のスペシャリストだからね」「はい。みんなのお肉の為に、精一杯頑張ります!」 リナは拳を握り、やる気に満ちた表情で答えた
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53話 四つん這いの猪視点

 俺はさらに、予備の収納袋と、扱いやすいように調整した罠のセットを五個、リナに手渡した。「これで罠を、自分で仕掛けて練習してみて」 リナは思いがけないプレゼントに目を輝かせ、重みのある袋を大切そうに抱えた。「え!? わぁ……ありがとうございます。うれしいです!」「自分が動物になったつもりで、何処に何をしに行くのかを考えて、その通り道に仕掛けるのが良いよ」 俺がコツを教えると、リナは「自分が動物になったつもりで……うん。うん」と、真剣な表情で何度も頷いた。どうやら、頭の中で一生懸命に動物たちの視点をシミュレートしているらしい。「よし、これから一緒に仕掛けに行こうか!」「はい!」 弾んだ声で返事をする彼女に、俺は少し意地悪く、けれど期待を込めて告げた。「リナが先頭で、ボクがあとを付いていくよ」「え、あ。はい。……がんばります」 リナは緊張した面持ちで前を向き、ゆっくりと歩き出した。赤いツインテールが、彼女の歩調に合わせて小刻みに揺れる。その後ろを付いていくと、彼女は時折立ち止まっては茂みを覗き込み、「動物になったつもりで……」と小さな声でブツブツと呟き続けている。 やがて、少し開けた場所でリナがピタリと足を止めた。「ここは、どうでしょうか? 動物が歩いてる道っぽいです」 彼女が指差した場所は、確かに草が踏み固められ、通り道のようになっていた。だが、そこはあからさまな……。「リナさん、そこに仕掛けると、人も掛かっちゃうよ?」 そう。確かに獣道ではあるのだが、同時に人間もよく通る道だった。「あ、そうですね……」 リナはハッとしたように頬を赤く染め、慌てて視線を泳がせた。動物の気持ちになりすぎて、周りに人間がいることをすっかり忘れてしまったらしい。そのギャップがなんとも微笑ましくて、俺は思わず小さく吹き出してしまった。
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54話 不意の柔らかな追突事故

 そんな「探索」を繰り返し、無事に五箇所の設置を終えた頃には、森の木々が長い影を落とし始めていた。俺は仕上げに探索魔法を使い、罠を仕掛けた場所と帰り道を地図として記憶に刻み込む。 気が付くと、空は茜色から濃い藍色へと溶け始め、夜の静寂が忍び寄っていた。「もう暗くなり始めてきたね。今日は転移でパッと帰ろうか」 俺がリナの肩に手を置くと、彼女は少し名残惜しそうにしながらも、充実感に満ちた笑顔を浮かべた。魔法の光が二人を包み込み、一瞬の浮遊感の後、視界は新築した拠点の温かなリビングへと切り替わった。「夜遅くまで、二人で何をしていたんですか?」 リビングに足を踏み入れた途端、ティナの低く冷ややかな声が鼓膜を打った。彼女は壁に背を預け、腕を組んだまま、じろりと鋭い視線をこちらに向けている。その瞳は、まさに獲物を狙う鷹のように据わっていた。「リナに、罠の仕掛け方を教えていただけなんだけど」 俺が努めて平静を装いながら答えると、ティナの視線は俺を通り越し、その後ろで土汚れをつけたまま立ち尽くすリナへと注がれた。「ふうん……そうですか」 言葉の温度は氷点下に近い。ティナは鼻を鳴らすように溜息をつき、露骨に不機嫌そうなオーラを纏って背を向けた。リビングの空気が一気に重くなり、暖炉の火さえも彼女の威圧感に縮み上がっているように見える。 リナはというと、四つん這いで森を駆け回っていたせいで、髪には枯れ葉が混じり、服のあちこちに泥がついている。その「いかにも何かありました」と言わんばかりの乱れた格好が、余計にティナの疑惑(あるいは嫉妬)に火をつけてしまったらしい。(……これは、相当にご立腹だな) ティナの背中からは「自分を差し置いて、二人っきりで暗くなるまで何をしていたのか」という無言の追及がひしひしと伝わってくる。リナはリナで、ティナの気迫に押されて「あ、あの……」と口を震わせながら、助けを求めるように俺の服の裾をぎゅっと掴んできた。 今夜の夕食は、いつもより少し静かな、そしてピリついた時間にな
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55話 最強の番犬の最古のドラゴン

「……もう。そらさんの、意地悪……です」 リナは潤んだ瞳で少しだけ唇を尖らせると、気を取り直すように目の前の茂みへと向き直った。そこには、昨日彼女が仕掛けた最初の罠があった。「あ、そらさん! 獲物が掛かっています!」 リナが歓喜の声を上げ、先ほどのハプニングなど忘れてしまったかのように獲物へと駆け寄った。(あれ? 思ったよりも気にしてなかった……。良かった……) 俺は安堵の溜息を漏らす。だが、鼻先に残るあの驚くほどの柔らかさと、吸い付くような感触は、今もなお鮮明に脳裏に焼き付いていた。 (リナのお尻、あんなに柔らかかったんだな……) いけない想像を振り払うように頭を振って、俺も彼女の隣へと歩み寄った。「ホントだ。狙いどおり猪だね! よかった、おめでとう」「はい! 猪さんの気持ちになって、ここだって決めたんです!」 リナは誇らしげに胸を張り、眩しい笑顔を向けた。その後も順調に見回りを続け、全五箇所のうち、さらに二箇所で立派な獲物を仕留めることができた。残りの二箇所は空振りだったが、初めて自分で場所を選んだにしては十分すぎる戦果だ。 仕留めた獲物を収納袋に詰め込み、俺たちは一息ついた。「罠の方は、もうこれで問題ないよね。これからは一人でも見回りに来られるように、もっと短剣を使えるようになっておこうか」 これ以上、後ろから彼女の白い下着を眺めながら歩くのは、俺の理性にとっても良くない。自立を促す意味でも、一人で任せてみる時期だろう。「え……は、はぃ……」 リナは少しだけ寂しそうな、あるいは不安そうな声を漏らし、伏せ目がちに短剣の柄に手をやった。彼女にしてみれば、俺との「二人の秘密の時間」が減ってしまうのが惜しいのかもしれない。「大丈夫だよ。途中で何かあっても、魔法通信を教えるからね。連絡をしてもらえれば、すぐに駆けつけるか
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56話 ミスリルの輝きと、至高の料理人

 俺はドラボスの元を離れ、魔法の訓練に励んでいるティナたちの元へと向かった。広場では、色とりどりの魔力の光が弾け、エルとアリアが楽しそうに、けれど真剣に杖を振るっている。その様子を、ティナが凛とした佇まいで見守っていた。「ティナ、順調にやってる?」 俺が声をかけると、ティナはふわりと振り返り、どこか誇らしげな笑みを浮かべた。「はい。皆、驚くほど順調に上達していますよ。魔力の制御も随分と安定してきましたし、やる気も十分ですよ」「それは良かった。エル、アリア、頑張ってね」 俺が二人にエールを送ると、魔法の練習に夢中になっていた少女たちが、弾けるような笑顔で応えてくれた。「はぁーい♪」 エルの伸びやかな声と、アリアの元気いっぱいの返事が重なる。二人の瞳には、魔法を操ることへの純粋な喜びが溢れていて、見ているこちらまで心が温まるようだ。「ティナも、エルとアリアに負けないように修行を頑張ってね」 少しからかうように言うと、ティナは腰に手を当て、自信満々に胸を張った。「ふふ、まだまだ。あの子たちに追い抜かれるほど、私は甘くありませんよ!」 その頼もしい言葉に、俺は思わず笑みがこぼれた。仲間に教えながらも、彼女自身がさらなる高みを目指しているのが伝わってくる。「あはは。じゃあ、後は任せたよ」 俺はティナの背中を軽く叩き、再び魔法の火花が舞い始めた広場を後にした。それぞれの場所で、それぞれが強くなろうとしている。そんな日常が、今は何よりも愛おしく感じられた。 俺は転移の魔法を使い、我が家の玄関前へと舞い戻った。キッチンからは、食欲をそそる香ばしい匂いと、小気味よい包丁の音が響いてくる。 中へ入ると、ステフが手際よく昼食の準備を進めていた。以前の彼女にあった、周囲の顔色を伺うようなおどおどした雰囲気は消え、今では台所を預かる主としての堂々とした風格さえ漂っている。「ステフ、何か問題はないかな?」 俺の問いかけに、ステフは手を休めることなく、穏やかな微笑みを浮かべて振り返った。「はい。
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57話 黄昏の廃都と、澱む魔力

 仲間たちがそれぞれの役割に誇りを持ち、この拠点を「家」として育んでくれている。俺はリビングの窓から外を眺め、風に揺れる森の緑と、その上を悠然と舞うドラゴンの影を、満ち足りた気持ちで見つめていた。 俺は広場へと転移し、レナの指導のもとで短剣を構えていたフィオの隣へと降り立った。「フィオ、ちょっと一緒に来てくれるかな?」 声をかけると、フィオは無機質な、けれどどこか安心感を抱かせる瞳でこちらを見上げ、こくりと頷いた。「うん。だいじょうぶ。そらと、いく」 その隣では、教え子のリナと共に汗を流していたレナが、不思議そうにこちらを伺っている。「レナ、ちょっとフィオを借りていくね」「あ、了解っす。フィオ、また後で訓練の続きをやるっすよ!」 レナが元気に手を振ると、俺は彼女に改めて重要な指示を伝えた。「リナに短剣を使って、一人でも獣と渡り合えるように教えてあげてね。罠の方はもう完璧だから、あとは護身だけかな」「はいっ! 任せてほしいっす。リナのその可愛いツインテールが土まみれにならないくらい、ビシバシ鍛えてやるっす!」 レナはニカッと快活に笑い、隣で少し緊張した面持ちのリナの肩をポンと叩いた。リナも「よろしくお願いします!」と気合の入った声を上げ、短剣を握り直す。 そんな二人を背に、俺はフィオの手を優しく取った。「さて、行こうか」「うん……どこへでも」 フィオの小さな手が俺の手のひらに重なり、独特のぷにっとした柔らかく、心地よい体温が伝わってくる。俺は再び魔力を練り上げると、静かな思索と二人だけの時間を求めて、賑やかな広場から離れ、俺はフィオを連れて静かな家の中へと転移した。窓から差し込む午後の柔らかな光が、室内の木目を優しく照らしている。俺たちは並んで椅子に腰掛け、温かい紅茶を口にした。 立ち上る湯気の向こうで、フィオが静かにカップを傾けている。その穏やかな横顔を眺めながら、俺は先日感じた、あの奇妙な感覚を思い出していた。通常の魔物とは明らかに異なる反応。そして、どこか異質な、歪んだ魔力の残
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58話 廃墟の再来と、夜の廃都探索

「ああ、うん。すぐに直すよ」 俺が地面に手を触れると、魔法の光が波紋のように屋敷の奥へと広がっていった。崩落した天井が吸い込まれるように元の位置へと戻り、ひび割れた床は滑らかに修復され、散乱していた瓦礫は消え去る。ほんの数瞬のうちに、埃一つない清潔な一室が蘇った。 仕上げに、収納からふかふかの新しいベッドを取り出し、部屋の真ん中に設置する。「さあ、これならゆっくり寝られるでしょ?」「うん。すごい……一瞬で、綺麗になった」 フィオは目を丸くして、新調したベッドのシーツにそっと触れた。廃墟の静寂の中に、突如として現れた快適な寝室。外では魔物か獣の遠吠えが聞こえてくるが、この部屋の中だけは、拠点の家と同じような温かな空気が満ちていた。「おなかすいた……」 ふかふかのベッドに腰を下ろしたフィオが、きょとんとした表情で俺を見上げた。俺は「ちょっと待っててね」と笑い、収納魔法から今日の昼間にステフが用意してくれた料理を取り出しテーブルへと並べた。 じゅうじゅうと音を立てる焼き立ての肉、香ばしい匂いを漂わせる柔らかなパン、そして湯気が立ち上る熱々の野菜スープ。廃墟の冷たい空気の中に、突如として幸福な食卓の香りが広がった。「わあぁ……おいしそう」 フィオの瞳が、スープの湯気越しに期待で潤んでいる。いつもは静かな彼女だが、二人きりという状況のせいか、どこか甘えたいような、幼い雰囲気を纏っていた。「はい、フィオ。熱いから気をつけて、ゆっくりと食べてね」 俺がスープの入った器を差し出すと、フィオはそれを受け取らず、じっと俺の目を見つめてくる。そして、小さな口を僅かに開けて「あーん」と呟いた。「……そら、たべさせて」 潤んだ瞳で見つめられ、俺は思わず苦笑する。拠点の賑やかな夕食では見せない、彼女なりの甘え方なのだろう。俺はスプーンでスープを掬い、ふうふうと息を吹きかけてから、彼女の口元へ運ぶ。「はい、あーん」「ん&hell
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59話 屋根裏の迷子と、一人きりの隠れんぼ終了

 どこか透き通るような冷たさを湛え、月光に照らされた彼女の姿は、この世のものとは思えないほどに幻想的で、同時にひどく虚ろに見える。彼女は俺の接近に気づいているのかいないのか、膝を抱え、ただ静かに虚空を見つめていた。 探索魔法に反応したり消えたりしていたのは、彼女の存在自体がこの世界の理からわずかにズレているからなのだろう。俺が息を潜めて見守る中、紫色のツインテールが、夜風に吹かれたわけでもないのに不自然にふわりと浮き上がった。「こんなところで、何をしてるんだ?」 俺が努めて穏やかに声をかけると、少女の肩がびくりと震えた。彼女は膝を抱えていた腕を解き、警戒心を剥き出しにした大きな瞳で俺を見据える。「わたしは魔王の娘、サナだ。……見つかってしまったか!」 名乗ったその名は、あまりに不穏な肩書きを伴っていた。だが、彼女から放たれるのは禍々しい殺気ではなく、どこか寄る辺ない寂しさを孕んだ魔力だ。「そうだね、見つけてしまったね。ボクは、そら」 俺が地面に腰を下ろし、目線を合わせるようにして名乗ると、サナは自嘲気味に口角を上げた。「……わたしも、倒されるのか。父のように、な」「ん? 何か倒されるようなことを、する気なのか?」「わたしは、父の魔王にここの結界の中で、おとなしく隠れていろと言われただけだぞ。外は危ないから、決して出るなと……」 サナは紫色のツインテールをいじりながら、ふいと視線を逸らした。どうやら彼女は、魔王が最後に遺した「守るべきもの」だったらしい。この廃墟に漂っていた奇妙な反応は、彼女を隠し続けていた魔王の結界が、時間の経過と共に綻び始めていたせいだった。「何もする気がないなら、ボクも何もしないよ。サナが、ここで一人で大人しくしているだけなら、敵対する理由はないし」「お前……。ふん、変わった人間だな。……お前、わたしの父を倒したんだな。スゴいな! あの父の魔王を正面から打ち破るとは!」 サナは一転し
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60話 魔王の継承者と、無防備な着替え

「ゆっくり食べなよ。逃げたりしないから」 俺が苦笑しながら声をかけると、サナは「ああ、ありがと!」と短く返し、待ってましたとばかりにスプーンを握りしめた。 まずはスープを一口。口に含んだ瞬間、サナの身体がぴくんと跳ねた。「……っ! なんだこれ……熱いのに、すごく優しい味がするぞ!」 彼女は驚きに目を見開き、それからはもう、夢中だった。とろとろに煮込まれた肉を口に運ぶたび、サナの頬がリスのようにぷっくりと膨らむ。咀嚼するごとに「んーっ!」と幸せそうな鼻鳴らしを漏らし、紫色のツインテールが感情に呼応するようにぴょこぴょこと跳ねた。 パンをちぎってスープに浸し、大きな口を開けてパクリ。行儀がいいとは言えないが、その食べっぷりは見ていて気持ちがいいほどだ。口の端に少しだけソースがついているのも構わず、彼女は「美味しい、美味しい」と何度も繰り返す。「お前、こんなに美味いものを毎日食べているのか? 人間界の王様か何かなのか?」 サナは上気した顔で俺を見つめ、蕩けそうな笑顔を浮かべた。魔界では、ただ生きるための無機質な食事しかなかったのだろう。彼女は時折、食べ物が喉に詰まりそうになると、慌てて俺が差し出した水をゴクゴクと飲み干す。ぷはぁ、と小さく息を吐き、満足感に浸るその仕草は、どこまでも無邪気で可愛らしかった。「……ふふ、お腹いっぱいだぞ。こんなに幸せな気分なのは、生まれて初めてかもしれない」 サナは空になった器を見つめ、名残惜しそうに最後の一滴までパンで拭い取ると、ぺろりと舌を出して唇を舐めた。その満足げな様子に、俺の心もすっかり毒気を抜かれていた。「これから、どうするんだ?」 俺の問いに、サナは最後の一口を飲み込むと、少しだけ寂しげに視線を落とした。「わからない。わたしは……何をすれば良い? 父上がいなくなって、命令ももう届かない……」 はぁ……と、俺は内心で小さな溜息をついた。また面倒事を拾ってし
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