ホテルのスイートルームへ連れ戻された私は、ケビンによって実質的な軟禁状態に置かれていた。「明日のコンサートが終わるまで、部屋から一歩も出てはいけないよ。君の心を守るためだ」静かに鍵をかけられたドアの音。ケビンは私を愛している。その感情に偽りはないはずなのに、いまの彼の愛は私を絞め殺さんばかりの重圧となって覆いかぶさっていた。私はベッドの脇に座り込み、楽屋口で蓮が遺していった言葉を反芻していた。『支配と愛の区別がつかなくなっている……いまの君の瞳が。僕が父親に操られていた頃と同じ……歪んだ光を宿している』かつて私を地獄へ突き落とした暴君・神崎蓮。洗脳から解き放たれ、身を切るような後悔の中でただ私の幸せを祈る彼の姿と、私を救い出しながらも自らの所有物として縛り付けようとするケビンの姿。守る者と奪う者の立場は、いつの間にか皮肉にも反転してしまっていた。私は……このままケビンの「綺麗なお人形」になってしまうの……?ふと、私の視線はドレスのポケットに落ちた。ケビンが蓮を押し倒した混乱の隙に、私が必死で拾い上げ、隠し持っていたあのUSBメモリ。神崎家のすべての悪行と、私の家族を破滅させた真相が眠るデータ。蓮は、自分の過去も、神崎家の名前も、すべてを灰にする覚悟でこれを私に託したのだ。蓮は自分の罪から逃げず、影の中から私を守ろうとしてくれた。なら……私も逃げちゃダメだ。私は震える手でUSBメモリを強く握りしめた。翌日――支援基金設立コンサートの当日。超満員の観客が詰めかけた都内の大ホール。楽屋でヴァイオリンのチューニングを行う私のもとへ、完璧なタキシードを纏ったケビンが入ってきた。「体調はどうだい、音羽? 素晴らしいステージにしよう」ケビンの微笑みはどこまでも紳士的で美しかった。けれど、その瞳の奥には、私をどこへも行かせないという冷酷なまでの独占欲が張り付いている。「ええ、ケビン。最高の音を響かせるわ」私はまっすぐに彼の目を見返した。その瞳に宿る密かな決意に、ケビンは一瞬、不穏なものを感じ取ったように眉をひそめた。「ステージへ上がろう。僕のピアノに合わせて弾けばいい。君は僕の隣にいればいいんだ」「……行きましょう」眩い照明が照らし出すステージへと足を踏み出す。地鳴りのような拍手の中、私はあごの下に『黒のストラディバリウ
Huling Na-update : 2026-09-18 Magbasa pa