秋も深まり、澄み渡る青空から鮮やかな金色の光が降り注ぐ朝。私は、都心から少し離れた郊外にある施設の前に立っていた。重厚な鉄の門扉の向こうにそびえる、冷たいコンクリートの建物。ここが、蓮が長年にわたって自らの罪と向き合い、孤独な贖罪の日々を過ごしてきた場所だった。私の手には、彼が作ってくれたあの特注の肩当てと、あたたかいお茶の入った魔法瓶。そして、胸の中には言葉にならないほどの愛おしさと、激しく波打つ鼓動があった。隣に立つ西園寺玲奈さんが、私の震える肩を包み込むように優しく囁く。「音羽さん、大丈夫よ。……今日からはもう、誰の目も、アクリル板も、面会時間の制限も二人を隔てるものはないわ」「ええ……。なんだか、まだ夢の中にいるみたいです」かつて神崎家の地下室で、恐怖と洗脳に囚われていた日々。ケビンとの狂気に満ちた完璧な演奏と、その果てに起きたあの惨劇の夜。そして、傷ついた腕を抱えながら、血を吐くような思いで探り当ててきた自分の音楽。振り返れば、私たちの歩んできた道のりは決して平坦ではなかった。互いに深く傷つけ合い、破滅の縁まで追い詰められた。けれど、私たちは逃げなかった。蓮は自分の罪と正面から向き合い、神崎家の負の遺産をすべて清算するために身を削った。私もまた、自らの傷を受け入れ、誰かの心に寄り添う旋律を紡ぐ奏者として成長してきた。この数年という離れていた時間は、私たちが破滅的な共依存から脱却し、一人の自立した大人として対等に向き合うために、どうしても必要な「再生の季節」だったのだ。ギギ……と、重い金属音が静寂な空気に響き渡った。鉄の小さな扉がゆっくりと開き、中から一人の男が足を踏み出してきた。紺色のシンプルなスーツを身に纏い、手には小さなボストンバッグを一つだけ持った背の高い男性。すっきりと整えられた黒髪、削ぎ落とされた無駄のない体躯。かつての派手な贅沢さや、他人を寄せ付けない冷酷な威圧感は綺麗に消え去り、そこにはただ、どこまでも澄んだ眼差しを持つ一人の男が立っていた。神崎蓮――。彼は一度立ち止まり、頭上の青空を眩しそうに見上げた。深く息を吸い込み、外の空気を身体いっぱいに巡らせる。そして、ゆっくりと視線を落とし、数歩先に立つ私を見つけた。時間、が止まったかのようだった。秋風が二人の間を吹き抜け、散り始めたイチョ
Dernière mise à jour : 2026-10-10 Read More