面会室の冷たい机の上に突っ伏し、激しい慟哭を上げ続ける蓮の姿を、老弁護士は静かに見つめていた。過呼吸を起こしそうなほどに身体を震わせ、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃに濡らす男。そこには、かつて神崎家の次期当主として冷酷に他者を踏みにじっていた「神崎蓮」の面影はどこにもなかった。「……神崎さん。あなたの心の中で何が起きていたとしても、あなたが音羽さんに行ってきた暴力や脅迫、監禁の罪が消えるわけではありません」弁護士の静かで厳しい言葉が、蓮の頭上に重く降り注ぐ。「わかって……いる……っ。わかっているんだ……! 僕は……許されるはずがない……っ。音羽から……すべてを……奪った……っ!」激しく頭を打ち付けるように机に擦り付けながら、蓮は掠れた声を振り絞った。父・トオルから長年にわたって施された「支配と執着」の洗脳。幼い頃、離れの窓辺で聞いた音羽のヴァイオリン。あのどこまでも美しく、儚い音色に救われたのは、本当は自分の方だったのだ。その純粋な初恋の記憶を「屈服させるべき敵」「所有物」としてすり替えられ、疑うこともなく彼女の翼を折り、暗闇へと閉じ込めてしまった。自分が愛したかった少女を、己の手で最も深い地獄へ突き落としたという容赦のない事実。それが、真実を取り戻した蓮の胸をどこまでも深く、惨酷に抉り出していた。一方、パリ――シャンゼリゼ劇場の楽屋。窓の外には、セーヌ川の夜景とまばゆく輝くエッフェル塔が広がっていた。明日に控えたパリ公演のリハーサルを終え、私はケビンと共に楽屋で温かいカモミールティーを飲んでいた。「お疲れ様、音羽。パリ管弦楽団のメンバーも、君の音色の透明感に驚いていたよ」「ありがとう、ケビン。でも、フランスの伝統的な音の響きに追いつくのに、少し集中力がいったわ」私はそう言って微笑みながら、胸元のおばあ様のサファイアのペンダントにそっと触れた。世界中を巡り、多くの人々に拍手をもらうたび、私の中の過去の傷痕は癒やされていくのを感じる。けれど同時に、時折胸の奥がキュッと痛む瞬間があった。神崎家での暗い記憶。私を支配しようとした神崎当主、そして……私を追い詰め、最後には狂気の底へと落ちていった神崎蓮。なぜ、あんなにも私に執着したのだろう……。冷酷で歪んだ瞳。けれど、ときおりその奥に覗いていた、言葉にならないほどの深い孤独と苦
Huling Na-update : 2026-09-07 Magbasa pa