久々に人と並んで歩いた気がする。隣には俺の大好きな沙耶が笑顔でこちらを向いている。桜木町駅まで行き、ショッピングモールに入っている映画館へ向かう。映画を見た後はそのまま買い物や食事をしようと約束する。「映画館にポップコーンとオレンジジュースってベタだなって思うけど、ベタを楽しめる時間って心から楽しいなって思えるんだよね」沙耶の言う通りだ。ベタで当たり前な日常がどれだけ貴重か。顔を失った今、身に染みるほど理解できる。指定の席に座り、映画の開始まで待つ。待つ間も何でもない雑談をして過ごした。俺の話に沙耶はよく笑ってくれる。映画が始まる時間となり、劇場も暗くなった。「始まるんだから帽子取れよ。見えねえんだよ」突然、後頭部のヘッドレストが強く揺れた。後ろを振り向くと、高校生くらいの二人の女の子が俺を睨んでいた。体の芯が強張り、一気に血の気が引いていく。「帽子取れって言ってんだよ」ずっと頭を隠すためにニット帽を被ったままだった。映画を選んだことで、こんなピンチに陥るとは予想していなかった。だが、冷静に考えれば普通帽子は取る。沙耶との外出で浮かれておりリスクを忘れていた。仕方ないのでニット帽を外す。顕になった頭部を見た二人の女の子は暗くてもよく分かるくらい顔面蒼白になる。「すみません、気をつけます」静かな空間の中で片方の子が絶叫し始めた。彼女の叫びをきっかけに周囲がざわめき始める。劇場全体が大きな騒ぎとなり混乱し始めた。「亮君、出た方が良さそうだよ」隣にいた沙耶の比較的冷静な声が俺を正気に返らせる。ニット帽を取り爛れた頭皮が露わになっただけではなく、帽子で陰になっていた目元も晒されたようだ。劇場の暗さの中だと余計に化け物じみて恐怖心を煽っただろう。沙耶に引っ張られる形で席の間を抜けて出口へと向かう。俺が通ると近くにいる者たちは悲鳴を上げる。──ナニアレ。ヤダキモチワルイ。ヤバスギ。ドウナッテイルノアレ。ウワァサイアク。ヤダミチャッタ。彼女は劇場の外に出てすぐに俺の身を案じてくれた。彼女もきっと不快だったはずなのに、心配かけさせて申し訳なく情けなくなる。「ごめん、せっかく楽しみにしていた外出なのに」手足が震えてまともに立っていられない。へたれ込んでいると廊下の奥
Last Updated : 2026-01-20 Read more